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【重文作家は茨城から続々と】日本の近代美術と茨城の作家たち 春から夏へ 茨城県近代美術館 常設展


企画展も勿論楽しみだが、最近の楽しみは各館の所蔵品、コレクションである。
さて、「近代美術館」と冠がついている訳だがどんな作品があるか?!と見始めたらお宝が凄いじゃないですか。

簡単に説明するなら、茨城県版「重要文化財の秘密」展だ。


中村彝、小出楢重、横山大観、川合玉堂、菱田春草…などなど。
ただ、すごい人たち集めてます、ではなく茨城県にゆかりある人物や題材というコレクションの方向性がしっかりある。
だからこそ思う、茨城県の切るカード、凄い。

河童の芋銭

ただ、その錚々たるメンバーの中で初めて目にした作家名が1人。

横山大観の作品の隣になんかすごい自由な河童の絵が飾られている。

横山大観の作品のとなりこれ。
かっぱのまぼろし。河童自体が幻なのではなく??

ん?…なんだ何だ?横山大観の作品も布袋さんがあくびしてる可愛い感じので、生々流転とはだいぶ毛色が違ったけれど(大観さんは元から人物描くとつたなさが伴うよね…)
とそれは置いておいて。

小川芋銭?
おがわうせん?

え、名前に芋がついてるけども??
この感覚、デジャヴである。以前府中市美で初めて出会った蓑虫山人みたいな?


もー、まだまだローカルの面白い作家っていっっっぱいいて、第二の河鍋暁斎なんてブレイクも今後もあるのだろうな…

さて、その小川芋銭の作品はですね、芋を食べて放屁合戦という題材「於那羅合戦下絵」というものでして…。
小学生男子が大変喜びそうな。
さすが、名前に芋の文字が入ってるだけあるな。
展示室中央の1番目立つショーケースに展示されてましたよ。

この真ん中の黒いケースにやうやうしく


まず蒸したての芋を食います!


開始!
狐も鼻を摘んで退避します。
この真面目なゴシックでふりがなまでふられるおかしみ
battle of onara 英語タイトルかっこよくね?


もしかして茨城近代の目玉作品って…これかな?

茨城近代さんの芋銭推しは、展示室内で配布している芋銭小冊子や、過去、芋銭展を開催している様子から十分にうかがえる。
研究の第一人者がこの茨城近代さんなのだろう。

しかし…横山大観や川合玉堂と放屁合戦が同じ部屋にあるって、なんかすごいところに来たなーっ!と感慨深くなりました。
勿論、小川芋銭と横山大観の繋がりもあってのことだけども。小川芋銭を評価して推したのも大観ということだ。大観、結構ユーモラスな部分があったのかな。

中村彝のコレクション

茨城近代のもう一つの魅力。
水戸出身の中村彝のコレクションを複数まとめて見ることができるのは魅力だろう。
アーティゾンでも、国立近代でも肖像画が展示されていることが多いのだが、それだけではなく静物画もありそれがまた、良いのだ。

テーブルクロスの様にカルピスの包み紙

タイトルにカルピスの包み紙という言葉が含まれている作品がありなんともグッとくる。
そして、ここに来たら合わせて絶対に立ち寄って欲しいのが中村彝アトリエ館だ。平日は13時から2時間の開館。

こじんまり。5月の青空に映える黒いアトリエ

美術館の裏手の庭に位置する、中村彝の落合のアトリエの復元。レプリカか、と侮るなかれ、中には彼の遺品がしっかりと展示されている。
イーゼル、絵の具の跡の残る作業台、静物画に使った机、モデルを座らせたソファ。よくもここまで、残ってくれたな、と感動する。

そしてその隅の壁に小さく作られたノッチに、蓋がない小さな陶器のポットが展示してある。

この蓋なしポット

よく見ると、先ほど展示室で見た静物画に描かれたポットと全く同じではないか。 

持ち手のトップがスパッと水平になってる共通項

ボランティアガイドのご婦人に「これはあの絵のモチーフですね?」と確認したら「そうらしいのよ〜同じよね!蓋は無いのだけど」と楽しそうに回答してくれたのだ。

しかしポットを良く見ると継いで直した跡がある。そして、テグスでしっかりとくくりつけられている。
遺品になる前に割れていたら、恐らく壊れ物として、残されなかったのではないか?と思い、

「これひびが入ってますけどあとから壊れたのですか?」
とたずねたら
「それはね、3.11で割れてしまったみたいで、修復に2年かかったみたいなの」と。

そうか…そうだ。
茨城県も被害がかなりあったのだ。
先程の本館ロビーの石の床にあった傷も彫刻作品が倒れてできたものだ、と記載があったのを見たばかりだ。

中村彝も病身で関東大震災に遭いそれでも生き延びた事で自分の生かされている意味を悟り死に纏わる作品制作の手を止めている。その後は花を描き始めたともいう。
故郷の水戸も地震の被害に遭い、それでも小さなポットを一生懸命時間をかけて修復してくれた人がいる。なにか少し報われる思いがあるのでは、と思わずにはいられなかった。

しかしこの絵↓

これどういう状況の静物画?


画面の真ん中を遮ぎるように、木の柱が一本描かれている。これ、なんでこんな画面のど真ん中にこんな棒描き入れたのかな?と不思議に思っていたのだ。そしたらアトリエ館の遺品展示の中のある机が目に留まった。

実際に使われていた遺品の一つ。
この机の脚部分、絵の木の棒と似てない?

恐らく、この机の下段の棚に先程のポットなどを載せた状態を斜めから描いたのだろう。

この写真の左側をご覧ください

写真にも、まさに今同じ状況が写されている。
これをボランティアガイドの方と話しながら発見して大変楽しかった。
ご婦人お二人には大変感謝である。
とっても楽しい旅の思い出になった。

遥々訪れる意味のある美術館

吉村順三の建築も素晴らしい茨城県近代美術館。
スタッフの方々も優しいし、コレクションもよいし…新たに好きな美術館が増えて大変嬉しい。
今後の展覧会も期待している。

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