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城定秀夫「夜、鳥たちが啼く」

渋谷シネクイントで、城定秀夫「夜、鳥たちが啼く」 原作は佐藤泰志。 脚本は高田亮。

嫉妬深い性格で恋人に去られた鳴かず飛ばずのクズ小説家(山田裕貴)と、夫に強引に離婚された子持ちのシングルマザー(松本まりか)が無垢な少年アキラ君を媒介にマイナス方向にシンクロして夜啼いてしまい不穏な未来を暗示して終わる、一味変わった暗黒の純文学映画。

いやあ、シネクイントってホントに映画が観やすいよ!横浜のKinocinemaみなとみらいと双璧ではないか!同じ映画でも特に本作のように夜の漆黒をデリケートに表現するような場面は劇場の映写クオリティが最も試される。そういう意味で、シネクイントで観られて良かった。

内容に関してはね・・・とにかく暗いです。偶にブラック城定さん炸裂する時あるけど、そんなの比じゃない。恐らく新境地を試したかったんだと思う。私は佐藤泰志の原作は未読なんだけど、かなり大胆に翻案してるようで、特に主人公の小説家の持つ負のオーラが酷すぎるw

タイトルにある、夜になると檻で飼っている鳥たちが欲情して啼いてうるさくて困るんです、という、そのまんまなんだけど(笑)一応、主人公の小説家山田と、深い仲に進展するシングルマザーまりかが狭いプレハブ小屋で声を潜めてアンアン啼く、そんなシーンあります!

尺が約2時間あるけど、さすがに長すぎるんじゃないかなあ。この内容なら90分位が適当だと思うんだけど。タメの演技が多いのは観てる側に迫力をもたらすのと同時にダルな印象も与えちゃうんだよね。いつもの城定さんが見せるテンポの良さやメリハリを感じないんだよね。

前から作品を観る度に感じてたんだけど、城定さんっていつかは一度は純文学やりたいと思ってたんじゃないかなあ。「よだかの片想い」のホンも書いたけどこちらは監督。ナルシストで暴力的で女好きで、でも喧嘩弱くて生活力もない、サイテーの男を主人公に置く。

ありとは思うんですよ、甲斐性のダメ男に女が振り回される。ああ、私ってダメな女!みたいな負の無限ループを描いた純文学小説なんて掃いて捨てる程、どこにだって転がってるじゃありませんか。それを城定さん流に撮ったらどんな作品になるのか?とても興味ありました。

主役を演じる山田裕貴が髪ボサボサで黒縁眼鏡かけて、なんとなくリアル城定さんにヨセてる時点で「ああ、この男はとんでもないクズだぞw」と思っちゃう訳なんですが、こいつの行動がこちらが想像する斜め下を常に潜行するどうしようもないクズっぷり、でも笑えないw

笑えなくしてるのは、純文学的にしっとり撮ってる、途中にシニカルな笑いを挟み込んだっていいじゃない、と思う所で全然そう来なくて、ダメ小説家の狂気!みたいな一辺倒で途中までグイグイ引っ張るから「この映画どうなっちゃうんだよ」と心配するけど終盤で挽回する。

さすが城定さんと思うのは、陰鬱になりがちな画面に、海水浴の海をドーンと出したり、花火がドーンと上がったり、みんなで「だるまさんころんだ」で遊んだり、そこだけパッと画面もストーリーも明るくなる。そういう場面が終盤に集中してるから、途中まで観てて辛い。

今回感想を書くに当たって、さすがに心配になってFilmarksの投稿をほとんど読んじゃったよ(笑)かなり辛辣な意見が多い反面、褒めてる感想は逆にこちらとしても「ホントにちゃんと観た?」問いただしたくなるようなもので、私としては観たまま感じたまま書いてみたい。

濡れ場の焦らしプレイは成立している。しかもエロVシネの時と違って1時間以上も引っ張る引っ張る。60分尺の成人向けならもう終わっちゃってるんですけどw恋愛に傷ついた男女同士が互いに惹かれ合いながらも一歩踏み出すことに躊躇してどんどん時間が経っていく感じだ。

ヒロインの松本まりかは脱ぐの?ねえ、いつ脱ぐんですか?と妖艶なシングルマザーの彼女を見ればスケベな男どもの関心はこの一点のみで(こらこらw)濡れ場は確かにじっくりねっとりエロいんだけど乳首は死守してます。っていうかセックスする時はブラ取るだろ、フツー。

話の建付けはどこにでもありそうで実はなさそうな(どっちだよw)かなり悲惨な四角関係である。主人公の山田裕貴は異常なまでの嫉妬深さでストーカーまがいの行為して恋人の中村まりかに逃げられた。山田のバイト先の上司カトウシンスケがまりかに接近し、奪い取った。

カトウがゆりかとくっついた時点で既に可哀想なのがカトウの妻だったまりか。ゆりかはいつも不機嫌な悪女でまりかはいつも泣きそうな悲劇のヒロインだね。まりかは一方的にカトウに離婚届に判を押させられ(その席にゆりか同席!)救いの手を差し伸べたのが山田であったw

あ、そうそう、成人映画ファン的にはですね、重要人物が3人(組?)登場します。まずは宇野祥平が山田の小説家業界仲間。山田とカトウ先輩が働くライブハウスで演奏する高原秀和作品でお馴染み「G.D.FLICKERS 」(ボーカル稲田錠)そして薬局屋の主人で吉田祐健だ!

吉田祐健がシネコンデビューなのかあ、と感慨深い(実は他にも出演してんのかな?)G.D.FLICKERSのライブシーンはかなり本格的なMV仕様に撮れていて、これ全国のシネコンで上映されたということは、G.D.FLICKERSや吉田祐健という存在を初めて知った人も多かったのでは?

ロケがかなり凝っていて見応えがある。飯能にある一軒家に庭にプレハブ小屋があり、元々は山田が購入して恋人のゆりかと住んでた。でも別れたゆりかは出て行って空き家になった所にまりかと一人息子のアキラを住まわせ、自らはプレハブ小屋を書斎兼寝泊り小屋にする。

山田が「書けねえ」と頭を掻きむしりながら悩むプレハブ小屋は、実は鳥を飼っている檻をイメージしたものと思われる。恋人と別れて性欲が悶々とする山田。カトウ先輩の別れた妻であるまりかは色気ムンムンで、プレハブ小屋に彼女を連れ込んで夜、ついに啼いちゃいました!

山田とまりかの関係性は、同じ一軒家の母屋とプレハブに、方やシングルマザーと少年、方やチョンガーの小説家、隣人(藤田朋子)は「家庭内別居」と形容する状態が延々と続く中で、段々と男女の関係が近づく様は一本調子なんだけど、変化を加えて来るのはアキラ君。

山田はゆりかがバイト先で店長と仲良くしてただけでボコりに行き、逆にボコられて何とか警察沙汰にはならなかったけど呆れたゆりかにフラれたヘタレ。高校生で華々しく文壇デビューしたけどそれから鳴かず飛ばずで、ライブハウスのバイトしてカトウ先輩にゆりかを奪われた。

そんな山田にもイイ所が一つだけある。子煩悩なのだ。純真無垢なアキラ君がお母さんが働いてるので学童保育に通っていて公園で友達がいない。まりかは悪い予感がして(笑)山田に「子供には近づかないで!」何度も警告するけど、終いには海水浴まで仲良く行っちゃう。

抜けるような青空と青い海。はしゃいだ山田はクラゲに刺されたwwwしかも海水浴から何日も後に発症。この傷をペロペロ舐めるまりか(笑)山田はアキラ君に会いに来ることを口実に母屋に堂々と出入りすることに成功。やがてアキラ君の就寝時間がいつなのかも把握したw

アキラ君が寝てしまえばこっちのもの。でも、山田とまりかはこだわりがある「母屋でセックスは絶対に嫌!」なぜならゆりかの残り香。プレハブにまりかを連れ込み、鳥が啼くように結ばれて、ことが済んだ後に窓を閉めてなかったことに気づくアホ(笑)とまれ、二人は結ばれた。

ロマンポルノ的なら2人がプレハブ小屋で鳥のように結ばれて終わりなんだけど、そういう作品じゃありませんから!これは純文学、さて、二人の恋路はどうなるのでしょう?ここから擦れ違いが起きるんだよね。結婚なんてまっぴら御免の山田と、再婚したいまりかの擦れ違い。

まりかが不動産屋に物件を見に行くのを待って公園で「だるまさんがころんだ」遊びを始めた山田とアキラ君。いつしか公園にいた小学生たちが全員集まって「だるまさんがころんだ」してる。でも、悪ふざけした奴がズルして、激怒したアキラ君。なんとなく不発のままになった遊び。

ここで映画も終盤の終盤になって初めて山田がとっても大事な、かつ、とんでもないこと言い出すんだよね「周囲に何万人もいるのに自分に関心を示してなんかくれない。俺は孤独だ」みたいな愚痴。彼は野球の独立リーグを好んで観に行った。その首位打者が公園で乱闘騒ぎ。

乱闘中の野球選手と制止する警官に「だるまさんがころんだ」を仕掛けるアキラ君wwwアキラ君は山田のことが大好きだけど、まりかにとっては好きか嫌いかの問題じゃない。これからも山田と付き合っていくのかそれとも別れた方がいいのか?重大な岐路に立たされている。

アキラ君は山田に「野球観に行きたい」と言った。その日は野球場は花火観覧。行く前にピザ屋で食事をとる山田とまりかとアキラ君。まりかは「結婚できないの?」何度も聞くが「このままでいいじゃないか」はぐらかし続ける山田。ずるい山田と詰んだまりかの関係や如何に。

野球場から夜空にドーンと打ち上がる花火を見物している山田、まりか、アキラ君の3人は、若い夫婦と一人息子のようにしか見えなかった。隣人の藤田朋子は「まあた、家庭内別居ですか?」山田は心中で呟いたに違いない「俺は一度だって結婚なんかしてないっちゅーの!」

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