戯曲(大きめの断片)桃太郎+かぐや姫+鬼

『石の投げ合い。』

登場人物 しるか、

時代 しらん!

場所 勝手にしやがれ!

1.桃太郎


おば わたしはそれほどびっくりしませんでしたよ。

おじ ほう、

おば かぐや姫の話を知っていましたからね。女なら河に沈めてやろうかと思ったけど、男だと知ったときは喜びましたよ、一体どんな美男子に育つだろうかって、それが、コレだからねぇ。

おじ 女? え、どこに女が。

おば やだおじいさん、言ったじゃないですか、私たちと同じ三ヶ月前、あの竹狂いのじじいが、竹林で女を拾ったって。

おじ どこの竹林?

おば なにメモろうとしてるんですか、

おじ しとらん、

おば 今、記憶に焼き付けようとしたでしょ、メモリーに。

おじ なぁんのことかなぁ。

おば 無駄ですよ。もうぼけてんですから、この話前もしましたよ、

おじ しとらんよお前。

おば しました、

おじ しとらん、

おば かぐや姫の話はしました。

おじ しとらん。

おば なよたけのかぐや姫ですよ。

おじ その何たけってやつも初めて聞いた。

おば もーう、自覚がないんだから。

おじ ボケとらん。

おば ぼけてます。

おじ ぼけとらんて、

おば ぼけてますって、ぼけの話も何回もしたでしょう。

おじ 木瓜の話は何回もしとらん!

おぼ ぼけてんだから、黙れ。

おじ ・・・・ボケてるのかなぁ。俺、もうダメかな。

おば そうですよ、おじいさん、ダメなんです。あなたはもうダメなんです。

おじ そ、そうかな、まだ行けるんじゃないかな?

おば ダメだったんですよ。どうせ昨日の夜ことも覚えてないんでしょ。

おじ 何のこと?

おば 大丈夫です、今晩じゃ思い出させてあげますからね、昨日のようなことじゃなくて、もっと若かった頃のあなたを。

おじ 覚えがない、覚えがないなぁ。

ヨタロウ あのー、すみません。

おば あれ、まだいたのかい?

おじ しっし。

おば 何かい? まさか、うちに居座る気なのかい?

ヨタロウ え、

おば 気の利かない野郎だねぇ、私やおじいさんの迷惑は考えたこともないのかい?

ヨタロウ ・・・・いえ。

おば (ヨタロウの、頭を小突き)この中には、桃の種しか入ってないのか。

おじ (舌打ちを繰り返す)

おば いいかい、私たちはね、お互いを愛し合ってるんだよ。

おじ 種無しスイカ! 種無しスイカか!

おば 違うんですよお爺さん、種はあるんですよ種は。問題は…違う! 愛し合ってるって言ってるんです! いま。

おじ そうだ、(拍手する)わしらがビートジェネレーションだ、

おば 違いますよおじいさん、

おじ ビートジェネレーションって要するにヒッピーだよね?

おば だから違います。

おじ あぁ、ずっと悪いヒッピーのことだと思ってた。

ヨタロウ あの、私はどうすればいいんですか?

おじ ・・・・あの、もっぺん言ってくれない? 最初から。

おば いいんですよ。お爺さん。わたしに妙案がありますからね。(おじい、去る)今夜10時に、この紙に書いてある住所に行きなさい。

ヨタロウ これは、なんの住所なんですか。

おば 行けばわかる。愛想よくするんだよ、奇特にも、お前なんかに興味を持ってくださった方がいるんだから。

ヨタロウ はぁ。

おば (奥に)おじいさん、その階段は、動きませんよ、おじいさん! 

    

ヨタロウ移動する。

医者 はいはいはい、確かにこれ、人間じゃないっすわ。まぁうちらの管轄すかね、うわー。すごいこれすごい、内臓的なのがいっぱいあるよー、こんなにあってどうするんだろ、分けてやれよー足りない人にー分けてやるべきだよなぁ、あはは冗談冗談。

腎臓的なのが8つ。心臓的なのは3つ、わー、聞いてみ、心音8ビートだよ。どどんどどん、なんだこの低音? あ、バスドラかこれ、上手に裏拍とるねぇ。うわー、・・・・肝臓は1つ、か、でも奇麗なピンクだなー、桃色、とでもいいますか。綺麗だから四分の一になっても大丈夫だよね、いやぁ冗談冗談、大丈夫、おばあさんからはね、きちっと話を聞いてるから、ぜんぶ任して、ほら、ちょっと横になりなさい、はいこの袋持って、中身吸って、はーい、深く吸ってー、あれ、眠くなってきた? 疲れてるんだよー、寝ていいよ? 聞いたよ、鬼退治したんだってねぇ、そりゃあね、疲れますって、寝ている間にマッサージしてあげる、ちょっと触りますけど、気にしないでねー。

ヨタロウ、横になる。

医者、ヨタロウから内臓を摘出しながら。携帯がなる。携帯で話しながら

作業を続ける。

医者 はい、あぁ、ちょうど今、その件で、はーい、……あぁ、いや、私は抜く方専門で、ハメるのは弟が。えぇお互い得意分野があるので、プロフェッショナルなもんで、はい、今後共ご贔屓に。あ、で、注意点なんすけど。・・・・弟、腕は絶対にこれ確かなんすけど、ちょっとアレがあって、仕事が好きすぎるっていうか、興味ある対象に対しては必要以上に熱意を持ち過ぎちゃうっていうかアレなんで、監視しといたほうがいっすよ。あの、お宅のアレ、娘さん、アレでしょ、竹人間? 違う? 月人間? どっちでもいっすよ、わたしは。でも弟は違うんすよ、そういうの大好きなんで、気をつけてくださいね。え、責任? 知らないっすよ。兄弟たって他人ですし、・・・・あぁ、いやまずいっすそれは、こちらとしても、じゃあ…アレっす、あの、麻酔ガン、まぁ針が飛ぶだけっすけど、有料レンタルするんで、えぇ!? 俺がっすか、ちょっと考えさせてください。・・・・(ヨタロウに布で何かを嗅がせ)はーい、リラックスできたかな? え? 体がダルい? それはね、マッサージ効果ってやつだよ、貯めてた疲れが一斉に噴出したんだね、温泉に浸かった時と一緒さ、帰って早く寝るといいよ。翌朝にはすっきりだ、体が軽くなってるから、いやホント。あ、待って、(懐から封筒を取り出し)この袋、うちに帰ったらおじいさんとおばあさんに渡してね、中見ちゃダメだよ、お兄ちゃんとの、お約束だよ。はーいじゃあおつかれさまー、お大事にー。

ヨタロウ で、笑顔で送り出してくれたんですけど、建物から出たとき、追いかけてきて、ちょっとバツの悪そうな顔で僕に言い忘れたことがあるって言って、「まぁ、この世界の大きなことからしたら大したことじゃないんだけど、君の余命はあと半年だよ」って。

おば へぇそうかい、で?

ヨタロウ え?

おば なにかもらっただろ?

ヨタロウ ・・・・あ、これ、

おば 貸しな。

   おば、ヨタロウから封筒を受け取る。

おば まあ、それぐらいで死ぬのが道理だろうね。ここまで育ててあげたんだから。

おじ え、なになになに?

ヨタロウ ・・・・。

おば つまり、コレの餌はもうやらなくていいってことですよ。

おじ 藁も、替えなくていい?

おば そうですよ。

おじ でも、替えないと藁が臭くなるよ。コイツ臭いから。

おば だからいいんですよ、もう。

ヨタロウ ・・・・。

おば ね。

ヨタロウ ・・・・えーと?

おば 察してちょうだい。……あれ、なんかこれあたし下手に出てない?

ヨタロウ あの、どうすればいいんですか? わたし。

おじ 出て行け。

ヨタロウ ・・・・。

おじ 出て行け、出て行け、出て行け、出て行け。あってる?

おば そうよ、おじいさん、そう。つまりまぁ、そういうことなんで。

ヨタロウ ・・・・。

おば 出て行け。

おじ 出て行け。

おば 出て行け。

おじ 出て行け。

おば でーていけ、

おじ でーていけ、

  「でーていけ」コールが続く。ヨタロウ、立ち去ろうとする。

おば あ、待て。

おじ なに?

おば 最後に用があります、出て行く前にあたしの部屋に来なさい。

おじ なになに?

おば あなたも用事あるでしょ、今日竹林に行くって言ってなかった?

おじ 竹林? 七賢?

おば ほら、はやくあなたのエスカレーターに乗ってどこか遠くへ行きなさい。

おじ なにいってんの階段だよこれ、ぼけたの婆さん? やーいやーい、やったね勝ったね、絶対ばあさんの方が先だって思ってた、わし。

    おじいさん、出て行く。

ヨタロウ なんですか。

おば あの人はね…、もうダメ。

ヨタロウ ・・・・。

おば 早く服を脱ぎなさい。

ヨタロウ ・・・・。

ヨタロウ、おばに襲われる。 

おば まったく、声の一つも上げやしない。つまらない、ほんとうに、人間味に欠けたよくわからないなにかだねぇ、あんたは。

ヨタロウ 私の記憶にあるのは、鬼鬼鬼、鬼だけ。

おば 肉がついたんじゃないか少し? 情けを与えればすぐ太る。お前もあの豚と全く同じだね、もしかしたら親戚同士かもしれないよ。ゆくゆくはあの豚と一緒に、泥の中で暮らせばいいじゃないか、決まりだ、決まり、よかったな。あはははは。うっ・・・・。

ヨタロウ、泥の中に捨てられる。

ヨタロウ 私の外で、世界は回っていました。鬼退治しかしらない私にとって世界は未知、明日から私は何を食べて、どこで眠ればいいのでしょう。

2.竹取物語

   杏、ベッドに寝ている。

杏 おい、じじぃ、タバコ!・・・・聞こえねぇのか! クソじじい。

じじい はい。はーい! ただいま!

杏 おせぇよタコ。

じじい マルボロでいっすか。

杏 あん?

じじい 銘柄っす。タバコ。

   杏、じじいを睨みつけ、数秒のち、

杏 ・・・・(舌打ち)しゃーねぇな。もらってやっか。

じじい あの、月はわかんないですけど、地球のタバコはほら、体に、よくないんですね、ほら、スモーキング・イズ・デッドって。箱に書いてあるでしょ。

杏 あーモウマンタイ。月人デフォルトで不死だから。

じじい それほんとまじでなんすか。

杏 マジだよ。おい、はやく出せマルボロ。

じじい へい。

   杏、じじいからタバコを取り上げ。吸う。

杏 ・・・・海がみてぇ。

じじい (電話で)おい、あたしだ。この星で一番青い海はどこだ!?

杏 アホカスドジ間抜け。海つったらクレーターに決まってるだろうが。

じじい クレータ? ギリシャっすか。

杏 違うよアホ。穴だよ穴、埋めてやろうか。

じじい 穴?

杏 穴だよ、空洞、傷口、欠損、それがクレーター。

じじい それが月の海?

杏 あぁ。月の人間は、虚無に浸りたいとき海を見る。

じじい へぇ、虚無って、月にもあるんですね。

杏 本場だから。もうみんな虚無グルメ、そんじゃそこらのニヒルな出来事じゃお腹いっぱいにならないね、月人は。

じじい たとえば?

杏 あれだな、最近だと、あれ、爆発したろ、なんかヤバイやつ。

じじい しましたね。

杏 あんなもん月だったら屁でもねぇ。

じじい そうなんですか。

杏 はじめから全部終わってる星だからな、気持ちいいだろ。

じじい はぁ。

杏 ホントはこっちだってもう終わってんじゃん。それをこの星の住人は、認めてないだけ、痛々しい、居心地悪い。

じじい すみません。

杏 終わってる。さっさと帰りたいなぁ。

じじい その、刑期、でしたっけ。

杏 ペナルティって言え。

じじい ペナルティ。

杏 が、どした?

じじい ペナルティはどうしたらなくなるんですか。

杏 さあな。

じじい でも、ずっとこの地球で暮らす気もないんですよね?

杏 あぁ。たりめぇだろ。

じじい でも、クレーターはありませんけど、地球の海も悪くないですよ。

杏 ばか、いいつってんだ。あたしゃこんな青い星、気持ち悪い。

じじい なんで?

杏 綺麗だからだよ。

じじい 矛盾してません?

杏 してない。奇麗なものが汚れるのは耐えられない。だが、汚れない綺麗なものはない、だったら最初から汚れてたほうがいいだろ。楽だし、スタイリッシュだ。

じじい そうっすか。そんなもんすかねぇ。そうは思えませんがねぇ。

杏 それはお前が若いからだよ。

じじい いや、青竹ちゃんこそ、0歳じゃないすか。

杏 あっちでキャリアがあんだよ、200年ぐらい。

じじい こっちのキャリアはあたしの方が上ですよ。

杏 だからなんだよ。

じじい あんたのが若いってことだよ青竹ちゃん。

    弟医者、以下、医者登場。

杏 なんだよ、こいつは?

じじい 暇つぶしの続きだよ。

杏 へえ?

じじい 忘れちゃいけないよ。この友情ゆえに。アタシはアンタの暇つぶし。そして、アンタもアタシの暇つぶしだろ。この竹取の翁の夢に乗っかってくれるって約束で、アタシはアンタの面倒を見てきた、なに不自由なくね、パンダが見たいといえば、パンダを連れてきたし、日の丸燃やしたニュースを見て興奮したあんたが、パンダ燃やしたいって言ったら、アタシは国中のパンダに火をつけた。おかげでこの国のパンダは全身真っ黒だ。

杏 苦労話はよそでしな。あたしは、コイツはなんだって聞いてんだよ。

じじい 黙らっしゃい。客人(まろうど)といえど、ここじゃアタシがルール。お嬢ちゃん。そろそろ対価を払ってもらうときが来やした。

杏 どういうことだよ。

じじい アタシの暇つぶし、つまり夢に付き合ってもらうときっす。

杏 ・・・・。

じじい そして、この夢には僕の友達のミカドも乗っかってる。

杏 ・・・・。

じじい おい。

医者 はい。

じじい あんた常常言ってただろ。退屈だって。アタシもなんだよ。アンタは月の世界しか知らないから退屈、アタシはこの地球のことしかしらないから退屈。

杏 話が見えねぇぞ。

じじい もうじき見えてくる、おい、肝心のブツはあるんだろうな。

医者 腎臓が7つ、心臓が2つと半分、肝臓が4分の3。

じじい それだけありゃ上等だ。・・・・青竹ちゃん。アタシとちょっと暇潰ししやしょう。アシスタントはここにいる。

   医者、手術の準備をする。

じじい ねぇ青竹ちゃん、君はこの星にペナルティで来た。

杏 あぁ、

じじい そして、ペナルティの解除方法はわからない

杏 あぁ、だからどうした。

じじい 思うにそれは、君が本当にこっち側に来ていないからだと思うんだ。

杏 こっち側?

じじい われわれ、人間側さ。君に僕らの心はわからない。

杏 興味もないな。

じじい それじゃ罰、ペナルティにならないと思わないか? 君はなんにも変わらないまま、月に帰る、そんなのペナルティとは言えない。バカンスに来たわけじゃないんだ、ぜひ僕たちのことを深く理解してくれ。

杏 どうする気だ。

じじい 君の体は空洞だ、空気と火が均等に詰まっている。シンジラレネーション。君は食事をしない、君は排泄をしない、君は眠らない、君は恋をしない、君はセックスをしない、それじゃダメだ。そんなに綺麗なままじゃ、そんなにスタイリッシュなままじゃ、なんの罰にもならない。君はずっと虚無のまま。そう、君は汚れるべきだ、愚かになるべきだ、悲しみを知るべきだ、君は、生きて、ものを食べ、セックスし、血を流し、涙を流し、働いて、醜く、みっともなくカッコ悪く生き抜き、やがては惨めに死ぬ、そのとき初めて、月からの迎えが来るんじゃないか。……月からのお迎えってなんか下ネタっぽいね。

杏 ・・・・。

じじい いいじゃないですか。どうせ退屈しているんでしょ。

杏 ・・・・なにが目的だ?

じじい やだなぁ親切ですよ。

杏 ・・・・。

じじい あたしはね、月の人間には親切なんだよ。この星の人間には厳しいけど。

杏 いいだろう、好きにしな、アタシは完璧だ。下等生物に弄られたぐらいで変わってしまう完璧さなら、いらない。

   医者、手術を始める。

医者 心臓の溶ける臭いは嗅いだことあるかい? 僕はあるよ、昔アルバイトのお駄賃に生きた胎児をもらってねぇ、あれはちょっと興奮したなぁ。・・・・笑っちゃうよね。赤ん坊なんかが特別だと思ってた時期もあったんだ、可能性の塊、生命の神秘、未来への希望、それを摘み取ることのできる僕はさしずめ神か天使か、うふふ、バカバカしい、ばぁかばぁかしぃ~僕は、ただの、差別主義者でした。今じゃ人間も、豚も、赤ん坊も、等しく生ゴミに見える、屑かご行きの遺伝子さ。みんな、終わった船の乗組員さ。だからこの仕事しかなかった。はじめて見る生き物にあったときは、いまだ少し胸がどきどきする、自分の吐く息にさえうっとりしたときのことを思い出す。あぁ、これは、初めて解剖した時の、あぁそう、ちょうど小学生に上がったとき、ずっと好きだったミヨちゃんの飼い猫ドリアンを、あぁみよちゃんの前で、あぁ、あのときのエクスタシー、

杏 ……。

医者 だから僕は今本当に嬉しい、君のお父上が、お父上だよね、大事なスポンサー、じゃなければ、こんなつまらない、あぁつまんない仕事だな、抜き取るんじゃなくて、ハメ込むだけなんて、加工もしちゃダメなんでしょ。兄貴はね、とことん信用してないんだよ僕のこと、内臓抜き取ることに関しちゃちょっとした権威なのに、ハメこむことしか許しちゃくれない、 

杏 やけに口ばかり動かすなぁ、薮?

医者 お目覚めかい。手術は完璧に終わったよ。脳細胞が80%壊死しててもできるこんな、作業。……もうだめだ、我慢の限界さ、ぐちゃぐちゃぐちゃだ、この完璧な空洞を、シンメトリーの子宮の線に沿ってメスで、あぁ神様、あぁ僕は神様の作品に、いけない子だ、いけない子だぁ!

   弟医者、麻酔ガンで撃たれる。兄医者登場

兄 またか、今月で三件目だ。

じじい 患者をメスでバラバラにする医者か。

兄 あぁ、おかげで商売がやりにくい。

じじい よくやった。早くそいつをつまみ出してくれ。

兄 この働きで、報酬上乗せ、期待できます?

じじい バカ言え、自業自得だ。

兄 兄弟は別人格なのに。いつも僕がワリ食うんです。はいはい、どうもまたご贔屓に。

   兄医者、退場。

じじい どうだ。気分は。

杏 別に。

じじい 胸に手を当ててみるといい。

   杏、無視、じじい、触ろうとする。払い除け。

杏 何をする!

じじい 誕生おめでとう。青竹ちゃん。

   杏、無意識に、胸に手が。

杏 なにこれ、こんなじじいでさえ、ドキドキする。


3.青鬼赤鬼

ファミレス、兄医者と弟医者が食事をしている。

兄 赤次郎。

弟 なんだい、青太郎兄さん。

兄 今日は、お前の20歳の誕生日だから、我々、天涯孤独の兄弟の秘密を話そうと思うんだ。

弟 このデビルスパフェっというのは、兄さん。

兄 赤次郎、俺は話を聞いて欲しい。そして話を聞くときに、メニューを見るのは、とくにデザートの辺りを丹念に見るのは、立派な大人のやることじゃないよ、そして赤次郎、今日はお前の誕生日だ。お前はもう、子供じゃないんだよ。

弟 うん。

兄 わかってくれたか、弟よ。

弟 うん、それでこのデビルスパフェというのは…

兄 パフェはいい!

   間。

弟 兄さん。約束が違うじゃないか。

兄 すまんな、俺はたしかに約束した、誕生日の祝いにお前の好きなものを何でもおごってやると。

弟 あぁ、兄さんはそう言った、

兄 すまん、でも正直言って、話している最中に、兄さんが、大事な話をしているときに、メニューを見るのはどうなんだろう、そしてここの会計が兄さん持ちであるということも、忘れないでいて欲しい、いくら誕生日といえど。

弟 この上に乗っているブラウニーが怪しいと思うんだ、ブラウニーというのはアイルランドの妖精だ、つまりデビルスと言ってもある種の、

兄 おめでとう!

弟 なんだい兄さん。

兄 俺の祝う気持ちを、どうかこれ以上けがさないでくれ。

弟 全くわからない、兄さんは僕になにを求めているんだい、だって今日は僕の、

兄&弟 誕生日だ!

   間。

弟 すみません、このデビルス、

兄 おめでとう!

弟 邪魔だよ注文できなかったじゃないか。

兄 お前は何をしに来たんだ。

弟 食事をしにだよ。兄さんは違うのかい。

兄 違う。

   弟、ショックを受ける。

兄 どうした?

弟 がっかりだよ、なんて不純な人なんだ兄さんは。

兄 え、ごめん、どういうこと?

弟 食事っていうのは、僕たちに許された一番の幸せだよ、恵みだよ、汚れた人間を辞めて、一番動物らしくなれる瞬間じゃないか。

兄 でも、動物なら、パフェはちょっと、

弟 うるさい兄さん、食べたいものを食べるのが一番動物らしい行為だろ、食べたいものを食べる、殺したいやつを殺す、えぐりたいものをえぐる。粘膜があったら舐める。

兄 粘膜の話は、よせやい、こんなところで。

弟 食事のときに、食事のことだけ考えてる人間がいるだろうか、もしいるとしたら、僕はその人間だけは殺さないよ。あぁ、他の人間はいずれ全部殺すつもりだ、全部全部、お前もお前もお前もだ、兄さん! お前は僕に好きな食べ物をおごるといい、僕をおびき出し、その実、自分ことしか考えてない、僕をコントロールしようとして僕に餌を与えてるつもりなんだ、やっぱりお前もただの人間だ、僕と血が一緒ってだけの、汚れた、薄汚い、毛の薄い、胴長で、短足の、

兄 それが違うんだ。

弟 何が違う。血が繋がってないとでもいうのか。

兄 違う、そもそも俺たちは、人間じゃないんだ!

   間。

兄 すみません、あのー、このステーキセットの牛さんってどこ産の牛さんなんですか、いや、ギャグじゃないっすよ、もうー、勘弁してくださいよー。

弟 なにを言ってるんだ兄さん。

兄 なに?

弟 前は普通に牛肉って言ってたのに、なんで急に牛さんなんて、今のウェイトレス嬢の顔を見たかい、なぜか僕の方まで怪訝な目で見てたじゃないか、いずれ殺す。

兄 落ち着いて聞いて欲しい、我々は人間でなくて、鬼、なのだ。

弟 なん、だと……!?

兄 それだけではない、我々の先祖は、

弟 (ハッとして)まさか。

兄 そうだ、我々天涯孤独の兄弟の先祖は、クソ人間と違い、醜いサルじゃない、……牛さんだ。

弟 なんてことだ。

兄 いままでどうして我々が食事に3時間もかかっていたかこれでわかったか。

弟 反芻していたのか。

兄 そうだ、我々には三つの胃がある。異形を対象にした臓器ブローカー兼闇医者である我々自身がまた、異形だったのだ。

弟 なんてことだ。

兄 どうした、ショックか。

弟 ……違うんだ兄さん、嬉しいんだよ。ぼくは、僕は今まで何人もの人間を切り刻んできた、猫も犬もアザラシも亀もコアラも解剖したことがある。でもね、なに一つ特別なことは感じたことなんてなかった。酒鬼薔薇聖斗の本は読んだかい? アレがキチガイじゃないことなんて誰だってわかるだろ。命の価値、いのちの、イノチノカチ。そんなものがあるなら教えて欲しい。面白いじゃないか。しかし俺は頭が狂っちゃいない。すぐにわかってしまった。人間も虫も精液も等しく、タンパク質のゴミだって。

兄 そうだな。

弟 ただ、人間の胎児を解剖した時だけは、少し、面白かった、ただのタンパク質のハズが、ドキドキした、あの感じが味わいたかったがために、何度も何度も繰り返したけど、すぐに慣れてしまった。胎児を殺すことにもなれてしまったよ、

兄 あぁ、

弟 でもなぁんだぁ、それもこれも、全部、俺が人間じゃなかったからか・・・・本当にすっきりした。頭が狂ってないせいだとずっと思ってた。

兄 あぁ、お前も俺も、まともだよ。

弟 確かに、牛を解剖したことはない。だって人間にとって、この世でもっとも殺すことに抵抗の無い動物の一つだろ? 興味なかったなぁ。それが急にご先祖様か。

兄 あぁ、ご先祖様だ。

   牛肉のステーキが届く。

兄 少し食べるかい?

弟 いや、いい。・・・・あ、

兄 遠慮しなくていいんだぞ、今日はお前の誕生日だ。

弟 じゃあ、切り分けさせてくれよ、兄さん。

兄 ああ、すまんな、頼む。

   弟、肉を切る。

弟 こんなに柔らかいんだぁ。

兄 あぁ、

弟 血が少し出てきたよ。

兄 レアだからな。

弟 そうか、生きてたんだなぁ。

兄 あぁ、

弟 どこに住んでたんだろう。このご先祖様は。

兄 さっき聞いたよ。

弟 どこ?

兄 もちろん、和牛だよ。今日は、誕生日じゃないか

弟 だからか、すごい油だ。

兄 あぁ、きっと全身に、油が。

弟 ・・・・人間は滅ぼそう。

兄 あぁ、そうだな、でも、そろそろ

弟 でも?

兄 俺たちは寿命だ。

弟 そっか。

兄 牛だからな。

弟 食事は、ゆっくり食べる方が長生きできる聞いたのになぁ。

兄 あぁ、ということは、そろそろ終わりじゃないか、人間も。

弟 ほら、切れたよ、ご先祖様。

兄 ・・・・お前、コーヒー行くか?

弟 飲む。

兄 ミルクも入れるか、

弟 入れるよ。

兄 そうか。

  ヨタロウ登場、鬼二人を斬る。二人は地面に転がる。

ヨタロウ 鬼には角はないし。殺せば豚の匂いがする。鬼を殺せば殺すほど、生活は楽になると思ったけど、そうでもなかった。僕は誰にも感謝されないし、もうすぐ飢えて死ぬだろう、飢えなくてももうすぐ死ぬ。もうすぐ死ななくても飢えて死ぬ。死ぬ。

兄 あぁ、君はいつぞやの。

弟 あぁ、桃の人か。

ヨタロウ 鬼と話してはいけないと、昔、おじいさんから教わったのです。

兄 どうして、

弟 どうして、

ヨタロウ 鬼は気が狂っていて、話しているとこっちまで気が狂うし。馬鹿だから話すほど価値あることを言わない、そもそも肉と話すのは滑稽だっておじいさんが。

弟 そりゃ「ハナセバワカル」とは言わないよ。

兄 なんせ手遅れだ。

弟 話してもわからないさ、だから死ねよ。

兄 あぁ、憎むしかないなぁ。

弟 憎むことも退屈だなぁ兄さん。

兄 あぁ、こんなことならパフェを頼んでやればよかったなぁ。

弟 またそうやって何でも自分のせいにする。

兄 あぁ、

弟 兄さんにとっては世界は兄さんのせいで変わっているんだろうけど、僕にとってはそうじゃないんだよ。

兄 あぁ、

弟 お前もだ、桃太郎、すべてお前の視点でものごとを語るなよ。

ヨタロウ 僕の視点で? ・・・・いけない、話してしまった。

弟 僕は気が狂ってないから、わかるんだよ。騙し切るなよ自分自身を。

ヨタロウ どこまでセーフなんだろう。話を聞いていていいんだろうか、でもおばあさんは言っていた、「まともな奴は、自分のことをまともだとは言わない。」

弟 慣用句を鵜呑みにするようなタイプって結局幸せになれるのかな?

兄 自分は幸せだと、思えることが、幸せなんじゃないかそういうタイプは。

弟 哀れだよ。せめて、罪無い胎児をアジのように開いてから何か言って欲しい。

ヨタロウ あぁ、悪か、殺そう。

   ヨタロウ、弟を殺す。

兄 内臓のない暮らしはどんな感じだい。

ヨタロウ あぁ、そのせつはどうも、マッサージをしてもらってから本当に体が軽いんです。ありがとうございました。

兄 それはよかった。

ヨタロウ とてもいい気分です、なにか難しいことを考えそうになっても、いつの間にか、どこかに抜けてく感じで、前はこの辺り(胸)に詰まって苦しかったから。今ではいつでもすっきりしたとても快適な日々を送っています。

兄 よかった。

ヨタロウ 惨めで辛い暮らしは僕のところに色々なものを集めてくる。しかしそれらは形を結ばず、塊にならず、いつの間にかほどけてバラバラに、もう、あの恐ろしい虚無だろうと怖くない、器がない悲しさ、すら消えていく、自然と笑みが広がる。・・・・僕をこんな風にしてくれて本当にありがとう。

兄 嬉しいよ、お役にたてて光栄だ。

   ヨタロウ、兄を殺す。

二つの死体のうち、どちらかを選び、引きずって歩き始める。


4.鬼婆

ヨタロウ つんたったー、つーたったー。

   おじいさんが座っている。

   おじいさんは目が見えなくなってる。

おじ ばあさん、また肉の引き摺る音がするよ。

ヨタロウ ただいま。ただいまっていうんですよね、こんなとき。

   おばあさん登場。

おば 絶対にあけちゃいけないよ。あんた。

おじ でもいい匂いがするんだ。

おば 豚の腐った臭いじゃないか。

ヨタロウ よろしくお願いします。次の鬼を倒しに行くまで入れてください、休ませてください。

おじ ちょっと待ってなぁ。

おば バカ、もうろく。入れちゃいけないって言ってるだろ。

おじ でもいい匂いがするんだ。わし最近肉食ってない。

おば 食べましたよ、たらふく。あたしの分まで食べたじゃないですか。

おじ 嘘じゃあ。嘘付いとる、肉が食べたいよー、肉が食べたいよー。

   目が見えないままおじいさんはその辺を動き回る。

ヨタロウ そうですよ、肉ですよおじいさん今日は赤肉と青肉です。入れてください。

おば 絶対に中に入れちゃいけない。あれは、もう、鬼だよ。

   ヨタロウは門的なものを叩く。

ヨタロウ 入れてくださいよ、おばあさん、僕は感謝してるんです、あなたの言うとおりにして、間違ったことはない。鬼を仕留めてきました、だから家に帰るんです。

おば あんたの家はここじゃないよ。

ヨタロウ どこなんですか、じゃあ。

おば アンタの家はどこにもないよ。

ヨタロウ どこにもないなんてことがあるんですか。

おば あるよ、いっぱい。

ヨタロウ では、ここをわたしの家にしてくれませんか?

おば ここは、あたしの家だよ。

おじ 青い肉でもいい、赤い肉でもいい、黄色い油があればなおいい。おばあさんや、わしはボケとらんボケとるのはお前じゃ、わしの肉を食ろうて忘れとるんじゃ、

おば なにを馬鹿なぁ、

おじ 今朝までは、わしには目があった! 一つあった。昨日は二つあった。一昨日には知恵が、頭の中の肉まで食われてしもうた。ヨタロウ、わしが悪かった。わしが悪かった。

おば なにを、馬鹿なぁ。

おじ 鬼はここにおったのだ。お前が外の鬼を倒しておるあいだ、家の中はこの鬼に食い荒らされてしもうた。助けてくれ、助けてくれ。

おば 馬鹿なことを言ってないで、こっちへいらっしゃい。

おじ 助けてくれ、助けてくれ、ヨタロー!

   おじいさん、手探りで逃げる。おじいさんの声はヨタロウには聞こえない。

おば そっちには何もありませんよ、おじいさん、しょうがない人。それは、エスカレータじゃありませんよ。エレベーターでもありません、ワープはできませんよ。

おじ ヨタロウ! 助けておくれ。助けておくれ。ヨタロウ! こんなに叫んでおるのに、どうしてあの子には聞こえないのだ。

おば よかった、先に声帯を食べておいて。さあ観念しておいで。あの子は素直な子だから、お前が骨になるまでずっとあそこで待っていてくれるよ。

おじ ……!(声にならない)

   おじいさん、おばあさんに物陰に連れられ消える。

おば 鬼の肉なんてねぇ、臭くて食えたもんじゃない。くくく。

ヨタロウ 僕はどこに行けばいいんだろう。


5.竹取り2 

   竹取の翁が電話をしている。

じじい それでプロと言えるのか、こっちは高い金出してんだ、結果出さなきゃ潰すぞ。あと24時間だけ待つ、それであの兄弟が見つからなきゃ、明日から仕事ができると思うなよ。(電話を切り)青竹ちゃん、青竹ちゃーん……あれ? 青竹ちゃーん!!

    杏、登場、ヘッドホンを首から下げている。その動きはひどく弱々しい。

杏 なに? 用事? 今、ナインインチネイルズ聞いてたんだけど、 

じじい 忙しいとこごめんね。

杏 忙しくはねぇよ。あたし不死だし。

じじい それホントにマジですか。

杏 あぁ?

じじい だって、言っちゃなんですけど、どーみても、フツーの人間にしか見えませんよ。

杏 失礼な下等生物だな。

じじい 下等生物ですか、でも今のあなたじゃ子供に勝つ力もないでしょ。

杏 力じゃないんだよ、偉いんだよこっちは。威厳で勝つ。

じじい はぁ。頭が痛い。

杏 アタシが死んだら、あんたになにか悪いのかい。

じじい 死ぬんですか、やっぱり。

杏 ねぇよ。確かに体の調子はすこぶる悪いけど。

じじい 実際悪い。

杏 あぁ、いま階段登ろうとして諦めた。トイレが二階になくてよかった。

じじい トイレ!?

杏 あぁ、

じじい 出るんですね。食べてもないのに。

杏 消化器官が高性能だからか、さすがあたし。

じじい 最後に食べたの、いつですか、

杏 さぁ、・・・・話ないならナインインチネイルズ聞いていい?

   杏、ヘッドホンをつける。

じじい 人前で、ヘッドホンは、あぁ、人扱いじゃないのかあたしゃ。

杏 (外して)なに? 聞こえない。

じじい いや、医者はまだ見つからないらしいですよ。

杏 そう。

じじい ご飯食べましょう。何が食べたいですか。

杏 何も食べたくない。・・・・だって、お腹いっぱいなんだもん。

じじい それはおかしいですよ。

杏 だって、今まで入ってないものが入ってんだよ、そりゃいっぱいいっぱいだよ。

じじい あなたの口からいっぱいいっぱいなんて聞けるとは。

杏 (ヘッドホン)いっぱいいっぱいだよ。

じじい 興味なかったじゃないすか、音楽。月人は静寂を好むとかなんたら。

杏  そんなこと、

じじい 言いました、映画も、音楽も、絵画も、写真も、全部くだらないって馬鹿にしたでしょ。

杏 あぁ、はじめモーツァルトとビートルズを聞かせようとしたんだっけ。

じじい 地球の音楽を紹介するときの鉄板らしいですよ、その二つ。

杏 あのときはどう聴いても雑音だったなぁ、あ、写真とか後で見せてよ。面白そうなのが二三点あった気がする。

じじい 写真よりごはんですよ、しかし、変わりましたね。

杏 べつに、暇つぶし。

じじい なんか、震えてません。大丈夫ですか

杏 え、

じじい やっぱり少し休んだほうが、ほら、

杏 気づいたんだけどさ、寒いんじゃない、この部屋。

じじい そうですか?

杏 少し、寒い。

じじい 大丈夫、ですか。

杏 大丈夫。

じじい やっぱり弱ってるなぁ、原因ははっきりしてるんだ、あのヤブ医者ども。

杏 大丈夫だよ、ほら、あんたも震えてんじゃん。

じじい え?

杏 小さいけど。ほら。

じじい そう言われたらそんな気もしてきた、・・・・やだなぁ年かなぁ。

杏 仕方ないじゃん。人間はずっと震えてるってことに最近気づいた。

じじい どうして。

杏 さぁ、心臓があるから?

じじい いや、寒いんでしょ。

杏 うん、寒いから震えるんだ。

じじい 暖房つけます。

杏 寒くない時も震えるよ。

じじい どんなときに。

杏 音楽聴いてる時。

じじい 音も振動ですからね。

杏 今のあたしは震えっぱなしだよ。

じじい 手術の失敗じゃなきゃいいんですけどね、ことによると、せっかく馴染んできたのかもしれませんが、その心臓とはおさらばしてもらいますよ。

杏 それはちょっと、やだな。

じじい まだ私を月まで案内するという大仕事がありますからね。それありきのナインインチネイルズ、AKGのヘッドホンです。・・・・(電話を一瞥して)埒があかない。あ、アタクシちょっと行ってきます。食事は手配しておくので、

杏 いらない。

じじい ダメです。食べたいものありますか?

杏 ない。

じじい じゃ食べたくないものは? 特に食べたくないもの。

杏 肉。

じじい 了解です。

   じじい、去る。

杏、ヘッドホンを耳に当てる。

   聴く、間。   

   ノックが響く。

杏 誰?

ヨタロウ 肉はいりませんか?

杏 今一番いらないものだよ。

ヨタロウ そうですか、じゃあ、鬼はいませんか。

杏 鬼? なんこと?

ヨタロウ そうですか、少し、休ませてもらってもいいですか。

杏 好きにすれば。

ヨタロウ 好きに?

杏 なんで尋ねる。

ヨタロウ 好きに、と言われたのが、初めてなので、戸惑ってます。

杏 じゃあ帰れ、あたしはあんたみたいなのが一番嫌い。

ヨタロウ かえれ、

杏 え?

ヨタロウ ホントは帰りたいんです。

杏 じゃ、帰れば。

ヨタロウ でも帰れないんです。

杏 好きにしろって。

ヨタロウ いていいのですか、

杏 めんどくさいな。あんた。いいよ。あたしのうちじゃないし、っていうかあたしの星でもないし。

ヨタロウ ありがとう。

   間。ヨタロウ入ってくる。

杏 変なやつ。

ヨタロウ そうですか。

杏 こんなに振動の少ないやつ初めてだ。

ヨタロウ 振動?

杏 震えだよ。

ヨタロウ 震えたことは、ないです。危ないじゃないですか、鬼殺すときに震えてると。

   料理が届く。

杏 あー、いらないつったのに。

ヨタロウ ・・・・。

杏 ねぇあんた、頼みがあるんだけど、

ヨタロウ 私にですか!?

杏 そんな意気込むことじゃないんだけど、あたしの代わりにそれ、食べてくれない。

ヨタロウ 料理を?

杏 うん。

ヨタロウ それで、食べたあと僕はなにをすればいいんですかね、

杏 え、だから、食べればいいんだよ。

ヨタロウ 食べる、だけ?

杏 うん。

ヨタロウ ・・・・いい仕事ですね。

杏 別に仕事じゃないけど。

ヨタロウ やります。

   ヨタロウ、料理を見る。

ヨタロウ これは、肉じゃないんですね。

杏 あぁ、そういう風に言っといたからね。

ヨタロウ ・・・・これ、なんですか?

杏 団子じゃない? また団子か、地球人はあたしをなんだと思ってんだ。

ヨタロウ 団子?

杏 あぁ、これはキビダンゴ、だね、団子について、こんなに詳しくなってしまった、恥辱の極み。

ヨタロウ 食べていいですか、

杏 いいって言ってるでしょ。

ヨタロウ いただきます。

   ヨタロウ、きび団子を食べる。

ヨタロウ ・・・・。

じじい、帰ってくる。

じじい 大変です、医者の兄弟が殺されてました。……え、誰?

杏 誰でもいいでしょ。

じじい いや、よくないですよ、おい、なに食ってんだよ、それはこの人の団子だぞ。

杏 だからなんで団子なの。

じじい 好きでしょ、団子。

杏 まぁ、普通だよ。

じじい 普通ですか、普通じゃ困ります。もりもり食べてくださいもりもり。もりもり食べてもりもり出せばいいじゃない。

杏 なにその、テンション?

じじい これが落ち着いてられますか、死んだんですよ、あの医者が。こんなことなら余計なことをするんじゃなかった……お前は食べるな! もりもり。

杏 ほっとけって。

じじい どうしよう。

杏 どうしようもこうしようも、何が問題なんだ。

じじい 問題ですよ、あんたに死なれちゃ、計画がおじゃんだ。アタシとミカドはね、ちょっと月まで行きたいだけなんですよ、ついでにちょっと月の石をもらったり、月の食べ物をもらったり、月の土地をもらったり、月をもらっちゃったりなんかして、

杏 まぁ、落ち着きなよ、ほら、ナインインチセンチネイル。

じじい わぁー、落ち着くときに聴く音楽じゃないでしょうよ!

杏 あたしは落ち着くんだよ!

じじい ノイズだこんなもん!

杏 ノイズだよ、ノイズ以外になに聴くんだネイルズで!

じじい こんなもん聞いて落ち着くなんて、さぞかしノイズだらけの星なんでしょうね。月は。

杏 お前らの子宮の中もな! この猿!

じじい サルを馬鹿にするな、お前らなんだ、先祖は、ウサギか! 蟹か!

杏 黙れ、カニクイザル!

ヨタロウ 御馳走様でした。

杏 あぁ、

ヨタロウ 鬼ですか。

じじい え?

ヨタロウ この人は鬼ですか?

じじい え、え、なにこいつつまみ出せよ。

杏 悪人だけど人間だよ。人間じゃない悪人っていないか、

じじい アタシは悪かないですよ何一つ。

杏 悪ざるだ悪ざる。

じじい 私はね、人類の存続をね、真剣に考えてんですよ。したらね、戦争しかないじゃない! だって!

ヨタロウ やはり鬼ですか?

じじい 鬼じゃないです、鬼はこいつらです。

杏 はぁ!?

じじい だって人間じゃない。人間じゃないものは、なんかだ。人間以外はぜんぶなんかだ。

杏 なに、ラリってんだよ。ネイルズ聞きなってほら、

じじい なにこれ、ぎゅんぎゅん出てるよぎゅんぎゅん。

杏 いいだろ、な。

じじい ちがーう、わたしはね、人間なんだ、フォーキーなんだ、ああディランが聞きたい、ディラン的なものに癒されたい。土の匂いが嗅ぎたい。

杏 どうしたんだよ、急にトチ狂って。

じじい じつはね、もうじき月人が攻めて来るって情報があるんですよ。

杏 ふーん。

じじい あれ、喜ぶと思ったのに。

杏 いや、

(ここで切れている。)