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吉田康弘「クジラのいた夏」

国立映画アーカイブで、吉田康弘「クジラのいた夏」 脚本は大浦光太との共同。

富山県高岡市を舞台に、とにかく上京したいチューヤ(野村周平)に送別会するJ(松島庄汰)たち悪友3人組、チューヤの初恋、初体験、本物の恋した女達との過去を清算させようとおせっかい。いるはずないクジラが校庭に現れ彼の背中を押した、甘酸っぱい感動田舎青春映画の佳品。

全くのノーマークだった。2014年の作品だが「灰土警部の事件簿~人喰山」と同時上映じゃなければ一生観ることはなかったかも知れない作品だったが、ホントに観て良かった。ジモティと呼ばれる田舎を愛する少年たちとそこから抜け出そうともがく少年との対比が切ない逸品だ。

地元である高岡市の片田舎で生活する4人はチューヤ(野村周平)、J(松島庄汰)、ギズモ(浜尾京介)、そして町田(松岡卓弥)。私が普段見ている作品とは方向性が全く違うのか、名前と顔は見事なまでに一致せず、健全な青春映画かと思ったら結構、成人映画に繋がるような際どい作品なんよね。

この作品、東京を中心とする首都圏や大阪を中心とする関西圏のような大都市地域に生まれ育ったものには感覚が全く分からんだろうなあ、と思う。私は静岡県出身で高校まで東京ってどんなところか、想像の域を出なかったもんね。明確に都会に出たいという欲求はあったが。

主人公のチューヤは地元の大学に進学したけど退学して、家業の跡継ぎで何となく働くことがイヤになって東京に出たいという。周囲のいわゆるジモティにはその心が全く理解できない。で、送別会というお題目で探りを入れようとする。中心人物のJが本作の影の主役である。

チューヤは東京に出て何がしたいのか?明確な目標なんて別に無いんだよね。出てから考えればいいや、くらいに思ってる。でもね、彼がおかしいなんて思わないよ。大学に進学するために東京や大阪に出ただけで、それ以外に明確なその後の目標なんかないじゃん。進学はお題目。

チューヤがもがいてる「イタさ」が私にはよく分かるんだよね。田舎って狭い世界じゃん、閉塞感あるじゃん。そこから解放されたいだけなのよね。でもJたちからすると、なんで郷土の高岡を出るの?何が不満なの?俺たちとつるんで遊んでれば楽しいじゃん、くらいの考え。

良くも悪くもストーリーはダラダラと展開する。それは田舎の若い奴って何したらいいか分かんない。娯楽の少ない土地で暴走族とか不純異性交遊くらいしかワクワクする楽しみ事がないのって、実はスゴイことだと思うの。そういう自分だって静岡に閉じ込められたくなかった。

この作品のクライマックスって実は、ジモティ4人組少年の中で一番影が薄そうな、でも歌が超上手い、町田(=松岡卓弥)が歌うT-BOLAN「離したくはない」なんだよね。カラオケで熱唱する場面はかなり感動もんだけど、それ以上に大事な所で携帯の着信メロディで破壊工作するw

タイトルにあるクジラは高岡市の近郊、魚津水族館にクジラがいるというガセネタ聞いて、アホな4人組がチャリ飛ばして見に行ってみればクジラなんてやっぱりいないでやんの。ああ、こんな田舎にクジラなんている訳ないか・・・というジモティの絶望感が本作のキモなんよ。

送別会をするボウリング場は閑散としていて完全に田舎モード。引っ越しの荷物を積んだトラックの中でチューヤの一番大事な品は赤褌で、彼はアレかい?そんなチューヤ、ちゃんと女子との交際は齢を重ねるごとに大人びたものへと成長しており、でも上手くいかなかった。

Jのチューヤに対する尋常じゃない感情は友情を超えていて、つまりアレかい?まずチューヤの元にジモティヒップホップダンスユニットのリーダーを送り込み「動画撮ってもらえます?」でも撮影ダメ出しでトラブルになり、そのユニットの中にチューヤの初恋の彼女混じってた。

見違えるようなヤンキーになった彼女に絶望するチューヤ(笑)最後は消火器まで登場する物騒な乱闘を経て、次なるラウンドはギズモ行きつけのピンサロに4人で入ってチューヤは自分の初体験の彼女にクリソツな嬢を発見してΣ(゚д゚lll)ガーン。でも、その娘を指名したw

Jたちから餞別という名の千円札をもらいいざ、初体験相手にクリソツ嬢に突撃すれば、名前も生年月日まで言っても別人と言い張る。嬢はイラっとして無理やりチ〇ポ咥えようとするが突き飛ばされ、カツラが吹っ飛んで実は彼女であった。誕生日覚えてくれててありがとう。

結局、その娘にヌイてもらうなんて出来ず、モヤったまま店を出るチューヤ。カラオケに行ってギズモの超上手い「離したくはない」で盛り上がる中、高校時代のミスほたるいかの弓子先輩(佐津川愛美)が現れ、またもチューヤどびっくり!弓子先輩とは本気で惚れた仲だった。

弓子先輩が女優になりたいと上京する日、汽車を見送るチューヤに弓子先輩は「止めてくれないの?」の言葉を残して去った。でも、バーのホステスとして確かに目の前に弓子がいる。チューヤは思い切って弓子先輩を店外に連れ出し告白、そして唇を奪った。全てはJの思う通り。

でもね、チューヤと弓子先輩が熱烈キスする瞬間、覗き見ていた町田が携帯の着信で「離したくはない」を鳴らす大失態(笑)延滞料金の請求がTSUTAYAでもゲオでもどっちでもいいだろwチューヤは弓子に「私、女優の夢を諦めて高岡に戻って来たのよ」の後の一言のショック!

弓子先輩は現場のトラブルで女優の仕事を下ろされ、失意の帰郷、なんてことはどうでも良くて「私、子供が二人いるの」この一言はチューヤには堪えた。Jを探し出すと「どういうつもりなんだ、この野郎!」彼にはJが自分の過去を勝手に曝け出して弄んでいるように思えた。

Jは見た目チャラ男だけど喧嘩強くてのされたチューヤの脳裏にフラッシュバックする高校時代の自分。屋上に上ると校庭に何か書いてあるぞ?それは巨大なクジラの潮吹きの画であった。Jたちが書いた、チューヤに対する渾身の贈り物。そして4人は日本海の浜辺で海水浴。

みんな海パンかと思いきや、チューヤだけきりりと赤褌締めてるじゃねーかwチューヤはやっぱり高岡を出ていくことにした。でも行先は東京じゃない。引っ越しの車は砂浜にタイヤが埋まって動けず、Jたちが押して走り始めた。「また戻って来いよ」チューヤの旅が始まる。


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