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仲良しの秘密 教授とのなれそめ

 十数年前、息子が陸上部に入部したのをきっかけに、わたしもダイエットを兼ねて走り出した。

 超スロージョギングで、最初は河川敷を五百メートルくらい走ったところでへばったのではなかったか。

 それが一キロ走れるようになり、二キロ走れるようになり、いつの間にか十キロの大会に出場し、ハーフマラソンも走れるようになっていた。

 その頃にはもう、ランチームふたつ、山サークルふたつに所属しており、休日にはたくさんのラン友、山友と、走ったり登ったり楽しく過ごさせてもらっていた。

 はじめてのフルマラソンも、ラン友グループで旅行を兼ね沖縄マラソンに参加したほどである。

 そんな生活が五、六年続いただろうか。

 あるマラソン大会を完走後、風邪をひいてしまい、咳をすると同時にギックリ腰になり、坐骨神経痛を患ってしまったのである。

 走るどころか、足を引きずらないと歩けない状態だ。

 するとびっくり。途端にラン友とも山友とも遊べなくなってしまうのである。

 休日はいつも大人数でわいわい賑やかに過ごしていたわたしが、突然のひとりぼっちだ。

 半年くらい寂しく過ごし、なんとか歩けるようになったのであるが、その頃にはもう走る気力も歩く気力もなくしていた。

 だらだらと過ごす引きこもり生活にも慣れてしまった。

 そんな時に、歩こうと誘いに来たのが今のパートナーである教授だ。

 教授は、県内の小さな島散策を提案してきた。

 気が乗らないながらも行ってみると、ほんの数十分の船旅がことのほか楽しい。

 青い空と碧い海に癒されるのはもちろん、船旅自体が異国へ旅立つ気分にさせてくれてわくわくするのである。

 島散策はのんびりとぼとぼ歩くだけでよいし、景色がとても美しい。

 二、三ヶ月かけてゆっくり県内のすべての島を散策し、わたしも歩く気力を取り戻していった。

 そして、教授への感謝の気持ちでいっぱいになったのであるが、実は、これは教授からの恩返しなのである。

 何を隠そう教授は元メタボである。

 出会った頃の教授は、ベルトの上にたっぷり腹の肉が乗っかっており、北京原人もかくやと思われる猫背であった。当然、運動なんて何もしていない。

 わたしがいつものラン友ではなく、職場のラン友たちと一緒に地元のマラソン大会に参加する際、何気にメタボ教授を誘ってみたのである。

 もちろん、わたしはイエスの回答を期待していない。

 ところがどういう訳だか、教授からイエスの回答をもらってしまったのである。

 メンバーは全員ハーフマラソンにエントリーしたのであるが、教授は初心者。五キロマラソンにエントリーしてもらうことにした。

 完走してもらうために、わたしが教授に教授しなければならない事態に陥ってしまったのである。

 そこで、教授の性格を考え、まずは理論からということで、教授に『ねこ背は治る! 知るだけで体が改善する「4つの意識」』の一読をお願いする。

 その後、ドイツ生まれのボディメイクアップシューズ『チャンシー』を履いてもらう。

『チャンシー』は、歩行時の自然な動きをサポートし、不自然で間違った動きや姿勢を正す、革新的な健康機能高性能シューズなのである。

 するとなんと不思議不思議。教授は北京原人からホモサピエンスに進化した!

 次がランニングシューズ。

 靴を見繕ってくれるシューズマスターがいる靴屋さんへ行き、ランニングシューズを購入する。

 ここまできてやっと、ラン練習である。

 走りながらおしゃべりできる速さ、息切れしないペースで、ゆっくりゆっくり走る。

 わたしが教授と練習したのはほんの数回であるが、その後も教授はひとりで練習した。

 黙々と走る行為がいたく教授のお気に召したらしく、性に合っていたのだろう。教授はなんと二十キロもやせたのである。

 まわりから半分になった!と驚かれる突然変異である。

 もちろん大会は無事完走し、それから教授はタバコを止め、ウォーキングや山登りにもチャレンジしだした。

 そしてある日、教授から富士山頂の写メが届くまでになっていたのである。

 努力したのは教授であるが、自分の人生をガラリと変えてくれたわたしに恩を感じてくれていたらしい。

 走るのをやめたわたしを心配して島巡りに誘ってくれたのだ。

 そんな訳で、わたしと教授は、お互いがお互いの恩人なのである。

 そして、恩返しに恩返しをつづけていることが仲良しの秘訣なのかもしれない。

 恩返しループでたまった幸せは、できるだけ世間に恩送りしようと思う。

 さて、その後のわたしであるが、大人数でわいわいではなく、教授とふたりで山道を歩く、静かな休日を過ごしている。


教授の朴念仁ぶりとは?

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