ベネチアでの昼と夜

ベネチア駅に到着したのは朝だったのか夜だったのか、さっぱり思い出せません。

覚えているのは、駅の横にある案内所で予約した安いホテルがどうしても見つからず、結局適当なホテルに転がりこんだ事です。

窓もないベッドだけの部屋でしたが、何故かラジオが付いていて、何となくイタリア語のそれを聞いていました。

もちろん意味なんてさっぱりですが、異国の地のラジオってのは良いものでした。

音ってのは空間に色を付けるような意味があると思うんですが、それをラジオはその地の独特の色だけでなく、人の匂いまで感じさせてくれるような気がします。

気のせいかもですけどね笑

あくまで1人だったし、スマホなんてこの世に登場する20年くらい前でしたから、当然ネットそのものがないので、現代よりも特に夜という時間は肌に張り付くようにじっとりと容赦なく、うんざりするくらい無限に居座っていましたので、ラジオが付けてくれる色や匂いは僕にとっては有難いものでした。

ああ、思い出してきましたよ。

着いたその日に少し街を見て回って、疲れたし遅くなったのでその日はホテルに戻ったんだ!
だから着いたのは多分夕方くらいですね!いや、そんな情報はどうでもいいですね笑


想像してたより運河は緑色で、慣れ親しんだ日本海と変わりなくて正直ガッカリしました。

おお、どんどん思い出してきましたよ。

ゴンドラ?だったかな。何かとそういう小さな船に乗ったりするんですが、順番をちゃんと待ってるのに、レディーファーストつって後の女(若い)のを先に乗せたり、買い物するのにも女(若い)と僕とではあからさまに態度が違う。

商品ほん投げられますからね、男だと笑


やっぱり有名な観光地だけあって、日本人の観光客も沢山いらっしゃいまして、女性の方々の話し声に、「やっぱりイタリアの男性は優しくて素敵ね〜」なんて会話が聞こえてきて、ファッキンな気分になったりしました。

そう。

観光地なんですよね。

だから物凄く当たり前ですけど、観光客が沢山居ます。

ほとんどが観光客です。

僕のように魂が彷徨して、何故かこんなところに来てしまったような、色々と間違えてるヤツは見当たりません。

皆さん超楽しそうです。

家族や友人達と楽しそうに異国の地ではしゃぐ老若男女を見て、こちらも楽しくなって、つい優しく微笑むような性格ではなかった僕は、ここでも居心地の悪さをすぐに察知してしまいました。

とはいえ着いたばっかりだし、何日か居ようと思って、結局何をしていたかというと、釣り人を見つけては、その横に座って一緒に釣りを楽しんだような気持ちになるっていう釣り気分泥棒みたいな事をしていました。

しかし、イタリアの釣り人達は気さくに魚の名前を教えてくれたり釣り方を教えてくれたり、言葉も分からない日本から何した来たのかまるっきり意味不明な難しそうな顔した若者にも親切に楽しく接してくれました。

そして、この後どこの国へ行っても、言葉が分からない男同士、すぐに打ち解けれる、瞬時に無二の親友になれる、心の兄弟になれる魔法の会話をここで修得したんです。


これから旅へ出る若者もいるでしょうし、教えとくべきですかね。


バックパックと僅かな金と渇いた魂だけを持って旅に出る君よ。友よ。兄弟達よ。


「オッパイ」

の話をしよう。


いや。

待て。

待ってください。

本当なんだって。


何処の国へ行っても男同士なら、この国ではオッパイはなんて言うんだ?ってジェスチャーしたら、男達の顔は綻び、そこからどれほど話が広がるか(下ネタオンリーだけど)、是非やってみてほしい。

最終的に、僕の熱心な指導もあって、そこの釣り人達は水面に仕掛けを投げ入れる時に、景気良く「オッパ〜イ!!」と言うようになりました。

ひょっとすると今でもあそこの釣り人達はそう叫んで仕掛けを投げては釣りを楽しんでるかもしれませんが、日伊友好の架け橋的な事になりませんかね?これ。


そんなわけで、僕のベネチアでの思い出は運河が素敵とか、建物やゴンドラがロマンチックとかは全然なく、昼間はイタリアの釣り人に、日本語でのオッパイの発音をレクチャーして、夜はホテルの窓もない狭い部屋でラジオを聴きながら、じっとりと心身に食い込んでくるあの頃の夜独特の、多分孤独感と言われるものと随分と長い時間を闘ったり逃げたりしていました。

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