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藤田敏八「八月の濡れた砂」

神保町シアターで、藤田敏八「八月の濡れた砂」 脚本は峰尾基三と大和屋竺との共同。

湘南で家業の海の家を手伝いながら砂浜の喧騒を見つめている童貞高校生の清(広瀬昌助)が強姦された少女(テレサ野田)と偶然出会い、高校中退したワル(村野武範)と三人で過ごした、無軌道で刹那的な夏休み。シラケ世代の若者の終わらない夏を抒情的に描いた青春映画の傑作。

瀕死の状況だった日活が大映と弱者連合でダイニチ映配を設立し危機脱出を狙うも不発に終わり、日活は本作と蔵原惟二「不良少女 魔子」を以て新作の撮影を終了。ロマンポルノに路線変更をする瀬戸際の作品の登場人物から断末魔の叫びが聞こえてきそうな、寂しさに満ちた作品。

本作を久しぶりに観て感想を書いたのが5年くらい前だっけ。全然ピンと来なかったんだけど、あれから日活と大映が60年代後半に公開した「これが最後」切ない青春路線の作品を多く観て全然、印象が変わった。それも仕方ない。1971年と言えば、まだ私は4歳だったんですから。

この作品に通底して流れるテーマは、どん詰まりの、不発の青春。何をやっても上手く行かない、というよりもどうやって良いのか分からない。学生運動が下火になってシラケ世代に突入した当時の若者だった、今では60代後半の世代の方々にはジャストで響くのではないか。

私はシラケ世代ではなくて、それよりも一回り下のバブル世代なので、当然ながら登場人物の立場に自分をシンクロすることなんて出来ないし、出来るはずがない。だから前回観た時にピンと来なかったんだけど、世代間を超えて通じ合う何かが本作にあるから名作なのだと思う。

映画の建付けとしては主題歌の石川セリ「八月の濡れた砂」がまるで裕次郎の乗ったヨットのような大海原を航行する「狂った果実」たち4人にシンクロしながらヨットはどんどんヒキで遠ざかって行き、やがて点になる。どうしようもない厭世感、無力感に溢れたラストだと思う。

若松孝二の作品を多く観た後だから感じるものがあるのかもしれない。大和屋竺が脚本に参加していて、赤と青を基調とするメタファーてんこ盛りの意味ありげな映像が、実は「不発だった青春」というテーマによって全て無化されてしまう。そんなやるせなさに包まれるのだ。

太陽族が湘南の海を跋扈していた青春の日々を思うと、これは後退してる感すら漂う。若者が国家を論じるようなマクロの世界から、核家族化の中に閉じ込められて青春の悶々を過ごすミクロへの変貌。砂場の中に埋もれて出られないような閉塞感を主人公の清に感じるのだ。

1971年という時代に青春を過ごしていなければ分からない、後追いで映画史や風俗をいくら頭に入れてもリアルに同時代の空気感を共有しなければ分かりあえない、そんな映画があったっていいじゃないかと思うし、現に私のようなバブル世代には特徴的な作品が多いではないか。

広瀬昌助が演じる清は典型的な童貞少年であり、その範疇において時代を超越する。彼の世界観は学校と家庭に限られており、手伝う海の家の目の前の砂浜だけが、開かれた別世界となっており、水着ギャルを見て持て余した性欲に堪らなくなるのは男子なら必然のことである。

童貞少年の清が目の前の水着ギャルに悶々としながら海の家を手伝っていると、強姦された少女を拾ってしまい、その姉に大人の第一歩を踏み出すきっかけを得るも、友人でチンピラの健一郎がいくらけしかけて童貞臭が消えぬまま不発の夏が終わりを告げました、そんな映画ですw

要は(←要は、じゃねーよw)強姦シーンが何度も登場するので、強姦する側=強者、強姦される側=弱者というメタファーに踊らされがちなんだけど、そんなことどうでも良くて、周りで男女の情痴事件が多発してるのに童貞の清だけが不発のまま終わっていいのか?悶々だらけの青春。

題材により、当時流行った青春スポコンもの熱血テレビドラマの様相を見せるも、劇場の大スクリーンでフィルムで観るとやっぱり全然違う。雰囲気だけでも既に魅せているのだ。特に撮影と音楽。入念なロケハンの賜物と思うが、湘南の海をドラマチックに描き出している。

撮影(萩原憲治)は見事と言う表現の他に無い。水着ギャルや親子連れで賑わう浜辺で、泳ぎながら憧れの彼女に愛を囁く少年。人気のない殺風景な岩場で、死を覚悟して飛び込む二人の少年。どちらも湘南の海。少年たちの心象風景を投影するようにロケ地がクルクルと廻り、幻想的だ。

音楽(むつひろし、ペペ)に関しては、エピソードごとに合わせて効果的に挿入されるが、石川セリの歌う「八月の濡れた砂」のインストを清少年がテレサ野田に対する熱い想いを乗せて流れ出す場面に感動した。終盤に至るまで石川セリじゃなくインストで引っ張り続けるのよね。

ストーリーに関しては、もう非常に断片的なエピソードの集合体で、書き出しても余り意味を成さないと思う。ラストで石川セリの歌声が流れ「狂った果実」のように主要な登場人物の男女4人が乗ったヨットが大海原を航海する、このカットに最終的に繋げるように紡ぎ出されるのみ。

原田芳雄が思いもよらない場面で登場する。敬虔な神父さんだって(笑)彼は電子オルガン弾きバイトの女子高生(隅田知世)がいきなり北原ミレイ「懺悔の値打ちも無い」を弾き出して「おいおい、懺悔の値打ちはあるよ」と動揺。多分、この女子高生に手をつけたと思われw

原田千枝子(←原田美枝子じゃないよw)は重度のロマンポルノファンにはお馴染みと思うw本作でもチンピラの健一郎に強引に海でナンパされシャワー室に連れ込まれてレイプされる、まあ前後の繋がりなんてどうでも良くて、水着止まりで悶々としてた観客に大サービス(笑)

ザックリ言えば、チンピラの健一郎は「赤」童貞少年の清は「青」色で括って始まりから終わりまでそれは一貫していて、特に難しいことなんて考える必要なくて、両極端な二人のイメージカラーと捉えればそれだけでいい。「赤」は血であり怒り、「青」は静けさであり青臭さ。

純粋無垢な少年たちの目の前に小汚い大人が二人、登場する。一人は山谷初男、こそ泥でホントに小汚いw一方、渡辺文雄の方は政界に顔が効く実業家で健一郎の母親の再婚相手にして仇敵。健一郎の継父殺しは本編を横断する重要なエピソードで、健一郎の存在そのものである。

映画は夏休みの学校の校庭から始まる。健一郎の蹴ったサッカーボールが校舎の窓ガラスを割り、清に「俺とつるんでもいいことないぜ」清は海辺をバイクで猛スピードで疾走。ここにジープの不良たちからポイ捨てされた強姦されたてホヤホヤの少女・早苗を見てびっくり仰天!

早苗は全裸になって心の傷を海中で清め(←つまり13歳のテレサ野田がオールヌードってことっす(*'▽'))親切な清が早苗を家で休ませようとしたら、姿は消えていて、海の家に早苗の姉の真紀が乗り込んで警察に突き出すという。濡れ衣着せられた清には堪ったものではない。

清は真紀の車のハンドルを奪い取ると人気のない山林に連れ込みレイプしようとするがサイドブレーキが壊れて未遂wwwその頃、高校中退した健一郎は優等生の和子を砂浜で口説きながら「俺、身体触っただろ」通りがかった元担任教師に目撃証人になってもらおうとしたw

和子は教会で電子オルガン弾きのバイトしながら勉学優等生。同じ優等生の修司は和子に片想いしてるが健一郎が「俺、和子の身体触ったぜ」と挑発するので和子の目の前で殴り合いの喧嘩して健一郎の圧勝。ところが修司、剣道を習い自信つけて、和子を振り向かせようとする。

健一郎は和子の目の前で修司をボコボコにすると、「死にたい」海に向かってドボンと飛び込んだ。その対岸の砂浜では、清が早苗を犯した不良グループを発見し、向こう見ずにも戦うがボコられ、そこに泳いできた健一郎が助太刀。これを見た早苗は清に心惹かれたはずなのだが。

テレサ野田(←ここだけ早苗と呼ばないのかよw)13歳とは思えないグラマラスなボディがこぼれんばかりの黒水着で海に飛び込むと、おもわっず本能的に飛び込んで後を追う清「早苗ちゃん、好きだ!」ブクブクしながら愛の告白するも、これ、ちゃんと早苗に届いたんかw

健一郎は継父と不仲で家業を継ぐ気は無く「カメレオン」とバカにする。継父は田畑善彦、中平哲仟、溝口拳のロマンポルノ強面トリオ使って健一郎をボコボコ。倒れ込んだ健一郎がイメージカラーの赤に染まる撮影が圧巻!そして、傷の手当受ける部屋の床の間に日本刀を発見!

同居する姉の真紀が上京したスキに一人暮らしの早苗の別荘にこそ泥の五郎が入ったぞ!健一郎はここぞとばかり五郎を家畜のように飼い慣らし、そこに帰宅した真紀が驚いて五郎を解放してしまう。その時の健一郎と清の顔!大人じみたことしか言わない真紀の本性知った時!

夜の砂浜で修司が鍛え抜いた(笑)身体で和子を無理やり犯そうとしている。健一郎は清が早苗を好きと知っているので、和子への想いは断ち切らせようと「お前、良く観ろ」実況中継するwところがレイプ事件は健一郎が大声出して未遂に終わったばかりか和子はショックで自殺。

和子の死に直面して、やり場のない無力感から抜けられない健一郎と清は「自殺しようぜ」裸になって断崖絶壁から飛び降りたはいいが、意外に浅くてw「死ねないもんだなあ」笑ってキラキラ青春映画に巻き戻ってしまう。清は早苗が忘れられないのに、健一郎の友情に絆された。

そして決戦の時、健一郎は清を彼の大好きな早苗とセットで、憎き継父のヨットに招待し、一波乱起こそうと企む。ところが継父の渡辺文雄は「息子よ、やっとカメレオンでなくお父さんと呼んでくれた」とか大喜びで、健一郎には清とは別の意味で決戦の時がやって来たのだ。

ここからちょっと強引なんだけど、早苗がまだ13歳だから私、子供よ!って姉の真紀を連れてきちゃって、ヨットは定員の都合でお客さんは二人しか乗せられないんだってwwwここで悩む渡辺文雄の小演技挟んだ後、自慢の猟銃を奪い取ってヨットジャックする健一郎カッコええ!

ずっと夏の湘南の砂浜ですったもんだ色々あったことを忘れるかのように、主の継父を陸に置き去りにして、健一郎、清、そして真紀&早苗姉妹の4人を乗せた密室ヨットが出航です!最初は「今、大島?」とかのんびりしていた真紀だったが、船内の異様な雰囲気にドキリ!

健一郎が真紀に「おいおい、甲板で清と早苗がヤってるぜ!」にホント?(*'▽')狂喜乱舞したのは観客wでも、真紀が甲板に出ると清は必死で帆の向け先を調整中で、早苗はのんびり日光浴。浅黒く日焼けした肌が眩しいビキニ姿。彼女、これでホントに13歳なんですか?

真紀が早苗に「陸に上がったら東京に帰るわよ」険悪な雰囲気になる中、清がペンキの入った缶を倒しちゃったwで、赤色のペンキが床にドクドク流れ出し、おお、健一郎のイメージカラーじゃありませんか!ここで健一郎「そうか!」(そうか、じゃねーよw)赤色に塗りつぶせ!

憎き継父のヨット船室内に赤のペンキで「カメレオン」とか「死ね」とかお前は小学生かよ!な落書きをきっかけに4人で赤のペンキ塗装の楽しい共同作業wそして甲板に上がって先に日焼けしている真紀をよそに、健一郎と清と早苗がガンつけ合って恐ろしい雰囲気に豹変した!

早苗は「妹が先よ」と言うのだけれど、健一郎は甲板に上がって真紀を押さえつけ、清に「お前、童貞を喪うチャンス!」おうよと、清は真紀をガンガン犯し始め、発狂した早苗は猟銃で赤く塗りつぶされた壁にドン!穴を開けて浸水し始める船内。このまま沈んでしまうのか?

夏の湘南の砂浜では何も無かったように海へと帆を進めたヨットは、その船内でレイプや猟銃乱射の大騒ぎが起こっているなんて気が付かないほど、それは些細なものだと言いたげに、空撮でどんどん小さくなっていくヨットに石川セリは歌う♪あたしの夏は あしたも続く♪

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