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澤田幸弘「反逆のメロディー」

国立映画アーカイブで、澤田幸弘「反逆のメロディー」 脚本は佐治乾と蘇武道夫の共同。

組が解散し兄を頼ったアウトロー(原田芳雄)が知る、会社組織に食い込み警察と手を組み生き延びようとする元親分の汚い手口。盟友(藤竜也)と乗り込むゲバ作(佐藤蛾次郎)の弔い合戦も、パトカーには勝てず。反権力と敗北のレクイエムに酔いしれる男のロマン快作。

テーマは仁義を欠いた大ヤクザが警察と迎合して政治経済を牛耳る、最悪の状況に義憤を覚えたアウトローの原田芳雄がプラトニックな愛情を交わしたヤクザたちと少数精鋭で大部隊に斬り込むが多勢に無勢、国家権力に抗える訳もなくアウトローらしく非業の死を遂げる寂しさ。

原田芳雄は佐藤蛾次郎、地井武男、藤竜也の盟友たちと次々、男と男の友情以上の何か、ちょっと同性愛の入ったような深い結びつきを強めていく。梶芽衣子は原田&地井&藤のスリーショットを横目に見ながら「女の入る余地はないのね」ため息をつく。この作品に通底する行動原理。それは同性愛なのだ。

日活と大映が経営悪化し組んでダイニチ映配を設立した1970年の作品。澤田監督は「斬り込み」に次いで2本目で、主演の原田芳雄は日活初出演にして初主演の30歳。カオスの時代にフレッシュさが漂うネオヤクザ映画は何と言っても原田のいでたちがとてもヤクザ映画ではないw

原田芳雄は組の盃まで受けたヤクザなのにジージャンにジーンズのラフな格好で、しかもジージャンは素肌の上に直接、着てますからね(笑)アウトローでいかにもワルのようでいて実は一本、芯が通っていて巨悪にも国家権力にも納得いかなければ徹底的に抗う反逆児なのだ。

時代を感じるのは登場人物で、原田芳雄と最初はいがみ合うが意気投合するヤクザの地井武男も白のスーツをバリッと着こなすキザな奴。情婦の梶芽衣子はビジュアル重視ながら妖艶さがプンプン漂い、地井が匿う藤竜也は男が男に惚れそうなセクシーさ、この四天王でキマリ!

でもね、本作の影の主人公はズバリ、佐藤蛾次郎だね!役名は「ゲバ作」原田の兄が纏めるヤクザ立花組の名も無い一兵卒だが、バイクで疾走中に女を世話してやる件で知り合い、本名も知らないまま立花組に合流、最後は悪徳建設会社の現場にダイナマイト、のちリンチで憤死。

佐藤蛾次郎は演技だけじゃない。歌も聴かせるんだよね。しかも2曲も!1曲は望郷の童謡チックな「もずが枯れ木で」を抒情的に歌いあげ。2曲目は立花組の若者たちと一緒に反戦反権力フォークソングっぽい「あしたのために」を歌い上げる中々の美声で彼はホント効いてる!

反ポリス反パトカーを徹底してるのが実に澤田監督っぽくて(笑)「濡れた荒野を走れ」を先に観た私には実に既視感があるのだが、同作では悪徳刑事を演じていた地井が本作では曲がったことが大嫌いなヤクザで警官と対峙してるの見ると、地井さんってスゲエ存在感ある!

地井と芽衣子は愛人関係、全裸でベッドに横たわる芽衣子を地井が抱くラブシーンを天井から俯瞰して撮るカットが秀逸!でもね、芽衣子はおっぱいの上に腕を乗せ乳首は死守(当たり前だw)ロマンポルノじゃないのでハダカは期待してなかったからこれでも十分に興奮(*´Д`)

地味ながら本作にホンモノ感を醸し出す大物ヤクザ淡野を演じる須賀不二夫と小物ヤクザ立花を演じる梅野泰靖、悪徳刑事を演じる青木義朗、建設会社の社長に天下りヤクザを演じる深江章喜あたりは全員揃ってグッジョブ!善と悪が明らかに対峙する作風だから悪玉こそ大事!

芽衣子がビリヤード場を経営していて、淡野を襲撃し追われる藤を芽衣子の情夫の地井が匿う。藤の身に危険が及びそうになると地井は「お前なら気づかれない」藤を原田に預けようとする。この相談カットで左から藤、原田、地井、芽衣子が揃うフォーショットが本作の白眉!

澤田監督の作風も元々あるのかも知れないけど、カオスに陥った日活だから物語もカオスを極めていて、原田にとって敵と味方が常に揺れ動く。本当の敵は一体誰なんだ?ヤクザを決して賛美する訳でもないがむしろ警察の方を悪に描いてたり、「原田と藤だけは善だよね」で観るのがスッキリw

蛾次郎の建設会社に対する大暴れダイナマイトゲリラ作戦が経済ヤクザに転身を図る大物淡野を怒らせちゃって、社長の深江自らが陣頭指揮を執って蛾次郎をダンプで轢き殺す様は目を覆う惨状。ここから原田にとって弔い合戦が始まるから蛾次郎の退場で映画はトーンダウン致し方なし。

最初は設定がゴチャゴチャしてて分かりにくいんだけど、要は関西ヤクザの淡野組が全国統一を目指して地方都市の立花組に解散命令出して経済ヤクザに鞍替えさせて地下深く潜って行こうとする策略に警察も協力、理不尽な巨悪に立ち向かう4銃士が原田、藤、地井、芽衣子。

冒頭からいきなり関西大物ヤクザ淡野組の解散式ですからね(笑)原田はフリーになり関東の新興都市にシマを持つ立花組にふらりとやって来た。立花組長は原田の腹違いの兄だけど今は服役中。姐さんの富士真奈美以下、弱体化した立花組を守る名目で矢東組が乗り込んだ。

矢東会は立花組の若い衆をこき使ってやりたい放題だけど元淡野組の原田はリスペクト。そんな原田、ジープで街中走ってる時、バイクで並走して来たアフロに髭の怪しげな蛾次郎に「女、世話するぜ」ナンパした女を売ろうとする蛾次郎に原田は激怒、でもすぐ仲良くなったw

原田は蛾次郎に「俺はお前が好きだ!」愛の告白w蛾次郎は自分のことをゲバ作と名乗りそのまま立花会に入り、原田の人徳で休止状態だった立花会は俄然、活況を呈するんだけど、面白くないのが淡野会。だって時代遅れのヤクザは辞めて経済界に潜るつもりだったんですもの。

淡野会が狙うのは建設会社とか観光会社とかヤクザが容易に喰い込めそうな業種ばかり。製鉄所を造成する土地収用の話に政治家とヤクザが乗って警察は見て見ぬふり作戦。当然、関東のヤクザ組織には全員解散宣言が付され若い衆は面白くない。自分ばかり甘い汁吸いやがって!

淡野の汚いやり方で親分を失った藤は復讐の機会を狙い、護衛する原田と殴り合いになった。淡野に逆らい死を遂げた仲間の敵討ちを決意した地井が葬儀の場で原田に声をかけた。待合せ時刻に来た原田に「大事な人を待つなら1時間前からだぜ」地井は1時間前から待っていた。大好きなのだ。

地井と原田は義兄弟の関係となるが、地井が藤を匿っていることを知ると「藤を出せ!」でも決して出さない地井。立花は淡野から建設会社には手を出すな!固く命令されていたが、蛾次郎はそんなこと先刻承知よ!汚いやり口の製鉄所建設現場用地をダイナマイトで爆破する!

怒った淡野の復讐はそれは凄いもので、社長の深江は捕えた蛾次郎の両手両足を縛り上げると大の字にしてダンプで轢いた。蛾次郎の死を目の前に原田の中で何かがガタガタと崩れ去った。そして地井からの呼び出し。淡野に命を狙われてる藤を預かって欲しいという依頼だった。

芽衣子と情交し、ビリヤード場を出ようとした地井は暴漢のナイフで刺され絶命。ここで原田の腹違いの兄の立花が出所し、大親分の淡野と全然違う方向で立花組を仕切る原田を一喝。でも淡野の手によって立花はあっけなく消され、警察は淡野に都合の悪い時だけは動かない。

そして淡野の立花組壊滅作戦は最終局面を迎えた。都合の悪いことは警察に通報する、これが淡野組のポリシー(笑)立花組に乗り込んだ警察は一網打尽にテキトーな罪名で全員逮捕、外出中だった原田はもぬけの殻になった立花組の惨状に呆然。今は雌伏の時、チャンスを伺う。

数ヶ月後、製鉄所の造成工事が完成した晴れの祝賀会。経済人に変身した淡野を狙うは原田&藤のコンビ。ドスを振り回し暴れるも藤が銃弾に倒れ、原田はドスを振り回し祝賀会場を後にし、荒涼とした現場をフラフラ歩いていると、背後から警察の銃弾で斜面を転がり落ちた。


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