記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

林海象「我が人生最悪の時」

2022年4月国立映画アーカイブで、林海象「我が人生最悪の時」 脚本は天願大介との共同。

ご存じ私立探偵濱マイク(永瀬正敏)シリーズ全3作中の第一弾。今は亡き横浜日劇2階に事務所を掲げ、台湾ヤクザと香港ヤクザの抗争に巻き込まれた兄弟の運命に我を重ね、最悪の時を台湾で迎えた濱マイクに涙。日活アクションオマージュのスタイリッシュな娯楽活劇の快作。

同じモノクロ作品の傑作「夢見るように眠りたい」が戦前のトーキー映画をオマージュしたロマンチシズム溢れる作品だったのに対し、本作は日活アクションをオマージュしているため、スタイリッシュだけど情感は感じない、と思ったら最後の台湾で一気にボロボロ泣ける展開。

60年代の日活アクション映画を明確にオマージュして派手なガンアクションのみならずエースの宍戸錠まで登場するし、横浜の旧市街である黄金町、日ノ出町、関内ロケがバンバン登場するし、おまけに非業の死を遂げた台湾ヤクザの形見を持って台湾の地に飛ぶ永瀬。全て私好み!

シリーズ3作品あって、この作品だけモノクロ。いや、オールモノクロかと言えばそうではなく、超パートカラー(笑)巻末に2作目の予告編が追加サービスのように付録でマイク母・鰐淵晴子のストリップで終わる展開凄いけど、ホントの見せ場はそこじゃない(←当たり前w)

この作品は前半と後半で劇的にテンションが違う。最初はユルユル。横浜日劇の看板やアーチを使ってタイトルインやら次作予告のような白々しいw演出をかなりスタイリッシュに「ほほう」と唸らせる通り抜け方するけど「この話のどこが面白いの?」前半全部が後半の前フリで結構長いw

永瀬が麻雀中に店員の台湾から来た若者が地のヤクザに因縁付けられボコボコにされている時点で「ま、まさか彼が主演じゃ?」と思いついたとすれば、予知能力者か、それとも何度も観返してる人かどっちかですね?最初は永瀬の濱マイクが主演だよね!と思わせひっくり返すw

そもそも(←そもそも、じゃねーよw)濱マイクの地元のダチが、星野タクシーのナンチャンとか、木村精肉店の小心者とか脱力系キャラばかりで、宍戸錠が登場した瞬間に空気が張り詰めるけど、逆に言えばどこまで弛緩してたんだよ!とツッコみたくなるようなダルダルな前半w

佐野史郎が香港マフィア幹部で登場した時「やったね(*'▽')」って思ったよ。これで面白くなる。永瀬正敏が物足りないわけじゃない。彼はスポーツカーを乗りこなし「狂犬マイク」の仇名に恥じない暴走ぶりを見せてくれる。それを受けるキャラがいない、永瀬が空回りしてるのだ。

永瀬が台湾麻雀店員を助ける時にヤクザにナイフで小指を切り落とされ、犬が咥えて去って行く時点で「この映画、終わった・・・」と本気で思ったよw最初にハードルを地上スレスレまで下げる林監督ズルい!この小指の件を意気に感じた台湾の若者の正体はヤクザだったのです!

画で魅せる前半は、横浜在民で日活映画好きの私には堪らないカットの連続。大岡川や都橋商店街、京急ガード下とか、いちいち書き出すのもしんどいほど、光音座さんやジャック&ベティさんに行くときに見てる光景の四半世紀前の姿が当たり前の日常のように映し出されるのがスバらしい!

個人タクシーの乗務員、ウッチャンナンチャンのナンチャンは意外と出番は多いが、濱マイクの唯一の親友ということ、ベイスターズファンであること位しか印象に残ってない。っていうか、そもそもが脇役だ。ナンチャンタクシーの前に浜スタ外野スタンドから望む照明塔の図。

佐野史郎が香港マフィアの首領で日本の暴力団と組んで横浜進出。台湾系のドラゴンユニオンとの血で血を洗う仁義なき戦い!いつの間にか濱マイクは完全に脇役に押し出され、香港黒社会vs台湾マフィアによる横浜代理戦争、日活アクションから東映ヤクザものに変わって来たぞ!

濱マイクは本来は探偵業だから、まるで推理サスペンスを解くように台湾マフィア兄弟は何者なのか?を使えない情報屋ナンチャンタクシーなど使いつつw暴き出していくんだが、ここで「うう!」と濱マイクが謎の苦しみに落ちていく。それはなぜなの?もう心理劇の領域だw

ここで語られる濱マイクの過去。横浜日劇の支配人に拾われ養子になった彼と妹の茜(大嶺美香、驚くことにほとんど登場しないw)マイクが台湾ヤクザ兄を追いかける理由、それは台湾ヤクザ弟が実の兄のタマ取って来いと組織に命令されているから。ヤクザの掟は容赦がない。

台湾ヤクザ兄は元々ドラゴンユニオンに属していたが、日本でヒットマンした時に知り合った日系三世の南果歩と恋に落ち、国籍を変えるために香港黒社会に寝返った。組織の裏切者許すまじ!ドラゴンユニオンは弟に裏切者の兄を殺害させることで落とし前をつけようというのだ。

佐野史郎の野望はもっと大きくて、日本の広域暴力団は香港黒社会と台湾マフィアの抗争をでっち上げ、台湾の弟が裏切って香港の兄を殺害した事件を契機に東南アジアの黒社会地図を佐野史郎が塗り替えてやる!台湾ヤクザ兄弟の宿命がスゲエ壮大な話にすり替わってしまってるw

永瀬正敏の最大の見せ場は、台湾ヤクザ弟が兄を殺しに現場に向かう足をどうにかして阻止すること。でも弟は「横浜日劇会館二楼 濱マイク先生」宛ての置手紙をポストに入れ現場に向かった後。さあ、林監督、いや、濱マイクご自慢の愛車ナッシュ・メトロポリタンが走るぜ!

全ては日本の暴力団が仕組んだこと。台湾ヤクザ兄弟は拳銃を向け合い、兄が奪い取ると弟を射殺する直前に佐野史郎が乗り込んで兄をバーン!「シナリオの順番が狂っちゃいけないからな」ナニコレ!佐野史郎と台湾兄弟がガッチガチ主役で濱マイクが完全に脇に回ってんじゃん!

佐野史郎は、台湾からの帰化ヤクザに「撃ってみろ!」台湾ヤクザ弟を射殺させた。ここで本作のハイライト。突然、画面がバーン!という凄い銃声とともに真っ赤な鮮血に染まった。探偵濱マイクが弟の依頼を受けやっと探し出した兄の居場所に二人の血痕だけ残されていた。

そして、濱マイクが血痕の中に見つけた、台湾ヤクザ弟の婚約指輪。彼からの置手紙には「ありがとう」と繰り返し日本語で書かれていた。画面は台湾の田舎町にワープ。濱マイクは街を聞き込みしながら歩いてる。そして街角に発つ若い女性にそっと、その婚約指輪を差し出した。

濱マイクは台湾の風光明媚な山海を眺めた「我が人生最悪の時」で、ここからいきなりモノクロからカラーに変わり「続編の予告」本作に登場しなかった濱マイクの母親(鰐淵晴子)「血が繋がって無かったら抱きたいと思う?」攻めてる台詞でストリップしながら「乞うご期待!」

失意の探偵、贖罪の台湾から戻った濱マイク、ドアの看板を「To Be Continued」に変えた(←( ゚Д゚)え!続編あるの?なんちゃってw)濱マイク、ナンチャンや宍戸錠においしいとこさらわれ、佐野史郎と台湾&香港マフィアに主役の座譲っちゃったwまだまだやり切ってねえ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?