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世界遺産ル・コルビュジエを見に行こう

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。

2016年7月、東京・上野の国立西洋美術館が東京では初めてとなる世界遺産に登録されましたね。
皆さんはなぜこの美術館が世界遺産に登録されたか、ご存知でしょうか。
近代建築の3大巨匠のひとりと言われる世界的建築家、ル・コルビュジエが設計した建物だから? 建築のデザインが優れているから? 建築の歴史にとって重要な作品だから?
どれもちょっとずつ合っているようで、正解とは言い難い回答です。
もしかすると、世界遺産登録をきっかけに美術館に訪れてみたけれど、意外と普通の建築でがっかりした、という方もいるかもしれません。
確かに同じ近代の世界遺産建築であるサグラダファミリアやシドニー・オペラハウスなどと比べると、唯一無二感はあまりないデザインですよね。
実はこの「普通の建築」という感覚を、ル・コルビュジエの活躍した近代ヨーロッパから時代も場所も大きく隔てた現代の日本に生きる私たちに根付かせたこと自体が彼の成し遂げた成果なのですが、
この国立西洋美術館がなぜ世界遺産に登録されたのか、その理由を理解することが建築の面白さをより深く知ることにつながるのではないかと思っています。
ここをしっかりまとめておくと、今後の記事の内容を理解してもらう上でも意味がありそうなので、考えてみようと思います。
※以下、個人の理解による曲解や簡潔に説明するために抜け落ちる部分が多数あるかも知れません。お気づきの点はコメント欄でご指摘いただけますと読者の皆様にも周知できるかと思います。

近代建築運動=モダニズム ってなんだろう

モダニズム(=近代建築運動)っていう言葉、聞いたことがありますか。
ル・コルビュジエのことを説明するにはさけては通れない、建築の重要なキーワードです。
建築の世界ではヨーロッパにおける建築史が重要とされています。
日本建築ももちろん大切ですが、明治維新以降、西洋の建築をどんどん輸入する方向へ進み、大学で学生に設計を教えるポジションにも、西洋で建築を学んだ教授が就くようになります。
明治以降の日本建築の歴史は、西洋の建築をいかに日本でつくるかの歴史だったと言っても良いかもしれません。
そしてその過程で、西洋で生まれた建築のつくり方・考え方を、日本の気候や日本で採れる建築素材、日本的なコミュニティーのあり方などといった日本性とどう共存させていくか、その試行錯誤の中で建築における日本的なものが追求されてきたのです。
その辺りの流れは建築に限らず絵画や音楽、舞台芸術などさまざまな芸術分野で共通するものかもしれませんね。

さてその西洋建築史において、重要な起点になるのがモダニズムという19世紀末〜20世紀にかけて起こった運動です。
当時のヨーロッパは、相次ぐ政治的な体制の変化と産業革命による技術革新という激動の時代にありました。
人びとの生活は大きく変わり、都市部には人があふれ劣悪な環境が生まれ、鉄やガラス、コンクリートといった新しい素材が建築に使えるようになり、これまでの王政やブルジョアのための芸術ではなく、市民のための芸術が求められていました。
そうした時代にそれらすべての建築的課題を一手に解決し新しい建築をつくろうとはじまった運動が、建築におけるモダニズムです。

当時、建築の表現は歴史主義とよばれる、過去に流行したさまざまな様式を、建築の用途によって使い分ける方法が一般的でした。
教会ならゴシック、オペラ座にはバロック、さらにはひとつの建物に複数の様式が転用される折衷様式といったデザインも生まれ、これ以上新しい様式も生まれないという状況にありました。
さらには社会の変化によって、それまでなかった新しいビルディング・タイプも生まれるようになりました。
階級によらず誰もが見に行くことのできる美術館も、それまではなかったもののひとつです。
こうした日夜生まれる新しいビルディング・タイプごとに相応しい様式をそれぞれに考えるのではなく、どんな建物にも適用できるまったく新しい建築デザインを生み出そうとしたのです。
様式につきものの装飾を排除し、幾何学的な造形をベースとした表現は、歴史主義への反発から発生したものです。(下は代表的な折衷様式の建築、ブリュッセル最高裁判所)

また都市に一極集中する労働者が、限られた土地で快適に暮らすことができるように、合理的で機能的な空間が考え出されました。
同じ平面をもつ住戸を多数積み重ねることで、狭い敷地でも多くの住民が暮らすことのできるマンションも、そうした要請に応えるかたちで生まれたアイディアです。
1つのユニットを設計してしまえば、いくらでも増殖させることのできるこの方法は、戦後日本の復興期や高度成長期の開発においても応用されました。
今私たちが安くて快適なアパートやマンションを享受できるのも、この時代の建築家たちが知恵を絞ったおかげなのです。
個々のマンションを設計しているのはもちろん現代の設計者ですが、その考え方の根本には上述のようなモダニズムの考え方があり、それをベースにしているからこそ効率的に設計/施行ができるんですね。
すべての建物をゼロから考え、その都度どのように建てるかを考えていたら、これだけ日々建築が建てられる状況はなかったかもしれません。

そして、上記の芸術的な要請、社会的な要請に応える新しい建築を可能にしたのが、鉄・ガラス・コンクリートといった新素材でした。
礎石造とよばれるレンガを積み重ねてつくるそれまでの工法では、壁面が構造を支えるため大きな開口が確保できず、また建物の高さにも限界がありました。
しかし鉄骨造や鉄筋コンクリート造の登場により、柱と梁で構造をもたせることが可能になり、大開口や積層させる建築が可能になったのです。
ガラスも近代以前はステンドガラスなど、一つひとつの面を細かく細分化していましたが、面積の大きなガラスをつくることができるようになりました。
こうした技術革新により、明るく開放的な空間が実現できるようになり、当時の建築家が思い描いた通りの建築をつくることができたのです。
逆に言うと、そうした社会の状況があって初めて、鉄やガラス、コンクリートの有効な活用方法が見出されたともいえるかもしれません。
いつの時代も新しい技術は適切な活用方法を考えだす人がいて初めて社会に広まって行くので、これから先どんな技術がどんな建築に使われるのか、楽しみですね。

芸術的な停滞、社会的な課題、そして技術革新、この3つの条件を一気に解決する新しい建築運動が、モダニズムでした。
ヨーロッパではじまったこのモダニズムは、全世界に広まって行きます。
前述したようにモダニズムの建築家だけでなく、建築の考え方として伝播して行き、現代においてはこの考え方を知らずに建築をつくることはほぼ不可能なくらい、当たり前のものとして建築に関わる人の共通認識とまでになりました。
一見モダニズムの原理とはまったく異なるように見えるデザインであっても、これに反発するか、モダニズムを地域性と融合させたものか、モダニズムを乗り越えようとするものか、いずれにしろモダニズムを起点に考えると理解しやすかったりします。
今後の連載のためにまとめようという意図がお分かりいただけるかと思います。
そしてこのモダニズムにおいてル・コルビュジエがどのような役割を担ったのか、それが今回のテーマである国立西洋美術館が世界遺産に登録された理由と大きく関わるところなのですが、少し長くなってしまったので後編にまとめます。

最後まで読んでいただきありがとうございます。サポートは取材費用に使わせていただきます。