坂本礼「二人静か」
新宿ケイズシネマで、坂本礼「二人静か」 脚本は中野太。
5年前に行方不明になった当時5歳児の一人娘を探し続ける夫(水澤紳吾)と妻(西山真来)に生まれる深い溝は、娘探しに協力してくれる妊婦(ぎぃ子)の忌まわしい過去を真来が共有し訣別することで、水澤と二人静かに次の扉を開けた。誘拐犯罪の被害者夫婦の視点から現代の病理を紐解く野心作。
行方不明になる一人娘の名前が明菜でタイトルが「二人静か」こ、これは中森明菜の隠れた名曲「二人静」オマージュ?ひいてはこの曲を主題歌に頂いた市川昆監督による角川映画「天河伝説殺人事件」が隠しテーマなのかな?最初は色々と想像しながら観始めたけど、どうも関係無さそうw
こんなテーマ、今の映画界で映画化できる可能性ってホントは凄く少ないと思うんだよね。シネコンを客で一杯にしよう、二次利用でまた儲けようという商業第一主義が行き過ぎて映画が死に向かってカウントダウンを始める中で、こうした骨太の良心的な映画が公開されることが嬉しい。
国映テイストは良くも悪くも本作にも通底しているけれども、ピンク映画のようなハダカがあれば何でも撮れる、その中でシリアスなヒューマンドラマを硬質なタッチで世に送り出し続けた国映の遺伝子だからこそ制作できる貴重なタイプの作品だと思うのよ。令和のいまだ、健在な国映。
ただね、R-18ってのはウソだね、客を呼ぼうと無理やり成人映画にしただろ(笑)エロ的には終盤まで全然見所がなくて、西山真来とぎぃ子のレズ濡れ場期待しちゃったじゃねえかゴラァ!で、エロの商品価値的にはこれはダークホース、裕菜ちゃんだね。パパ活してるアブナイ女の子。
ピンク映画的には川瀬陽太、佐野和宏、伊藤清美、3人ともやっぱり名優だよなあ。でもね、佐野と清美が祖父母だから時代の流れを感じざるを得ない。俺も年取ったもんだ。そんな中でまだ20歳そこそこのぎぃ子と結婚した川瀬は犯罪だろ!いや、彼は犯罪者からぎぃ子を守ったのです。
まず気になるのが妻役の西山真来と夫役の水澤紳吾の身長差(←そこかよw)真来は174cmもあって水澤は163cmしかない(笑)水澤が背伸びしてようやく真来とキスできる位だかんねwこれって重要なことだと思う。水澤は子供向け絵本の出版社でバリバリ働き、一報の真来は専業主婦だけど、亭主関白が一切無しw
100分強の時間、ずっと重苦しいドラマが延々と続く。真来も水澤も演技力が安定してる分、逆に観ていてしんどさもあるんだけど、所々にホッと行きつく暇がある。水澤が行方不明の娘と遊んだ戯れ唄♬しいたけ~しいたけ~♬はナイショの秘め事のシー!だ、掛詞で男ってズルいよな。
でもね、ズルい男とウジウジした女のラブゲームのようなヤワな話じゃない。だって大事な一人娘を可愛い盛りの5歳で人さらいに遭っちゃった訳ですよ。子はかすがいと言うけれど、騙し騙され覆い隠されてた本音が子供がいなくなっちゃったことで全部バレちゃう、身につまされる話だw
男は結婚する前に必ずマリッジブリーになると言う(←ホントかよw)もう他の女とはセックスしない、デキないんだな、なんて(笑)一方で女は結婚してしばらくは夫とラブラブでも子供ができると全神経は子供の方に向かい夫は二の次になる。それを男は最初から良く分かってるのよねw
でもね、子供は可愛いから夫も妻も子供中心の生活を20年以上送って、気が付けば子供が独立して夫婦水入らず(←我が家はまさに今この地点)もうセックスだなんて遠い昔のように感じる枯れた夫婦関係もいいもんですよ。でもね、それは子供が関係の真ん中にいてくれてこその話。
だからね、本作は一人娘が人さらいに遭うという実録犯罪ドラマのテイストを一見纏っているように見えて、実は夫婦の絆が脆いものでちょっとしたことで崩れ落ちていく、でも理解し合うことで再生できるという凄くデリケートな心理ドラマなんだ。事件の詳細は一切、語られないもん。
冒頭、真来と水澤が街頭で行方不明の娘を探すビラを撒いていて「手伝いましょうか?」ぎぃ子が声をかける。川に小石が投げられて弾けた、そんな滑り出しは、まず真来と水澤の男女間の人生観の相違からどんなカップルにも間違いなくあるはずの擦れ違いを痛々しくも描き出していく。
夫婦生活の無い二人、水澤は出版社でバイトする裕菜が(-。-)y-゜゜゜煙草を吹かしながらパパ活の話、奨学金が返せず安月給じゃ足りなくて私はバブルの頃のバカな大人たちが憎い、こんな世間に誰がした!みたいな恨み言に、水澤も「俺は就職氷河期の人間だ」二人してため息をついた。
スケベな水澤が裕菜とラブホにしけ込むのは秒の早さだったがwチ〇コは勃たず。彼なりに妻以外の女としちゃだめだという理性はあって、ここは黒下着でセクシーに水澤を手コキまでしてくれた裕菜に感謝感激でR-18要件は一旦クリアしたとして(おいおいw)ここからシリアスドラマ。
妊婦のぎぃ子に興味を抱いた真来は、建前ばかりで本音の見えない夫に愛想が尽きて彼女の自宅まで押しかける。妊婦の大変さは私が一番良く分かってるはずだ。親切にしていたが、ある日彼女は見ちゃうんだよね。自宅に届いた「娘は死んだ」イタズラ手紙はぎぃ子が書いたものだった。
ぎぃ子は身の上を真来に打ち明ける。私は10歳の時に見知らぬ男に拉致監禁され9年2ヶ月も閉じ込められた。ずっとノートに書いていた自分と家族の名前は、助け出された時に家族で魚釣りに行った時、なんて楽しいんだろうと思ったけど、やっぱり一人は怖い、外に出るのが怖いの。
ぎぃ子は親子ほど年の離れた川瀬と結婚していて、川瀬は真来がぎぃ子に近づくことを嫌った。過去のトラウマを思い出してしまうから。真来はぎぃ子と逢うことが出来なくなり益々暗く生きる希望を失ってしまう。そんな折り、裕菜は表面だけイイ人の水澤を見限って職場を出て行った。
水澤は真来に優しい言葉をかけて二人きりで飲みに行くが「子供はまだ出来ないのかい」居合わせた婆さんに絡まれ、水澤は真来に本音を話してしまう。ずっと子供が出来ないことがしんどかった、家に帰るのも嫌だった。でも、奇跡的に生まれた我が娘。それがどうして行方不明に・・・
水澤は真来に「子供のことは忘れて前向きにやり直そう」この言葉にピキッと切れた真来はビンタして出て行く。真来は水澤に何を求めていたのか?それは行方不明の娘のことが忘れられない苦悩なのに真逆のことを言うなんて。水澤は反省したが後の祭り。真来は家を出て行った。
水澤と真来の一人娘がいなくなったのは、真来の父親の佐野がかくれんぼで遊んでいた時。その佐野は今や痴呆が進み妻の清美の介護を受けている。真来は水澤と喧嘩して失踪し、水澤は実家に帰ってるのではないかと清美を訪ねるんだけど、ここで清美が放つ台詞がイチイチ沁みる。
清美は「子供より孫の方が可愛いというけど私は違う。子供の方がずっと可愛い。旦那の佐野の世話をしながら、何でこの人の世話をしてるんだろ?とか思っちゃう。私は水澤さんが好きよ、ずっと居てくれても」ここで水澤は気づくんだよね。母親にとって息子は恋人のようなものだって。
真来の行く先は川瀬に逢うことを禁じられたはずのぎぃ子の家。「ねえ、あなたの家に連れてってよ」車を飛ばして人さらいに遭った日の事件現場。野球に混ぜてもらえなくて見ていたら、車が近づいて来て男が乗れと言って・・・強烈なトラウマに眩暈がして倒れ込んでしまうぎぃ子。
帰り際、ぎぃ子は「行ってみたい場所があるの」そこは彼女が拉致監禁されていた、今は空き家。「窓ってあんなに小さかったんだ」空を飛行機が飛ぶ音がうるさかったけどすぐに気にならなくなった。窓から逃げることばかり考えていた。ぎぃ子は真来に言う「もう二度と会わないわ」
一人ぼっちになってしまった真来はバス停で水澤にスマホで連絡し、迎えに来てくれた。肩を並べて歩く二人静か。街頭の音だけが響く終始無言の二人。真来は水澤の腕を組み、そして向かい合うと熱烈なキスをした。そして倦怠期に入ってから初めての全裸で濃厚なガチFUCKに雪崩れ込む。
もうね、水澤と真来のFUCKは話が重すぎて全然興奮しねえやwコトが済み、仲直りした二人は新たな日常に戻っていく。水澤は出版社で働き、担当する絵本の出来に満足した。そしてエンディングロールが回った後の、酒場でまさかの犯人逮捕、監禁された少女救出されるのニュース報道。
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