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横山雄二「愚か者のブルース」

横浜シネマジャック&ベティで、横山雄二「愚か者のブルース」

幸せな結婚生活の夢破れたピンサロ嬢(熊切あさ美)が、30年も映画を撮っていないヒモの映画監督(加藤雅也)と一緒に訪れた、元映研の後輩で今は広島第一劇場の館主(横山雄二)との人情譚は、どこまでもベタに熱く昭和を感じさせる画と物語りに不細工だけど感情を揺さぶられる良作。

前作と位置付けられる「彼女は夢で踊る」とは全く違う方向性の作品で、確かにストリップ劇場が舞台になってはいるけれど、それよりもイケてない男女の不器用な生き様を昭和テイスト満載で描く、その舞台として偶々、広島第一劇場を使用した、という感じで観ました。

「彼女は夢で踊る」では館主が加藤雅也でヒモが横山雄二だったけど、本作では反対に経営に苦しむ館主を横山雄二が自然体で演じていて、ヒモのストーリーを前作より思いっきり濃くして、加藤雅也という元映画監督のヒモが再び映画を撮る決心をするまで、みたいなお話。

まずロマンポルノ的にはですね(←これロマンポルノじゃねーだろw)出演している女優たちが脱ぐか脱がないか?これはストリップ劇場を舞台にした作品であるからして、それ次第で客の入りが違うと思うんですよね(じゃあ脱がなかったらアウトだろw)で、どうだったか?

結論的に言うとですね、ストリップのシーンはこれはアートですか!という位に美しく撮れているし、別に男女のカラミのような濡れ場があるじゃなしで、脱ぐ脱がないは映画の面白さと全く関係ありません!断言できるんだけど、やっぱり気になるでしょ、脱ぐか脱がないか。

出演する男優は取り敢えずガン無視してw女優の顔ぶれから並べていくと、ピンサロ嬢役に熊切あさ美、ストリッパー役に佐々木心音&小原春香、オカマの主役に筒井真理子、ライブカフェのママ役に矢沢ようこ、5人揃ってるんですが、実際に脱ぐのはたった一人なんですよね。

脱いだの、矢沢ようこでしょ?思ったあなた、ブブー不正解です。彼女はミュージシャン崩れの男と結婚してライブカフェのママを優雅に演じ、新規採用したあさ美にビールの注ぎ方教える。映画製作ではストリップの指導したらしいけど、本編では全く違う役どころです。

筒井真理子は横山雄二のチ〇コをガバッと掴んだりオカマ役としてイイ味出すけど当然、脱ぎません。そして、あろうことかピンサロ嬢役のあさ美とストリッパー役の春香の二人はトップレスNGなんですって!だから春香は純白のブラでストリップ踊ったのか。不自然だよ!

で、すけべな男どもの期待を一身に背負うのが佐々木心音ちゃんで(←彼女だけちゃん付けw)ストリップシーンは冒頭でトップレスの段階でおお!と思うんだけど、とんでもない理由で遅刻した春香の代わりに踊るシーンでお股をオープンする場面は「これこれ!」興奮したw

加藤雅也に関しては主役ということもあり、学生時代に映画賞を総ナメにしながらプライドばかりが高くて「こんな仕事してられるか!」コケた2作目以降、3本目撮らずに30年、でも全国をフラフラしながら水商売女のヒモで生きながらえる、凄く羨ましい男であります!

横山雄二は本作の監督、脚本のみならず加藤雅也とダブル主役張る。そうです、本作はクズな男二人の末路を描いた文字通り愚か者のブルースで、80年代の東映映画でよくこんな作品あったよね。ダメ男が女に寄生しながら夢を語り、夢に飲み込まれるように死んでしまう展開。

私は広島に通算5年弱住んでいた者として、横山さんってRCC中国放送の人気アナウンサーで、フツーのアナウンサーと違ってありとあらゆる冒険を厭わない面白い存在だなあとは思っていたけど、まさか映画監督になるなんて、しかも自作の主演級の働きこなしちゃうなんて。

横山さんが画面に登場して流川や薬研堀の夜の風景、走る路面電車とかオーバーラップするとこれだけでもう広島そのもの。原爆ドームや平和祈念館みたいな観光スポットではなく日常の中の広島。しかも昼ではなく夜の歓楽街を映画に残したという意味で本作は価値がある。

で、広島の昭和の香りを残すスポットしてキラーコンテンツだった広島第一劇場、本作ではストリップ小屋としてではなく郷愁の昭和ノスタルジーとして語られ、でも結果的に時代の波に抗うことは出来ず取り壊されてしまう。ブルドーザーが建物を破壊する場面は観るのが辛い。

ざっくり言えば映画とストリップの話である。なぜなら加藤雅也が映画監督で横山雄二がストリップ小屋館主だからである。ストリップは明らかに時代の波に揉まれしんどい状況だけど、映画だってどうか?私は普段通い慣れてる成人映画館のことを思わずにいられなかった。

登場人物として特筆すべき人がいる。仁科貴だ。彼は川谷拓三の長男で顔に濃く父親の面影がある。そんな彼があさ美の元々のヒモとして加藤を脅し、ヘタレだから脅しきれず、最後の最後にあさ美恋しさに凶行に出る広島の街頭は、まさに仁義なき戦いを彷彿とさせる迫力。

冒頭、モノクロの画面にアップで線香花火が炊かれ ♪てるてるぼうず てるぼうず あしたてんきにしておくれ♪ これを歌っているのはあさ美。世知辛い世の中をもっと明るく照らしておくれ、なんて生易しいものじゃない。あさ美はピンサロ嬢をしながらヒモの加藤を養ってあげている。

ところがあさ美の本来の情夫(←本来のってなんだよw)仁科が乗り込んで来て「お前にはあさ美は似合わねえ」とドスを効かせて加藤を脅すが、元々加藤もヤクザ者みたいな奴なので全然効いてないよwと思ったら、店を出た途端にあさ美の手を引っ張り逃げていく加藤は思いっきりビビりのヘタレであった(笑)

加藤は思い立って学生時代の映研の後輩で今は広島でストリップ小屋の館主をやってる男に匿ってもらうことにする。それが広島第一劇場であり、横山だ。広島に着くと画面はモノクロからカラーに切り替わり、大歓待を受ける加藤。横山は学生時代に加藤が自主映画を編集して入選、映画賞を総ナメした時のままで記憶が止まっている。

でも加藤は2作目で大コケして、それでも漫画原作などの仕事はこんなの映画じゃねえ!と断り続けて30年。すっかり初老になっていた(笑)第一劇場にはグロリア(佐々木心音)とつみれ(小原春香)という二人のストリッパーがいて先輩後輩関係なのだが、プロ意識高い心音に対してどこかフワフワした春香は加藤に一目惚れ、キスする仲まであっという間。

流川や薬研堀を舞台に人情喜劇が繰り広げられ、その中でのハイライトは、あさ美が「映画撮ってよ!」加藤に迫り、「お前は俺の気持ちなんかわかっちゃいねえ!」あさ美を突き飛ばしたところに居合わせた白人客が「レディーに何する!」膝蹴り喰わらして、もんどりうって倒れながら「俺だって撮りたいんだ・・・」呟く加藤の名演技は白眉!

あさ美は夫と仲良くピクニック中、フレンチレストランの開業に資金が必要と貯金の提供を迫られ、子供が出来たから取っておきたいと断り、結局事業に失敗して夜逃げという暗い過去があった。春香もタレントを夢見て事務所に所属するもハダカの仕事しかなく、思い切ってストリップの世界に飛び込んでいた。

横山は第一劇場の経営がますます厳しくなりヤクザの取り立てに精神的に追い詰められていく。そんな中で起きた、春香が早朝の出番をほったらかして加藤とデートしてました事件!ピンチヒッターを頼まれた心音が嫌々ながらもステージに上がったかと思えば、第一劇場の在りし日の姿もそのままに円形ステージで回転しながら踊り、全裸になって股間をオープン(カメラの角度を工夫しているがスッポンポンなのは確かw)

横山は加藤が春香と劇場に現れた瞬間に、怒りとも哀しみともつかない感情が爆発「こんなもの、要らねえ!」金属バットで劇場の備品を粉々に壊してしまう。あさ美は出勤途中にチャリに乗った愉快なおっさん(デンジャラスのノッチ)に良く出会う。彼曰く「俺は広島の山の中の生まれで、仁義なき戦いに憧れて町に出て来た」と。

あさ美は加藤と広島港に行き、江田島を眺めながら「加藤さん、映画撮って」加藤も「クソみたいな企画だけど、良い映画にしてやんよ!」そう決心した直後、画面は再びモノクロへと暗転する。広島の流川をあさ美を連れ添って歩いていた加藤、ドスを持った暴漢の仁科に土砂降りの雨の中、刺殺される!このリアル仁義なき戦いで息絶えた加藤。

1975年、広島カープ初優勝の年に営業を始め、夜の広島の風俗をけん引してきたヌードの殿堂・広島第一劇場が、ブルドーザーでどんどん壊されていく。画面はカラーでその無常な場面を映し出し、リアルを認識する。壁が破壊され、天井が落ち、やがて建物は元の姿が想像できないほどに取り壊された後、三角地はそのまま更地に替わった。

薬研堀の有志達が「加藤監督追悼上映会」を企画した。横山が「俺に回させてくれ!」映写機で回したフィルムに映っていたもの。画面が再びモノクロに替わる。あさ美が浴衣を着て、別れた娘は成長していて、隣にやって来た美しい祖母(未唯mie)と三世代で線香花火をしている。 ♪てるてるぼうず てるぼうず あしたてんきに しておくれ♪

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