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曽根中生「"BLOW THE NIGHT!" 夜をぶっとばせ」

新宿ケイズシネマで、曽根中生「"BLOW THE NIGHT!" 夜をぶっとばせ」 脚本は中田玲子との共同。

前橋の不良中学生(高田奈美江)がアンパン吸って不純異性交遊。グレて上京した彼女の妹・奈津子(小松由佳)を夜の新宿で遊んでた不登校女子高生(可愛かずみ)が家に送る最中での暴走行為、無軌道の果ての死のダイビング。新宿の雑踏を歩いて妹の葬式に向かう制服姿の奈美江の後ろ姿がクールな実録不良映画。

1982年11月18日朝7時から翌朝の3時までに可愛かずみと高田奈美江の妹・奈津子が偶然出会い夜をぶっとばし死ぬまでを描くセミドキュメントなのだが、それより荒れ果てて教育崩壊していく中学校の描写が真に迫っており、ヒロイン高田奈美江本人が気合いの入ったツッパリだったことが本作最大のウリ。

高田奈美江が私と同い年と知って改めて震撼(笑)彼女が通学してた前橋の中学校はここまで全てにおいてぶっ壊れていたのか。私の出身地静岡でも荒れてる学校確かにあったが横浜銀蝿とかなめんなよ猫とかの不良カルチャーは都市近郊の田舎の独自性と思ってた。

高田奈美江は1966年8月5日生まれ。本作は1983年の公開だが、物語は1982年11月18日時点であり、奈美江は中学校を卒業したばかりであろう。1年前に自身が体験したリアル中学校不良経験をそのまま素で演じてる感がヒシヒシ伝わり、こっちは観てて病んで来るw

映画は前橋市内のある中学校の不良少年少女たちが高校受験勉強を控えた他生徒の邪魔にならないようにと教室を追い出されて荒れ、最後は警察まで介入する暴動事件に発展、何だか救いようのないドラマなんだけど、同時に80年代の神話のような気もして来ますw

曽根監督はロマンポルノで「女高生 天使のはらわた」「赤い暴行」など優れた不良性感度の作品を撮っているが、本作はヒリヒリするようなリアリズムばかりが前面に出てロマンチシズムが足りない。凄惨な現実ばかり学校だけでなく家庭や深夜徘徊などのリアルが描かれる。

本作の持つ大きな価値は2つ。まず、80年代前半の田舎中学生不良カルチャーを映像としてリアルに焼き付けたこと。当時、同じ時代を生きていても実際に不良行為に手を染めなかった自分にとって「ああ、こんな感じだったんだな」百聞は一見に如かずの説得力。

もう一つは制服姿の、そして制服を脱いでからの等身大の可愛かずみの可愛らしさをフィルムに永遠に刻んだこと。学校に行くふりして仲間のアジトで私服に生着替えして公園でマック食べて歩道橋からゴミ捨てて、ゲーセンで時間を潰して、夜は喫煙しながら仲間の暴走族と酒飲んで。

刹那的に前橋から家出してきた奈美江の妹奈津子を、可愛かずみらは「家まで送ってあげる」優しく声をかけ道中、送り狼に変身した男が「どうして家出してきたの?」「鼓笛隊の練習があったから」ここで私たち観客は気づく。彼女はまだ中学校に上がったばかりなのだと。

マイナス方向へのエモーションが半端なく、観終わった後にドッと疲れが出たんだけど、大昔に若い頃に観た時は内容にピンと来ないと同時にサッと目の前を通り過ぎて行ったんだよな。今回、再見してみて私が印象に残ったのは不良少年少女の両親のヤバさですw

奈美江の父親は新聞記者で母親は専業主婦。家庭を顧みない夫(森山周一郎)に、不良少女の娘と一日過ごして心に暗闇を抱える妻(松本典子)。奈美江や妹の奈津子を云々する前に既に家庭崩壊してるだろ!奈美江に可愛い娘を悪の道に引きずり込まれた絵沢萠子の自分勝手ぶりも凄まじいw

最たるドイヒーな両親は奈美江の彼氏だった尚也(小林栄次)後に妹奈津子の彼氏にもなるバカリーゼント野郎の継母(児島美ゆき)で、奈津子に尚也の子供の頃のワンパクぶりを自慢しつつ、いざ暴力を振われると「警察呼んで!」こっちも家庭崩壊してる。って言うか全く家庭の体を成していない。でも美ゆきが転んでパンチラちょっと嬉しい(*‘∀‘)

映画の開始からやたらと目立つのがなぎら健壱で、彼は不良暴力教師(笑)不良少年少女たちも確かにドイヒーな奴らなんだけど、なぎらはそれに輪をかけてドイヒーwww警察が介入して校舎に乗り込んだ時、一般生徒まで大暴れしてるの全部なぎらの責任www

主題歌や挿入歌などデビュー直前のザ・ストリート・スライダーズが担当。私は1986年にスマッシュヒットした「エンジェル・ダスター」しか記憶に残って無かったけど、そういえば本作の主題歌でデビューしてたんだよね。映画の一番イイ所で使われてる。

主題歌はザ・ストリート・スライダーズの「Blow The Night」彼らの記念すべきデビューシングルで、不良少年少女が車で、バイクで、夜の闇へと駆け出す時に効果的に使われる。最先端の不良が本格的なワルのカッコよさに憧れたってことだろう。

観始めて途中まで舞台は高校だと思い込んでた。でも80年代に荒れてたってホントは中学校だったのよね。ローティーンの不良のセックスと暴力を描いた映画ってなかなか無いと思うって言うか今じゃコンプラの問題もあって撮るの無理、非常に貴重な作品なのだ。

前橋の中学生と新宿歌舞伎町の高校生のホンの一瞬の交錯と、不良生徒と不良教師が同時にマグマを爆発させた校内暴力を警察が鎮圧し、指をクルクル勝利宣言する不良生徒。でも因果応報か、奈美江の妹奈津子は帰らぬ人になり、業を背負い込む奈美江は葬式に向かう。

前橋の中学生とは奈美江でなく奈津子の方である。奈美江の彼氏だった尚也がふとしたきっかけでバイクに乗せた奈津子と知り合い、家に招くが、尚也の家庭は奈津子の家庭をも下回る深刻な崩壊状態にあった。学校も家もすっかりイヤになった奈津子が向かうのは東京の新宿。

奈津子は夢見ていた。私だってちゃんと好きな人が出来て恋したいよ。奈美江が別れた元カレの尚也と、足利駅で待ち合わせて一緒に尚也の家に遊びに行き、そこで見たものは尚也の継母と父親の偽善に満ちた態度と、愛されてなかった尚也の醜態。それって私と全く同じじゃん!

ザ・ストリート・スライダーズのライブでカッコよく始まる映画はMVではない。ダブルヒロインの一人、可愛かずみは彼らの熱狂的なグルーピー。登校するふりして新宿のゲーセンで遊び、ディスコに繰り出して、そして男友達と酒を飲む。そこで居合わせたのが行き場の無い奈津子であった。

奈津子は新宿まで出て来たのはいいが、急に寂しくなって足利の尚也に電話して喫茶店の電話番号を教えるが、店は夜になり閉店。家出少女と目ざとく見つけたヤクザの庄司三郎が連れ去ろうとするが、なんとか難を逃れ、やって来たのが深夜でもやってるバーだった。

かずみたちは実はイイ人で、奈津子のことを本気で心配して前橋まで送り届けるという。途中でザ・ストリート・スライダーズの主題歌に合わせて暴走行為とか楽しんじゃうけど、送り狼になった男は「鼓笛隊の練習があったから」奈津子の言葉に、急に動揺を隠せなくなるw

男がハンドル操作を誤り、ハードロックの音色がガンガン鳴る中で暴走行為を繰り返していた画面が一瞬の静寂に変わり、海に向かって車ごと飛び込んで行く死への演出が白眉!男だけは泳いで岸にたどり着いたが奈津子は帰らぬ人となり、愛する尚也と二度と会うことはできなかった。

奈美江はいつも不良仲間と授業中の廊下に溜まり談笑を繰り返していたが、仲間内の諍いでついカッとなってモップを振り回し、偶然にも窓ガラスを割ってしまった。「誰がやったんだ」大騒ぎになり、不良たちは奈美江を庇ったことで、教師VS生徒の緊張感あふれる構図が出来あがった。

フツーの生徒たちは奈美江たちと全く別の世界を生きて来たが、不良暴力教師のなぎらに対する怒りが爆発!これまで積み木崩し的に一本調子だった話が転調し、全校生徒たちが大暴れし始め収拾が付かなくなる、もう奈美江たちは隅に追いやられるのだ。

教師はやむを得ないと警察の出動を要請し、学校の思惑通り、フツーの生徒たちは放っておいて、不良たちを警察が乱暴に取り押さえ、それをフフッと影から笑っているなぎら先生の小演技が可笑しくて堪らないw奈美江たちは勝利宣言の指パッチン鳴らした。

奈美江は妹の奈津子が元カレの尚也と歩いてるのを見た、という噂話は聞いていた。でも、まさか新宿で彼女が水死体で見つかって、それを元カレの尚也が追いかけていたなんて。アンパン吸って複数の男たちと行きずりのただれた不純異性交遊に溺れていた彼女なりのケジメがある。

新宿の雑踏を前橋の中学校でと同じセーラー服、スカート思いっきり長くして髪型はチリチリパーマ。いかにもな格好だからナンパ男(沢田情児?)がすかさず声をかけて来るがしつこくされてもガン無視。「あたしは葬式に行かなくちゃいけないんだよ!」

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