トレード・オフ・シンドローム
今日は質問箱にこんな匿名のご質問をいただいたので、このnoteを使って回答を論じたいと思います(ご質問文の引用は質問者様に許諾を取っています)。
現職に対して疑問を持ち、自分にとっての適職を探すうち、デザインの世界にたどり着く人は多いと思います。僕はプロダクトデザインについては門外漢で恐縮なのですが、プロダクトデザインは単なるモノのデザインではなく、人の行動や暮らし、社会の構造をより良く作り変える働きがあり、大きな価値を社会に寄与できる素晴らしい仕事だと思います。
では、本題部分に焦点をあててみます。
ご質問文の構造をよくみますと「〜した方がいいのでしょうか?それとも〜したほうが良いと思いますか?」となっています。ご質問者様に限らず、質問箱に寄せられるご質問の多くに、この「〜したらよいのか?それとも〜したらよいのか?」という構文が見受けられます。
何かを取ると、別の何かを失う、こういった相容れない関係にあるものを「トレード・オフ」といいます。例えば「将来海外に移住すべきか?日本に住み続けるべきか?」こういった質問が、わかりやすいトレードオフの相談です。
ところがキャリアの悩みにおいて、こういった「トレードオフ相談」の大半が、実際のところ完全なトレード・オフの関係にないことが多いのです。ここに寄せられた質問者様のご相談も単純なトレード・オフの関係ではないと思います。コンペに応募することも、自らのプロダクトを販売していくことも、どちらも行動としては両立することができるからです。
では、なぜこういったご質問が起きるのか、質問者様の気持ちの背景を考えてみます。おそらく多くは「可処分時間」の問題でしょう。人間に与えられた時間は平等・有限です。だからその中でこそ、効率良く時間配分をしたい、どうすれば効率よくキャリアを積み上げていけるのだろうか、そんな悩みがご質問の意図として汲み取れます。
しかし実際どちらの行動も質問者様にとって前に進んでいく行動には違いがないのです。そしてどちらが将来的に効率よく成功へと近づけるか、本当のところは質問者さん含めて誰もわからないのだと思います。コンペで大きな賞を獲るかもしれないし、草の根的に販売していた商品がバズって大ヒットするかもしれない。あるいは期待していなかった全く別の意外な行動が、キャリアを大きく躍進させるきっかけになるかもしれない。
しかしどちらの行動をとったとしても、確実にキャリアを積み重ね、質問者様が前に進んでいることは確実なのです。全ての行動は「経験値」というパラメータを上げることつながることは、ほぼ確実なのですから。
時間的に追い詰められたり、精神的に余裕がないときにこの「トレード・オフ」の思考に陥りやすいです。しかも実際はトレード・オフではないのに、追い詰められた状況だと、つい勝手にその状況をトレード・オフだと思い込んでしまうのです。
僕らはご飯を食べたり、仕事をしたり、移動をしたり、夜睡眠をとるといったように、単一の行動で日々の時間を埋めているのではありません。限られた可処分時間を自分なりのバランスで配合しているわけです。トレード・オフの頭になったら「行動とはバランスと配合」だ、ということを一度思い返してほしいのです。
今日はコンペ用の作品を考えてみよう、今日は製品のアイデアをSNSに投稿してみよう、チャンネルを切り替えて日々を過ごすことは、気持ちのリフレッシュになり双方の行動に刺激を与え合います。また、同時に1つの行動に掛かるリスクを分散していることにもなります(行動を将来への自己投資と考えると、分散投資ということになります)。将来先に何が成功につながるかわからない、と述べましたが、なるべくその可能性の経路(チャネル)を増やしておくことはさまざまな思いがけない「救い」を生みます。
最初から単一種目と決めてトップランナーを目指せる人はそうそういません(そんな人なら、きっと誰にも何も聞かずもうはるか先を独走しているでしょう)。私たちはいつも自分の才能や価値を探りながら、迷いながら生きています。追い詰められてトレード・オフな考えに陥ったときは、一度それらを並べてみて、人生の選択とは何かを捨てることではなく、配分・バランスを決めていくことなのだとイメージすると楽になれるのかもしれません。
PS
この質問文の引用の許可のために質問者様ご本人とやりとりしましたが、私がこの回答をするまでもなくたくさんのトライアルをされている方でした。少しだけ気持ちを切り替えてあげれば、将来長く健やかに前に進み続けられる才能の持ち主だと思います。
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