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山下敦弘「リンダ リンダ リンダ」

早稲田松竹で、山下敦弘「リンダ リンダ リンダ」 脚本は向井康介、宮下和雅子との共同。

群馬の高校に通う軽音楽部の女子3人組がバンドやろうぜ!韓国人留学生(ぺ・ドゥナ)をボーカルにスカウトして文化祭に向けザ・ブルーハーツのコピーに邁進。練習し過ぎて当日の朝寝坊で濡れネズミになり奇跡の雨宿り聴衆を前に熱唱リンダリンダリンダに感涙必至、青春映画の金字塔。

感想を書きながらザ・ブルーハーツの代表曲を改めて聴き直す。多感な20代を80年代後半~90年代前半にかけて送った私たちの世代にとってザ・ブルーハーツの存在はやっぱり特別なもので、ダメだと思う自分が勇気づけられ元気づけられた青春の思い出とあるバンドなのだ。

これまでに観た洋の東西を問わず全ての青春映画の中で一番泣けた。それはザ・ブルーハーツが自分の世代のスターだったと共に、それよりも後の世代の女子高生にとって依然として彼らの歌が青春であるという美しき普遍性に涙した。世代を超えて語り継がれる歌だって。

ガーリーな学園もの青春映画であるがどこかブサイクでイケてない青春の日々は登場する女子高生たちはみんな可愛いんだけど恋愛より友情、勉強よりバンド活動。なんかキラキラしてるのよね。本作を観てると実感する。色々あったけど青春ってやっぱりいいよなあ(*'▽')

ザ・ブルーハーツのボーカル甲本ヒロトの実弟・甲本雅裕が軽音楽部顧問の役で出演し、ガールズバンドがコピーするのはザ・ブルーハーツの代表作と言ってもいい「リンダ リンダ」「僕の右手」「終わらない歌」の3曲がフィーチャーされ、それぞれが抜群の余韻を残す。

「リンダ リンダ」は映画タイトルにもなっている、ガールズバンドがザ・ブルーハーツのコピーをすると決めた瞬間に脳内に流れ出した。ラストでぺ・ドゥナがすっかり流ちょうな日本語で熱唱する勇姿は激アツで身体が震えるほど感動の名曲。

「僕の右手」はぺ・ドゥナが初めて日本のカラオケボックスにザ・ブルーハーツの歌を覚えに入っていの一番に歌う曲。♪僕の右手を知りませんか~♪ギターを担当する香椎由宇がリードギターを弾くには小さすぎる右手が、私の右手なんだよね。

「終わらない歌」は実はこっちが本作の主題歌で、ラストでぺ・ドゥナが気持ち良くシャウトした次の瞬間に甲本ヒロトの歌声でズバッと切れ込んで青春の思い出は永遠に刻み込まれる。二度と戻らない高校生時代は歌い続ける限り、終わらない歌。

この映画が目指しているのは決してポップでガーリーなバンド映画なのではなく、ヒロインのぺ・ドゥナが韓国人留学生として日本にやって来て同級生に馴染めず殻に閉じこもっていた日々がバンドに誘われバンド活動することでかけがえのない友を得る、等身大の国際化。

ボーカルのソンちゃんを演じるぺ・ドゥナはさすがの演技力と驚いたような目がキュートな、昭和の女子高生を思わせるような時代遅れのイケてない感じだけどまー可愛いのよ。同級生にサランヘヨと愛の告白されても「嫌いじゃないけど好きじゃない」とか思考が面白すぎw

リードギターの恵を演じる香椎由宇はぺ・ドゥナと並ぶもう一人のヒロイン。気が強い性格で元々はガールズバンドが一旦解散の憂き目にあったのも彼女のせいだけど負けず嫌いで根性あるのよね。小さな右手じゃギターが上手く弾けない。猛練習する意志の強い女の子だ。

ベースギターの望を演じるのは実在するロックバンド「Base Ball Bear」でもベースを担当する関根史織。彼女だけがプロの役者じゃなくてミュージシャン。口数少なく音楽面でバンドを支える。「Base Ball Bear」も同じ高校の仲間で結成されたからセミドキュメントだね。

ドラムを担当する響子を演じるのが子役時代から芸歴の長い前田亜季。彼女だけはラブコメチックな恋愛譚もあって長身イケメンの小林且弥とホントは相思相愛なんだけどお互いに好きって言えずに終わる。ほろ苦いけど今は恋愛より友情をエンジョイするリア充高校生だ。

ぺ・ドゥナ&前田亜季&香椎由宇&関根史織の4人からなるガールズバンド名は「パーランマウム」韓国語で「青い心」という意味だが映画本編を観てる間はバンド名が全然記憶に残ってない。ドゥナが韓国のアイデンティティを大事にしつつ日本の学園生活に馴染んでいく。

映画の終盤までは日韓4人の女子高生の青春の日々をが断片的に切り取ってノスタルジックに見せる。そこに物語は無く「日常」なのである。ザ・ブルーハーツのコピーをするのは別に特別なことじゃない。やりたいからやってるだけ。理屈じゃなく楽しいからできるんだ。

この映画のキモは一見するとラストの文化祭に間に合ったライブのようでいて、実はその前夜、明日の舞台に立ったドゥナが最愛の仲間たち三人をギター、ベース、ドラムの順番に掃海していく一人芝居の素晴らしさ。この場面で本作の成功は約束されたようなものなのだ。

ドゥナの一人芝居が正夢とすれば、由宇は誕生日プレゼントに元カレからギターが弾ける大きな手を貰い(笑)武道館の舞台に立ったら憧れのラモーンズとピエール瀧が客席から手を振っている・・・夢から( ゚Д゚)と目が覚めた由宇は寝坊して文化祭ライブに遅刻に焦る。

文化祭当日までずっと晴れていた空だったのに、4人がバンド練習で徹夜して寝坊したらどしゃぶりの雨。しかも出演時間に遅刻が確定し濡れネズミで走る彼女たちの姿はザ・ブルーハーツが歌ったドブネズミとは全然違う、でもステージまで一直線に走りこの一瞬に賭ける!

冒頭、軽音楽部の女子高生の仲間割れから大喧嘩。ボーカルとギターが抜けて文化祭での演奏はもはやこれまでと思われた絶望の中で、ギターの由宇とベースの史織とドラムの亜季はゼロからボーカル探しに着手。偶然通りかかった韓国人留学生のドゥナに声をかけた。

ドゥナは二つ返事でOKし、逆に不安になる3人(笑)コピーすることに決めたザ・ブルーハーツの「リンダ リンダ」を聞かせるとドゥナはノリノリ。文化祭では顧問の先生と二人きりで韓国文化紹介の部屋を準備していた退屈なドゥナの日常は俄然、輝き始めるのだ。

ドゥナは留学生として日本の高校に学んでいるのに同級生の友人が出来ず悩んでいた。それがバンドに誘われることで自分と同年代の日本の女子も全然私と変わらないじゃない!そう自信を持つとドゥナは生き生きと学園生活を送るようになる。その第一は4人の間の友情。

遅刻魔の亜季のせいでバンド練習に部室が使えない時、由宇は元カレがバイトしてる貸しスタジオに向かい、ドゥナが元カレの顔をまじまじと覗き込んで「あなた、由宇の元カレですか?」質問にワロタwドゥナは恋愛に超オクテ。でもそんな彼女を見初めた同級生もいた。

放課後の校舎に呼び出されたドゥナは同級生が精一杯勉強したハングルで愛の告白を全て日本語で返し(笑)しかも「嫌いじゃないけど好きじゃない」窓から隠れて覗き見していた3人のバンド仲間と練習したい。それがドゥナにとっての今かけがえのない大切なものなのだ。

文化祭の初日、由宇はクラスの出しものチョコバナナを片想い中の小林と一緒に作りながら「持ってきて欲しい」と小林に言われたホットプレートが実は小林の単独プレイで、ドゥナに「好きだったら告白しちゃいなよ」背中を押されてバンドの出番の一時間前に約束した。

カラオケ通いでドゥナの歌はすっかり上達しバンドメンバーの練習は由宇の元カレ貸しスタジオでノリノリ。徹夜で練習して4人揃って寝落ちてしまう。明日の午後3時半に校舎の体育館で大事な演奏の出番があると言うのに、疲れてすっかり眠り込んだ彼女たちの見た夢。

ドゥナは一人で体育館に忍び込み、バンドメンバーを一人ずつ紹介していた。由宇は誕生日プレゼントにギターを弾ける大きな手を元カレからもらい武道館の舞台に立ち憧れのラモーンズとピエール瀧に対面。でも、体育館では3時半になるのに来ない由宇たちに焦る周囲。

2時半に由宇に呼び出された教室で待つ小林は呆然。3時半過ぎにようやく目覚めた由宇がみんなを起こして外に出たらザーザー降りの大雨で、4人は濡れネズミになってタクシー拾って文化祭を開催中の校舎に到着し小林が傘をさして出迎え、由宇だけが居残ったw

舞台では先輩や同級生がアカペラや弾き語りで時間を繋ぎ、そこに突然の大雨で体育館に避難した生徒たちで満員。ここに慌てて駆け付けた4人がチューニングして最後の出番を前に緊張しドゥナは観衆に背を向けて呼吸を整え、「リンダ リンダ」を歌い始めたら熱狂の渦。

体育館のステージ前でノリノリの生徒たちと、その後方で体育座りしてのんびりみてる生徒との融合が山下監督のバンドに対する視座を見てるようで興味深い。そして2曲目の「終わりのない歌」とともにフラッシュバックするバンド仲間女子高生4人の思い出の日々。

演奏前、仲間に「どうだった?」恋の行方を聞かれ「言えなかったよ」ドラマセットの前で照れくさそうに笑う亜季。熱狂ライブは終わることなくザ・ブルーハーツの歌うホンモノの「終わりのない歌」に繋がり、終わったと思わなければ決して終わることのない青春の日々。

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