見出し画像

第五十二話 野生動物に遭遇する

昨晩あった不思議な出来事は自分の心の内に仕舞っておいて、最初に見た「バク」の話のみを浅野さんにする。

未だにあの不思議な出来事が、夢のように感じていたので。
 
「何で起こしてくれないんですかー!?」
 
「仕方ないですよ。だって完全に熟睡だったし。起こしちゃ悪いじゃないですか」
非常に悔しがる、浅野さん。

朝はブンブンの階段を降りてきて、固形燃料で火を焚き、お湯を沸かしラーメンやパンなどを食べる。
この湿気でパンなどカビっぽくなってきて、そろそろ本気でヤバめかもしれない。

朝食を取ると、再び荷物をまとめ、今度は更に奥地へと向う事にする。
 
オージーのカップルともう一人の日本人はこのまま帰るので、ここでお別れ。
 
僕らは次のステージへと登る為、更なる奥地への道を行く。
途中、道端で「ヤスデ」を見つけるが、その身体はオレンジの体色で毒々しく、大きさは20cm近くある。
アリも3cm近くある大きなのがいて、しかもスピードが異常に早い。

この湿気と暑さで体力を奪われた僕らは、大きな大木の横で休憩して水分を補給する。
 
「ふ~、次のブンブンはまだですかね?」
 
「そろそろ、キツくなってきましたね。。」
浅野さんも限界のようだ。何せ、まだ動物を見ていないし。
 
「ん?」
なんだろう?足がムズムズする。。
僕はフト、足元に目をやる。
 
「……!!」
 
よく見ると、なんと僕の足が真っ黒になるほどの蟻の大群が、足をよじ登ってきているのです!!
 
「ぎゃー!!ヤバい!!これ!ちょ…!!どんどん上がってくる!」
何千という蟻の大群が這い上がってくる。
 
よく見ると僕は何万匹の蟻の軍列のど真ん中で、休憩をしていたのでした。
慌ててその場を離れ、蟻を振り払う。
噛まれる事はなかったですが、気持ち悪かった…。恐ろしかった…。
 
昨日、「赤蟻」と「黒蟻」では、味が違う論議で蟻を食べたけど、今度は僕が危うく食べられるところだった。
 
僕は改めて森を見渡す。周りの木々は競い合うように日の光の届く所まで伸び、凌ぎを削っている。自分で上に行く事が出来ない蔦類は木の力を借りて。ただし、蔦と言っても細いものじゃなく、普通に大木のような蔦でしたが。みんなそれぞれが生き残る為に、必死に戦っているのだろう。
僕もうかうかしていたら、この森の餌になってしまう。
 
気を取り直し、足元に気をつけながら、再び歩き始める事にした。
 
暫く行った先、やっと次の宿泊ブンブンに到着する。
まずは、昨日と同じくヒル退治から。
 
太ももくらいの深さの川を越えた時でしょうか。首筋、足首、腰、至る所にヒルがぶら下がっている。
早くこのジャングルの中での生き方を身に付けないと、本当に飲み込まれてしまう。
 
僕らはここに荷物を置き、再びそれぞれ別行動で探索に出る事にした。どうせ、マットはカビだらけで、とてもゆっくり休憩という気分にもならないし。
 
僕は枝折り、草木をかきわけ、奥地へと進む。
 
途中、小川を発見する。水は完全に澄みきっていて、非常に綺麗。魚も沢山泳いでいる。

丁度良い。食事した時のスプーンをここで洗おう。

僕がスプーンを水に浸けると、何と魚達が一斉に集まってくるではないか!
水面をバシャバシャいわせ、スプーンに群がる魚達。僕の指にも興味をみせる。

人間というものを知らないのでしょうか?
野生の生き物達なので、まど「人間は危ない、怖い」という認識を持っていないのかもしれない。
 
このまま捕まえて食べる事は出来る。でも、僕は、純粋な好奇心?で集まる魚達を捕まえる事が出来ませんでした。
 
甘いぜ。
 
すると今度は後ろの茂みでガサガサとする音が聞こえる。
ここは都会じゃない。人の居ないジャングル。
そんなトコでガサガサなんてのは、普通じゃない。

身構える。
 
すると藪から姿を現したのは小象。小象といっても、僕より遥かにデカイ。
 
僕は至近距離でいきなり野生動物に遭遇してしまったので、かなり焦る。
(多分、この距離はお互いにとって、テリトリーの許容範囲を遥かに越えている)

しかも相手は子供とは言え、象。サバンナではライオンよりも強い。その場からクルッと振り返り、慌てて逃げ出す。
後ろを見ると、どうやら向こうも驚いていたようで、バキバキと木々と折りながら、ブツかりながら、慌てて逃げていく。

良かった…。どうやらお互いに驚いて、パニックになって、右往左往してたようだ。
 
何故、小象が一匹で居たのかは不明ですが(象はかなりの大きさになるまで、母親と行動を共にする)、
何にせよ親象がいなくて良かった。もし親象が居たら、死んでいたかもしれない。。
 
元の場に戻り荷物を手に取り、再び進む事に。

すると今度は何だ?
デカい何かがこちらに向かって走ってくるではないか!!
あ、このスピードは避けられない。

当然の出来事と、予想以上のスピードに動けずにいると、僕の横スレスレで、大きなイノシシ?か何かが駆け抜けて行きました。

乙事主かよ…。

あんなのに体当たりされてたら、交通事故レベルでしょ。

やはりジャングルでは、人間は知恵を使っていきないと長くは生きられないなと、つくづく思いました。

そんなこんなでようやく、ブンブンへと戻ってこれた。

しかし、浅野さんはまだ帰っていない。

僕はブンブンで、ひとまず休憩をする。
“カビマット”は嫌なので、それを退かしてベッドの台に横たわる。そして、昼寝をしようかとウトウトしていると、浅野さんが何やら興奮して帰ってきた。
 
「大変ですよ!!!発見しましたよ!」
 
「ちょっと落ち着いて下さいよ。どうしたんですか?動物なら沢山居ますよ?笑」
 
「違いますよ!オラン・アスリ!オラン・アスリですよ!彼らの家を発見したんですよ!!誰もいなかったけど!」
 
「マジすっか!??どこ?どこでですか??」
僕は飛び起きる。
 
「まあ、落ち着いて下さい笑」
今度は浅野さんが僕に言い返す。
 
浅野さんが言うには、
「あっちの方」らしい。
 
「あっちってどっちですか!?ほら、次の信号を右とか、あの建物を左曲がってとか目印があるでしょう?何かしら。」
 
「ありませんよ、そんなもん!笑 とにかくあっちですよ、あっち!行けば分りますよ。」
 
仕方なし。僕は浅野さんの指差す「あっち」の方向へと、行く事にする。
浅野さんは既にもう一度行く元気はなく、ブンブンで休憩すると言う。
 
再びジャングルを歩き始めて、暫くした頃でしょうか。
僕はこの日、3度目の驚きを体験する事となったのでした。
彼らの家に辿り着く前に_。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?