見出し画像

建築×テクノロジーの歴史と未来|KURA COCOLONO取材編

建築の発展はテクノロジーの発展なくしては語れません。
それでは、「AIが人の仕事を奪う」などと言われる未来に建築家はどんな存在になっているでしょうか?
その手がかりを探るため、未来に投資する建築家・竹鼻良文さんの活動に迫ります。

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。
先日、noteユーザーでもある建築家・竹鼻良文さんがオーナーを務めるKURA COCOLONOに行ってきました。
竹鼻さんについてはこちらの記事で紹介しているので、未読の方は先に読んでいただけたらと思います。

テクノロジーが「流行りである」可能性も冷静に捉えながらも、テクノロジーが発展し建築の職能がAIに代替されるかもしれない未来を見据えて活動する建築家です。
新しいテクノロジーをつねに敏感にキャッチし建築の設計に応用するのとは異なる方法でテクノロジーの進化と向き合う取り組みを取材しました。

KURA COCOLONOとは?

KURA COCOLONOは、山梨県北杜市の自然豊かな土地に建つ空き家を竹鼻さんがデザインしメンバーである香川さん(KAGAWAYOSHIKI/DESIGN)と改修した体験型ギャラリー。
竹鼻さんはこの空き家を活用したいというお話を受けたとき、ここでしか体験できないオリジナルコンテンツが必要だと考えたそうです。
過疎地にどれほど優れた建築が建っていようとも、それだけではなかなか人は来てくれませんよね。

では竹鼻さんが生み出したのは、どのようなコンテンツなのでしょうか?

KURA COCOLONOでは全長1mほどの移動可能な陶芸窯を用いて陶器を焼く体験ができます。

この陶芸窯は人気陶芸家の方とコラボレーションして共同開発したもの。
一般的には陶芸体験というと、粘土を手でこねたりろくろを回したりして、陶器の形を作るイメージが強いかもしれません。
焼く工程は体験させてもらう施設の人におまかせしますよね。

しかしここでは、陶器の形を作る工程ではなく、焼く工程を体験することができます。
体験者自身の手で燃料となる炭を投入しながら陶器を焼いていくのです。
自分の手で陶器を焼く体験ができる場所というのは、日本中探してもなかなか見つからないのではないでしょうか。
なぜかというと、このような原始的な焼成方法では温度の管理や空気の状態などの条件が変わることで焼き上がりの状態も変わってしまい、コントロールするのが難しいからです。
KURA COCOLONOの焼成体験では、竹鼻さんやコラボレーションした陶芸職人さんですらどのような焼き上がりになるかわからない、その時々の偶然性を大切にしています。

教えてもらった手順にしたがって、素人なりに燃料のコントロールをする。
当日の空気に含まれる成分や温度の違いが、その日その時にしかない条件として作用する。

こうした予測不可能な条件によってその時にしか作ることのできない、世界にただひとつの「一点モノ」を超えた「唯一無二」の陶器が生まれるのです。

またKURA COCOLONOでは、大量生産された廃棄予定の陶器を焼きなおすことで新たな価値を付加するという試みもおこなっています。
最初につくられたときに塗布された釉薬が、焼きなおすことで一度溶け新たな成分が加わりまったく別物に生まれ変わります。

写真提供:KURA COCOLONO

このような取り組みをしているのは世界的にもKURA COCOLONOだけとのこと。
この活動はLEXUS DESIGN AWARDという国際的なデザインの賞も受賞しており、ここへ行けばだれでもそのお墨付きを得た陶器をつくる体験ができます。

ここでは自然や人の手といった、偶然性を孕んだ原始的な方法を用いることで、テクノロジーに代替されることのない陶芸のあり方が実現されています。
ここで作られた陶器の形や成分を分析しても、まったく同じものを作ることができないわけです。
そしてKURA COCOLONOで焼いた陶器を「楽杜焼(らくとやき)」と名付け、ここで作られた陶器を「楽杜焼」の陶器として認定しています。
ゆくゆくは海外で販売するといった展開も考えているそうです。

竹鼻さんは空き家を活用するために、移動可能な陶芸窯でできる新たな陶芸体験というコンテンツを持ち込み、成長させてきました。
ここでは過疎地の空き家ということで、都心では実施できない火を使った窯焚き体験が選ばれましたが、条件が変わればまったく異なるコンテンツになったでしょう。
与えられた条件に対して、どのようにすればそこにしかない価値を生み出すことができるかを考えていくのが、建築家としての竹鼻さんの回答なのです。
そしてそれらの実績が積み重なっていくことが、竹鼻さん自身のブランド価値を高めていくことにつながっていきます。

前回の紹介記事で、竹鼻さんは現代的な意味でのarchitectなのではないかと書きました。
竹鼻さんのこうした活動は、一見建築家の仕事の枠を超えているようにも見えます。
しかし「建築家」の英訳に当たるarchitectという言葉を語源に遡って、建築だけでなくアートやサービス、コンテンツそしてデザインなどを生み出す人全般を指す言葉として定義しなおしてみると、違和感なく受け入れられるのではないか。
そしてKURA COCOLONOの一連の体験を、「陶芸体験」としてではなく、「architect竹鼻良文によるarchitecture」のひとつとして捉えてみることで、テクノロジーが進化した未来に求められる建築家のあり方のヒントを見つけ出せるのではないか、と思っています。

それでは、前置きが大変長くなりましたが実際の行程に沿って、KURA COCOLONOでの体験をレポートしていきたいと思います!

移動も重要なコンテンツ

今回取材するにあたって、竹鼻さんからひとつだけお願いされたことがあります。
それは、KURA COCOLONOの住所は書かないこと。
そう、住所非公開なんです。
なぜかというと、竹鼻さんと共に目的地に向かう、その道中もまた重要なコンテンツだからなんですね。
行く前には想像もつかなかったさまざまな発見がそこにはありました。

今回は朝8時に東京の三軒茶屋で集合、そこから車で約2時間半かけて山梨県北杜市にあるKURA COCOLONOへ向かいます。
メンバーは竹鼻さんとKURA COCOLONOスタッフの香川さん、そして僕と妻の4名です。

実はおふたりとはこの日が初対面。
丸一日行動を共にすることはわかっていたので、一度事前にお会いしておくべきだったかなと少し後悔しつつ当日を迎えたのですが、完全に杞憂でした。
竹鼻さんの柔和な人柄もさることながら、とにかく話しの引き出しが多くてお話しているのが楽しい。
後部座席に座る僕らは終始前のめりになって竹鼻さんとお話しているうちに、あっという間に北杜市に到着していました。

取材記事を書く、というのが今回の目的だったため、まずは竹鼻さんのお仕事についてや建築について、また竹鼻さんが思い描く未来のお話などについて伺いました。
印象的だったのは、竹鼻さんは10年以上も前に建築家の仕事がテクノロジーに代替されるという未来を予測して建築の実務に従事することをやめ、自分にしか生み出せないブランド価値を構築するためにアートの世界に飛び込んだというお話。
当時すでに結婚していた竹鼻さんは、「現在の生活を支える」奥さんと、「未来の生活を支える」竹鼻さん、という役割分担を決めたそうです。
その時に竹鼻さんが見据えていたいたのは20年後の未来。
20年後に社会から必要とされるために、目の前の仕事を手放すという決断は、そうそうできるものではないでしょう。

未来への投資は少しずつ芽を出しはじめ、竹鼻さんのブランド価値を高めてくれるようなお仕事につながってきているそうです。
実際、進行中のあるプロジェクトのお話も聞かせてもらいましたが、おそらくだれもやったことがないであろう、ワクワクする取り組みです。
竹鼻さんが照準とする未来はいまから8年後、2026年ころの未来だそうですが、本当にそのような未来が訪れたときに竹鼻さんがどのようなarchitectになっているか、とても楽しみですね。

この竹鼻さんの生き方は、かなり極端な方法ではありますが、先行きの見えない現代においてできる範囲で小さくとも未来に投資していくことは重要だと思います。
クリエイティブに関することだけでなく、生き方としても考えさせられることがたくさんありました。
ロンロさんの活動についても、どのようにしていけばより建築を盛り上げていけるか、一緒に考え、さまざまなヒントを得ることができました。

今回取材したのは、64,800円のコース。
そこから往復の交通費や燃料代ほかの実費を差し引いたものが実質的な体験料になるわけですが、そこには竹鼻さん・香川さんと丸一日一緒に過ごす権利も含まれています。
具体的な悩みを抱えている人や試してみたいアイディアがある人はもちろん、竹鼻さんがどのように世界を捉えているのか、お話を聞くだけでも十分おつりがくると思います。
建築を軸にさまざまなことにアンテナを張り、情報収集するだけでなくひとつひとつの事象に対して深く考察し実践しているarchitectだからこそ、コンテンツと成立するんですね。

山梨の自然、文化そして・・・・・・

さて山梨に到着したところでまずは腹ごしらえ。
ランチは事前に希望をお伝えし、古民家を改修したレストラン「ふらここ食堂」でいただきました。

水がおいしいからか田舎で食べる食事は野菜からなにから素材が良く、なにを食べてもおいしいですね。
竹鼻さん、香川さんおススメのお蕎麦屋さんがあるそうで、そちらもとても気になります。

高台からは富士山もきれいに望めます。

その後、北杜市で古くから営業を続ける酒蔵、七賢さんを見学。
ここでは七賢さんで出しているさまざまな日本酒の飲み比べができます。

すぐそばには山梨定番のおみやげ、信玄餅で有名な桔梗屋の販売店があり、ここでしか買えない生信玄餅もゲットしました。

これだけでも日帰り旅行としては盛りだくさんの内容で、満足してしまいそうな勢いでしたがここからが本番。
お楽しみ用の食材も買い込み、いよいよKURA COCOLONOへ到着です。

待ちに待った、窯焚き体験

香川さんが窯焚きの準備をする間、竹鼻さんからこれまでここで焼いた作品や、アクセサリーのご紹介。
陶芸の知識がまったくない僕に、陶芸品の楽しみ方や、ここで焼いた作品がどのように評価されているのか、レクチャーしてくださいました。

そして「KURA COCOLONOは来てくれた方と一緒につくっていくものだから、思うところがあれば何でも言ってほしい」と繰り返す竹鼻さん。
この時はいまいちピンときていませんでしたが、後々になってその意味がわかってきます。

さて準備が整い、いよいよ焼成スタートです!

この日は素焼きのお猪口と焼きなおしの湯のみがひとつ。

素焼きのお猪口には好きな色の琉球ガラスを入れ、焼き上がり後の色を決めていきます。
これを窯の中にセットしていきます。

窯の機構は写真右上の穴から燃料となる炭を投入していき、右下の穴からドライヤーで空気を送り込むことで熱された空気が窯の中を通って左上の穴から出ていくというもの。

その過程で炭がガラス質に変化して陶器に吹き付けられ、表面がコーティングされます。
陶器が置かれた中央部分の温度は1300度ほどにまで上がり、高温をキープするために数分おきに炭を投入する作業を自分の手で行います。

炭の投入のタイミングは自分の判断で行いますし、投入する炭のサイズによっても窯の中の温度は常時めまぐるしく変わるそうです。
またその日の気温や湿度が窯の温度変化に影響し、空気に含まれる成分のちょっとした違いが表面のコーティングの表現も変わってきます。
そのような厳密な管理の難しいさまざまな条件によって、その時その場所でしか作ることのできない唯一無二の陶器が生まれるというわけです。

炭を投入する香川さん。
これを自分の手でコントロールするというだけでもテンションが上がります。

高温とはいえ噴出口から窯の中を覗き見ることもでき、熱せられて光り輝く陶器からは神々しさすら感じました。

事前に用意してもらった炭を丸々一箱分使い切ったら完成です。

ふたりがかりで陶器を取り出します。

焼きはじめからここまでおよそ2時間。
どんな仕上がりになったか、ワクワクドキドキですね。

あとは炭の温度が下がるのを待って片付ければ今日のプログラムは終了…といいたいところですが、実はもうひとつのお楽しみが。
事前に買っておいた食材をアルミホイルに包み、窯の中に投入していきます。

陶芸窯で焼いた野菜や果物を食べることができるのは、おそらく日本でもここだけでしょう。
素材本来の良さがより際立つのでしょうか、これは破格のおいしさでした。

完成した陶器がこちら。

焼成前のものと比較すると、青やグリーンの色が比較的よく出ているのがわかります。
側面に見えるまだらの斑点模様は、炭の成分によるもの。
表側と反対側ではまったく表情が異なりますね。
こうした陶芸品特有の模様を「風景」と呼び、自然界の景観に見立てて鑑賞するのだそうです。
陶芸の良し悪しはまったくわかりませんが、これを自分の手で焼いたのだと思うと愛着が湧いてきます。
竹鼻さんからも素晴らしい一品になったと褒めていただき大満足の仕上がりでした。

KURA COCOLONOはだれのもの?

1日の行程もほぼ終わり、窯で焼いたソーセージや玉ねぎ、りんごをつまみに、七賢さんで見繕ってきた地酒をいただきます。

2時間ほど窯のクールダウンを待ちながら雑談、のつもりが気づけば4時間も話し込んでいました。
話題の中心は打って変わってこれからどう生きていくかという人生について。
そして竹鼻さんの人生にとって重要なポジションをしめるKURA COCOLONOの活動について。

建物には電気を引くことなく改修したため、暗闇のなかランタンの灯りがお互いの顔だけを照らし、会話に没頭していきました。

竹鼻さんにとってこの活動は副業の副業という位置づけで取り組んでいるそうです。
いまの生活のための本業、そしてそれを支える副業に対し、副業の副業は未来への種蒔き。
10年以上前に竹鼻さんが未来のために投資をはじめたのと同じように、KURA COCOLONOはいまの竹鼻さんにとっての未来への投資ということ。
これをさらに育てていくためにどうしていくとよいか、4人で議論をおこないました。

ここでようやく、「思うところがあれば何でも言って」と言われた意味がわかりました。
独自のコンテンツを一から生み出すことに取り組んできた竹鼻さんは、次なる挑戦として「みんなと一緒にオリジナルコンテンツを育てる」ことに取り組んでいるのではないでしょうか。
自分で焼いた陶器に思い入れをもつように、自分で育てたコンテンツにはただ参加するのとは違う思い入れをもつでしょう。
そうして参加者一人ひとりが主体的にこのプロジェクトに関わっていくことで、いつか想像もつかないようなコンテンツに成長するのかもしれません。
そう考えてみると、このプロジェクト全体が、architect竹鼻さんにとってのarchitectureといえるように思いました。
テクノロジーには生み出すことのできない価値がここにはあるのではないでしょうか。

窯焚き体験だけですでに十分魅力的なコンテンツですが、関わった人一人ひとりが知恵を絞ってさらに良くしていく方法を考えることで成長していく。
たとえば、焼成後にゆっくり時間を取って竹鼻さんと語り合う時間を設けることができたのは、以前訪れた方の提案によるもの。
ほかにもKURA COCOLONOをイメージしたオリジナルコーヒーをプレゼントしてくれたコーヒーマイスターの方のお話などなど。
そうしたお話を聞きながら、なにか良いアイディアはないか、そして僕自身はなにを提供できるだろうかと考えはじめていました。

窯焚き体験はすでに完成されたコンテンツだから、1泊2日のツアーにしてより自然や温泉など北杜市の観光資源も楽しんでもらうプランはどうか。(これはすでに計画中とのこと)
陶芸窯を使った料理など世界中探してもここにしかないだろうから、料理研究家とコラボしてオリジナルレシピを考えてみるのはどうか。
これだけ多岐にわたる知識と深い洞察力をもつ竹鼻さんと、1日過ごせるというところをもっとアピールしてもよいのではないか。
そうすれば新事業を立ち上げたい経営者など、ビジネス面でも活用できるのではないか。
実際に訪れた人にとって6万円は安いと感じるけれど、ホームページの情報だけではその価値は伝わらない、どのようにすればその価値を伝えていけるかが重要なのではないか。

そんな僕の拙いアイディアを、竹鼻さんはひとつひとつ丁寧に聞いてくれ、それならこんな展開もありかもしれないね、とまさに「一緒に考える」を体現していました。

なにより絶対に面白い取材記事しよう、そしてそれを読んでだれかひとりでも実際にこの体験をしてほしいと切に思いました。

いつかさらなる成長を遂げたKURA COCOLONOに、また訪れることができたら良いなと思っています。
それは竹鼻さんの言う8年後の未来に、答え合わせのようにお互いの近況を語り合う会かもしれないし、それよりずっと前に、思いがけない人生の岐路に立ったとき、相談に来るのかもしれません。
いずれにせよその日まで途切れることなくだれかがここを訪れ、おみやげを置いていくという循環が続いていたら最高です。

こうして1日のプログラムはすべて完了し、あとは再び香川さんの運転で帰路に着きます。
興奮冷めやらぬまま北杜市を後にした僕らですが、帰りの車内では友人同士の会話のような、楽しいおしゃべりが続きました。

おわりに

この日の体験を経て、僕はいま自分自身にとってのKURA COCOLONOについて考えています。
それはこのnoteの活動かもしれないし、そこからさらに発展させてイベントなどのリアルな場でのコンテンツかもしれません。
ただひとつ、おぼろげながら考えているのは、僕自身が発信することだけでなく、僕と同じように建築を愛する人たちを巻き込んで、一緒にこの活動を育てていけたら良いな、ということ。
チャレンジしてみたいことだらけでなかなか手が付けられていませんが、応援していただけたら嬉しいです。

竹鼻さんの活動やKURA COCOLONOについてはご本人のnoteに詳しいので、ぜひ竹鼻さんのnoteもフォローして下さいね!!


最後まで読んでいただきありがとうございます。サポートは取材費用に使わせていただきます。