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阪元裕吾「ある用務員」

2022年4月目黒シネマで、阪元裕吾「ある用務員」 脚本は松平章全。

高校の冴えない用務員(福士誠治)の正体は、同校に通う裏社会首領(山路和弘)の娘(芋生悠)のボディガード。と思いきや、彼には更なる秘密が隠されていた。山路が殺害され、飄々と登場するジャンパー青年(前野朋哉)は静かな狂気の持ち主で、殺し屋を次々と8人も投入。エピソードてんこ盛りこれでもかと詰め込んだ、オフビートな娯楽作品。

86分尺の作品に主要な登場人物だけで24人もぶっ込んだら消化不良間違いなし!とはならず、交通整理してそれなりにスイスイとみせられる所に阪元監督の才能を感じるけど、やっぱエピソードが多すぎるわあ。恋愛、任侠、アクション、サスペンスどの要素もあるし、全部が中途半端w

この作品は阪元監督の2本の傑作「最強殺し屋伝説国岡」と「ベイビーわるきゅーれ」の間に撮られた作品で、実は私はこの3本しか観ていないのだが(^^;殺し屋の国岡昌幸(=伊能昌幸)わるきゅーれちさと(=髙石あかり)わるきゅーれまひろ(=伊澤彩織)この3人をキャラまんまで堪能することが出来、それだけでもう大満足!

90分弱にプログラムピクチャーのフォーマットを踏襲したような作品で(笑)これはこれで面白い。深作欣二や鈴木則文が令和にワープすればこんな映画撮ったかな?とことん今風ドライな演出で人が簡単にバンバン死んでいく様は平成経由、北野映画の味わいもあり、娯楽志向の作品。

この映画の実質的な主役は間違いなく前野朋哉だと思う(笑)彼が工務店のジャンパーみたいなの着て登場しただけで「おお!」いかがわしい雰囲気にドキドキ、ヘンなオーラを感じたw飄々と人を殺して平然とギャグ言ったり飯食いに行ったりする所に北野武の影響を感じるの、私だけ?

ラストで登場人物が殺し屋含めてみんな犬死にしてヒロインの女子高生・芋生悠しか生き残らない。用務員に戻った福士誠治が煙草を吸おうとしてライターの火が着かず「ついてない」これ、中島貞夫「鉄砲玉の美学」ラストシーンで渡瀬恒彦が死ぬ場面意識しただろ!と思っちゃったw

大量8人も投入される殺し屋の中でwガタイの良い男が意外にも繊細にピアノ曲など弾きつつ「俺たち、まだ何もやっちゃいないのかな」にキッズ・リターンの前フリを感じる?いや、前野君は北野テイストの殺し屋で既に前からガンガン出ているので、これじゃ後出しに過ぎます(笑)

「最強殺し屋伝説国岡」が93分で、「ベイビーわるきゅーれ」が95分なのに対し、本作は86分しかないのに劇場で観ていると体感時間が倍以上に感じる。今日は「ベイビーわるきゅーれ」の前後に2回、本作を観てみたのだが、明らかに中盤がダル、テンポの悪さは最大の弱点だと思う。

山路和弘がさすがの貫禄で裏社会の首領らしいど迫力を出す序盤、前野朋哉が圧倒的な存在感で観客を煙に巻く中盤、そして殺し屋8人が次々と福士誠治&芋生悠に襲い掛かる終盤は見応えがあってメリハリは効いてると思うんだけど、問題点はぶっちゃけ、誰が主役なのか分かんねえw

殺し屋8人のキャラは見事に立っていて、前半は全部がフェイクで、実は後半の殺し屋コレクションのような大和屋竺っぽい展開を志向したのかもしれない(←そんな訳ねーだろw)にしても、殺し屋の造形は一人一人が魅力的だったよなあ。阪元監督って、殺し屋の側に思い入れが強いのかも。

渡辺哲の源さんとか、ピアノを弾き始めるガタイのいい男(この人が郭源治の息子さん?)明らかに虚弱体質そうだけど狂気を孕んだ連続殺人鬼とか、長身イケメンでカッコいい北代高士、そして真打登場でベイビーわるきゅーれコンビまで、アクションともども観ていて夢中になる。

物語はどこにでもある高校から始まる。イメージカットで福士が幼い頃に何者かに射殺された父親は、ヤクザの組長であった。それを継いだ山路は実業家の才覚があり裏社会の首領にのし上がった。山路は一人娘の悠を可愛がり福士を用務員兼ボディガードとして密かに学校に送り込んでいたが、山路の海外進出を快く思わない配下組長の般若が策略を練る。

山路は一人娘の悠、実の息子のように育てた福士の他にもう一人、息子がいた。妾に産ませた前野。彼は冷酷で頭の回転の速い男、工務店の作業服でフツーの人を装っているが、ヤクザ以上に非情な男であった。山路は福士に「俺がお前の父親を殺した」と真実を暴露し射殺され、跡目争いが激化する中、福士は般若とその腹心を射殺。

さて、ここで「要らん奴は全部、始末されたな」と初めて登場する前野、お前ズル過ぎ(笑)腹心の弁護士と屈強だけどバカ男を引き連れ、福士と悠の命を狙う。決行の日は悠が補習授業を受けに休日登校するまさにその日であった。と、まあダラダラと長く書いてみた訳ですが(笑)私に文句言っても仕方ありませんよw前置きが長すぎるんですwww

その間にも、名優山路和弘の好演とか、怪優前野朋哉の怪演とか、見どころはあるんですが「で、何が面白いの?これ」状態が続き、阪元監督大丈夫かよw感が漂うんですが、ここから一気に巻き返します。このメリハリを後ろ重心で付ける感じ、東映バイオレンスっぽい(笑)

特に私、中島貞夫「鉄砲玉の美学」を思い出しちゃうんですよね。殺し屋なのにヘタレで一人も殺すことが出来ないまま「ついてねえや」と死んでいく渡瀬恒彦。これを令和版にひねってみた感じwつまり「ついてねえや」と言いたい殺し屋が8人もいて、それを福士が全員殺した後に、代表して「ついてねえや」と代わりに言ってあげる、そういう話です(←ホントかよw)

だから、殺し屋は潤沢に投入されますよお、まずは南くん、アキバ系の妖しいオタクで次々と高校生を殺すが福士は結構簡単にやっつけるw次に「JKだぜ、JK!」チャラい二人組の青柳くんと斎藤くん、見掛け倒しで弱っちい、あっさり倒される。ここまでは前野の計算通りで(←じゃあ呼ぶなよw)

4人目からが勝負!北代演じる稲岡は結構期待してたんだけど、前野は会話のバカっぽさに戦意喪失w彼は結構頑張るんだけど、前野が気に入って無いのが致命的w前野は段々イラついて来て、弁護士に「腹減った」「美味しい蕎麦屋があるんですよお」の誘いに「お蕎麦、お蕎麦!」速く殺しなんて終わらせたい、それよりお蕎麦が大事w

ベイビーわるきゅーれコンビは結構、いい所まで行くんだけど、高石あかりが図書館でスタンドプレイして撃沈、思ったより冷静な伊澤彩織もスカートからモモチラさせながら(←エロ的に唯一の見どころ、ってこらこらw)銃撃戦に持ち込むが福士に柔道の地獄絞めをかけられ気絶。

ところで、あかりと彩織だけが生き残ってない?ガタイのいい殺し屋コンビが最後に登場するが、福士は格闘の末、ナイフでチ〇コと胸をそれぞれグサリ!福士と悠が校内で生き残った所に、ラスボス的に登場する前に、ゾンビのように生き残っていた稲岡。

イラつく前野は「早く終わらせて蕎麦食べてえ!」稲岡を銃殺すると(←おいおいw)既に稲岡に倒され虫の息の福士に近づき、憎き正妻の一人娘・悠に「お前が嫌いで堪らなかったんだよ!」罵詈雑言を吐いて、「福士の死に顔、見せてやる!」叫んだ途端に、福士に銃撃され死亡www

こうして、登場人物が福士と悠以外全て死に、悠は福士に涙ながらに叫んだ「私はフツーの人生を送りたいのよ!」「一緒に行きましょ!」福士の脳内に、自分が用務員に戻って悠からゴミを受け取り、額に「あれ?何かついてる」汚れた手袋で触って額を汚してしまい、悠がハンカチで拭いてくれるという、凄くロマンチックな夢を見た。

でも、現実の世界では悠は校舎の廊下をスタスタと歩いて去って行った。福士は煙草を吸おうとライターを取り出したが火が着かない「ついてねえな」と呟いた。

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