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いまおかしんじ「天国か、ここ?」

新宿ケイズシネマで、いまおかしんじ「天国か、ここ?」 脚本は佐藤稔と中野太との共同。

いまおか監督の大学映研時代の先輩(河屋秀俊)が死んだ、神様の住む場所・島根県出雲市を天国に設定し、愛妻(武田暁)とともにかつての成人映画を支えた、今は亡き上野俊哉、鴨田好史、江利川深夜、伊藤猛、そして林由美香にもう一度出会う、ステキな旅の記録。

明らかに観客を選ぶ作品だとは思う。世の中で林由美香とか伊藤猛の名前を聞いて「ああ、あの人ね」と思う人がどれだけいるだろうか?ましてや上野俊哉、鴨田好史である。江利川深夜に至っては重度の成人映画フリークである私ですら、本作で初めてその名前を知った。

で、知らなきゃ楽しめない作品かと問われれば、正直なところよく分からない。成人映画の基礎知識、無くても全然楽しめますよ、みたいな無責任なことは言えない。だって私は林由美香や伊藤猛に会ったことは無いけど、どんな人となりか、私的には有名人なのですからね。

ちょこちょこっと小ネタを利かせている。ロマンポルノ助監督時代が長かった鴨田好史(理不尽にも契約社員という不安定な身分で!)がスタッフとして仕えた神代辰巳のことを「くまさん、くまさん」何度も連呼する場面とか、かなりの映画マニアでも分かんねーだろw

林由美香の父親が将棋指しで道場を経営してて鴨田好史が父親の友人だったり、江利川深夜と交際していて江利川が「今度、ダラダラ映画撮るんですよ」「それ映画のタイトルでしょ」みたいなやり取りは、もはやそれが真実なのか架空の設定なのかすら全然分からない。

林由美香が日本酒が大好きで銘柄が「死神」だったり、主人公の河屋秀俊が海辺でウィスキーを飲み始めたら肩をいからせた川瀬陽太が渾身物真似(笑)の伊藤猛がこの世に残した妻に会いたいと登場して酒盛りになったり、とにかくお酒にまつわるエピソードてんこ盛り。

そもそも、いまおか監督が設定した「天国」とは道のあちこちに缶チューハイが落ちていて拾って勝手に飲めるという酒飲み天国で、映研の先輩をモチーフにしたと思われる河屋は飲んだくれて「天国か、ここ?」自問自答しながら、いまおか監督が愛した映画人たちと再会。

河屋秀俊とコンビを組む奥さんの名前が「麻由子」なのが色々とややこしい(笑)彼女は亡くなった伊藤猛の奥さんで、今は河屋と再婚してる設定だが、いまおか監督の映研時代の先輩が佐々木麻由子と結婚してる訳ないよなあ、とか脳内がカオスになるも全然、無問題だ!

これはレジェンドピクチャーじゃなくて国映の作品ですから(笑)いまおか監督はギリギリまでチャレンジして自分が考える「天国」ってどんなところか、画も音も現実離れした世界に観客をワープさせる。海の見える砂浜に立つ男女の長回しと単調な劇伴の延々と反復。

だから観終わった感覚としては、( ゚Д゚)え、もう60分も経ったの?と思う位、スクリーンに映る画と印象的な音に引き込まれて没入感は半端なくどっぷりと世界に浸ってしまい、うん、これは確かに面白いんだろうけど、最後のハッピーエンドに至るまでの訳ワカメが凄い!

夫婦役で本作を牽引する河屋秀俊&武田暁の熟年カップルは「れいこいるか」の続編のように、生と死の地平がつながった天国とこの世の間を行き来するフワフワした自由人な感覚で缶チューハイを飲み泥酔しながら浮遊し続ける、そこに死者の魂が現れ一緒に戯れるのだ。

河屋が缶チューハイをあおりヘンな踊りを踊りながら天国の心地よさを満喫し始めると、後から後からユニークなキャラクターがボンボン湧き始める。それを妻の暁を横に置きながら、時に嫉妬され、時に嫉妬し、自分の人生に重ね合わせて若き日を疑似体験し返す物語。

まず最初に上野俊哉監督(水上晃士)が登場して「ここは天国だよ」と教えるどこまでも堅物で生真面目なキャラ。そして由美香(平岡美保)がチラシで将棋道場の宣伝に乱入し一度は去って行くが、砂浜を歩いている河屋に突然キスする。そして将棋道場で一局、指していくことに。

将棋の対戦相手は鴨田好史。演じてるの伊藤清美でワロタw得意の向かい飛車で勝利して「くまさん、くまさん」言いながら去って行く。由美香と日本酒「死神」で酒盛りする河屋。女性に嫉妬した暁は帰るがここに本作で最大の飛び道具、佐藤宏が全身タイツで登場ですよw

佐藤は出雲に行く道に迷った神様で「出雲はどこか!」暁に怒鳴りつけ「そんなことも知らんのか!」河屋と再会した暁は「さっきヘンな人と会ったのよ」と愚痴り、河屋は砂浜で独特の肩をいからせポーズで歩み寄る伊藤猛と再会した。伊藤は元、暁の旦那であった。

江利川深夜(上野伸弥)が由美香を連れて自己紹介し熱くキスを交わし映画監督デビューを祝して去って行った。神様佐藤は天国のピンサロでフェラでヌイてもらい、気持ち良くなったところで、河屋、伊藤、佐藤の三人が砂浜で車座になってウィスキーで大宴会、佐藤は酔いつぶれて寝た。

砂浜に木の棒で線を引き「ここは温泉よ」モードで由美香と暁が喋り始めた「好きな人と出会ってお互いに好き同士で一緒になるのって奇跡よね」伊藤は暁に「俺、先に死んじゃってごめんな」暁は「元気出た」気丈に振舞い、伊藤も由美香も姿を消し、河屋と暁が残された。

ここまでずっとヒキの画面で天国をイメージした映像が、缶チューハイを手に海を見つめる河屋と暁のどアップに変わり( ゚Д゚)と驚かされるケレンミ。ここは出雲。彼らは死者と交信する、天国の住人。ここが現生でも死後の世界でもどうでもいい。天国であることが大事。

河屋は「上野さーん、江利川くーん、鴨田さーん」そして「由美香ー!」二度叫んだ。負けじと「猛さーん!」と二度叫び返した。そして顔を見合わせ二人の名前を呼び合った河屋と暁は仲の良い夫婦。これからもずっと一緒に天国で。二人は肩を寄せ合って歩き始めた。

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