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今村昌平「「テント劇場」より 盗まれた欲情」

2022年4月ラピュタ阿佐ヶ谷で、今村昌平「「テント劇場」より 盗まれた欲情」 原作は今東光。 脚本は鈴木敏郎。 

旅芸人一座の座付き脚本家を勤める大卒のインテリ青年(長門裕之)が密かに思いを寄せる相手は座長の長女(南田洋子)。彼女は既に看板役者の妻であったが、長門は熱い想いに抗い切れず、思いを寄せて来る次女(喜多道枝)含め一座の家族会議にまで発展。ハレとケをテンポよく見せながら芸道を説く、今村監督会心のデビュー作にして快作。

配役が適材適所で素晴らしい。座長の滝沢修、その妻の菅井きん。三枚目役者の西村晃、インチキ臭い地の興行主の小沢昭一。怪しげな飲み物を売って回る武智豊子、芸人に憧れる尻軽娘の香月美奈子など、脇役が単なる脇に留まらず時に主役喰いする凄い映画(笑)

タイトルのテント劇場とは大阪府八尾市高安村の田んぼのど真ん中にテントを立てて大衆演劇&ストリップをする訳だし(訳だし、じゃねーよw)盗まれた欲情とは、長門裕之が南田洋子と喜多道枝の美人姉妹に欲情して一発ヤッちゃうが、これ全部裏で仕込みじゃね?ってことw

ロマンポルノ的にはですねえ(←今村監督のデビュー作でやめとけよw)水木京一と森みどりの二人。ストリップショータイムに劇場内が騒然として盛り上がる中、その中心で無我夢中でワッショイワッショイしてる水木京一は面白すぎwそれだけで一見の価値あり!

ところで、当時の大衆演劇って、幕間にストリップやってたのかよwストリップの幕間に漫才は有名だけど、演劇の幕間にストリップやったらそっちに客全部持っていかれちゃうの当たり前じゃん!と一瞬思うも(←おいおいw)演劇もストリップも、両方面白ければ良いのだw

一座のストリッパーは6人。後に香月美奈子が加わって7人になるのだがw衣装も踊りも大人しめな下着ショーって感じ。森みどりですよ、森みどりちゃん!若くてピチピチ、下着姿で腰をくねらせて踊る、胸もケツもエロい。ロマンポルノ時代とは印象が全然違う!

ホントに奇々怪々、魑魅魍魎、ユニークな市井の人々が登場して長門と洋子と道枝の三角関係恋愛譚をすっかり別の世界に連れて行ってしまいますがw中でも小沢昭一でしょう。小沢昭一的こころ。物語を陰で操っていると勘ぐってしまうのは、私のこころだあ!

映画の構成としてはあくまでも軽快な喜劇なので、座長の長女で看板スターの嫁でもある南田洋子、次女で未婚の喜多道枝(芸名からして映画の内容そのものw)この美人姉妹を巡るインテリで鼻持ちならない新劇崩れの長門裕之が繰り広げる三角関係の話かと言えば、全然違いますw

いや、長門と洋子と道枝の三角関係の話がベースなのだが、更にその礎となっているのが「芸事」「新釈」であり、長門は古臭い脚本ではなく新しい話が作りたい。でも、座長が「芸とはそんなもんじゃねえ!」と一喝。座長こそ実は、影の脚本家だと思うのだがw

今村演出の常として、出演者一人一人の個性、良い面も悪い面も丁寧に描かれるので忘れてしまいがちだが、テント大衆演劇一座の座長を張る滝沢修はラスボス感満載で、長門が鼻持ちならないインテリでも自分から出て行かない限り雇い続ける、ここに策がある。

長門の洋子に対する思いは不倫という道ならぬ恋で、道枝の長門に対する思いは未婚者同士の自由恋愛だから、洋子と道枝の父親である滝沢としては当然「道枝を選べよ!」と言えば終いなのだがそうは簡単に話を締めない。だってこの物語は「新釈 夫婦傘」なのだ。

残念なのは、物語のキーとなるはずの看板役者の栄三郎を演じる柳沢真一がキャラとして弱すぎることだが、はて、待てよ?と考えてみれば、長門が脚本家として希求したのは「自由」であって、長門と洋子と道枝の三人には選択権があるけど、洋子の夫・柳沢には与えないw

芸事を極めるという観点からすれば、滝沢座長の娘である洋子を娶り二代目になった柳沢には、この一座に残るか、それとも去るか、の二択しかない。それも柳沢に選ばせてもいいようなものだが、ここだけ非情、柳沢は妻の洋子に自分か長門か選択を任せてしまうw

なお、舞台となる大阪府八尾市高安村は、大阪に4年住んだ私にも地理感があまりピンと来ない場所で「いくら昭和30年頃とは言え八尾ってこんな田舎だったかのなあ」大阪府の東端で隣は奈良県生駒山。俊徳道沿いで業平の高安通いで有名、多分のどかな場所に違いない。

冒頭、いきなり通天閣ドーン!大阪球場を中心にミナミの繁華街を俯瞰した空撮ドーン!からの、大衆演劇の小屋でストリップにノリノリではしゃいだ男たちがメインの出し物のはずの演劇の部になった途端、「さあ帰るか」ぞろぞろ歩き出す、脚本家には衝撃の図w

大卒で新劇に入って仲間はどんどん売れっ子になって行き、通天閣で中谷昇に「お前、どうすんだよ」と心配された長門裕之。テント劇場には自由がある、とかウソぶくけどホントの目的はただ一つ。看板スターの妻で妖艶な南田洋子を奪って俺だけのものにしたい!

滝沢座長はそんな長門の邪な心を見抜いている。長門に「釈迦に説法すんな!」長門が「じゃあ閻魔に説法でもええ」しつこく新釈にこだわるみっともない姿に「血反吐を吐くほど修行せえ」芸事は全て基本からや。形の出来てない奴に新釈なんて、若造がおこがましいんや!

長門は洋子をくれと直談判しようと内心バカにしてる柳沢を訪れ見てしまう。柳沢が髪を振り乱し歌舞伎「鏡獅子」の形を稽古する姿。粗末な着物に扇子だけで踊っている姿が、歌舞伎座で演目として仮面を着け壮大に踊っている様な錯覚に陥り柳沢のことを見直す。

ここで、小沢昭一的こころが起こす偶発的な道枝誘拐事件。洋子は何度も長門を睨みつけ、長門は意を決して洋子の部屋に入り、二人はついに結ばれる。ディープキスからアンアン喘ぎ声まで行き「すわ、ピンク映画?」と思う濃厚演出から、ついに家族会議に突入だw

長門の書いた「新釈 夫婦傘」傘を差した柳沢の周りを姉の洋子と妹の道枝が妖艶に踊る演目で、舞台袖の長門を刺すような目で見つめる洋子に、長門は幕の操作も忘れて胸キュンキュン!ああ、ついに洋子は俺のものになるんだなって、長門は感無量であった(笑)

でも、洋子はやっぱり芸事一家なのよね。親で座長の滝沢も、夫で看板スターの柳沢も、長門より大事。そりゃあセックスは長門の方が良いのかもしれないけど(←こらこらw)一座が次の公演先に向かい騒々しく高安村を去って行くトラックに長門も道枝もいない。

長門に向かって道枝がストレートに恋する気持ちを伝え「真っすぐな道が回り道だったり、回り道だったと思った道が真っすぐなこともあるのよね」道枝は長門の手を引っ張り、駆け出した「一緒に行きましょ」それにしても、喜多道枝って、まんま映画の通りの芸名w

さて(←さて、じゃねーよw)ちょっと面白そうなので、視点を変えて小沢昭一的こころでこの作品を振り返ってみると、実に辻褄が合うw小沢は八尾市高安村に住む土地成金でシルクハットにスーツを決め畦道を歩いている、それだけで戯作者だがwとにかく土地成金で金だけはあるのよ、金はw

おいおい、今度こんな辺鄙な村にも大衆演劇って奴が来るらしいぜ!しかもストリップ付き(*'▽')小沢は地主としてテントを張って小屋を出し、結構な額を座長に出させるが、田舎は娯楽が少ないのでストリップだけじゃなく、退屈なはずの演劇までやんやの喝采!

でもね(←でもね、じゃねーよw)小沢には一つだけ、気になることあんのよ。ずっと気にかけてるフェロモンムンムンでヤリマンそうな地元のマドンナ香月美奈子が、一座が着た瞬間、トラックに「私にもキテーン♡」と色目使ってたの、危なくてしょうがねえや。

でも、あろうことか美奈子の奴、劇団に入りたいって三枚目役者でどスケベな西村晃を下着姿で誘惑。西村も「全部脱いでみなきゃ分からんな」とか言っちゃってそのままストリッパーになっちゃったの。もう小沢昭一的こころとしてこんなの許せん、征伐してくれる!

「そうだ!」(←そうだ、じゃねーよw)村の男衆に道枝を誘拐させて、長門の洋子に対する熱い不倫の思いを遂げさせて、一座をバラバラに解散させちゃえば、美奈子は戻って来るんじゃね?ってことで道枝誘拐しちゃったけど取り戻されて結局ダメだこりゃ(笑)

俺の道枝誘拐も、一応効き目はあったようで、一座は家族揃って「これからどうするか会議」即ち「南田洋子は座付き脚本家の長門裕之を選ぶの?それとも夫の柳沢真一を選ぶの?」まで持って来れたけど。なんとびっくり仰天!洋子の奴、長門を選ばないでやんのw

姉の洋子は夫の柳沢と一座の看板スターとその妻で元鞘に収まり、長門は妹の道枝と一緒に一座を出てってしまうってよ。あれ?美奈子の奴、次の公演先の赤坂村に向かうトラックに乗ってるじゃねえか!これじゃ俺の策略何の意味もない、俺も乗せろのこころだあ!

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