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02-4.「じゅうなな」

「02-3.不良少年も短歌を書き始める」の続きです。今回で完結。
…てか、人生振り返りの連載シリーズ「教員編」のスピンオフ的な感じで書いたんだけど、結局スピンオフ自体もちょっと連載になってしまうという。。。w
どうぞ、よろしくお願いします*

(「教員編」本編はコチラ↓)

去リユク人へ。

僕は「期限付き」の国語科教師として、教壇に立ちます。

そのことは着任当初から生徒にも伝えてあったので、僕がまもなく任期を終えることは生徒も皆知っていました。
一緒に着任したきくじろう先生は「1年間」の任期だったので、任期半年足らずの僕の方が先に現場を去る

国語科だより「じゅうなな」はここまでで「16枚」発行していました。
なので、せっかくだからってことで、僕の卒業は「17号目」の節目に合わせてもらえることになりました。
特にねらったわけじゃなかったと思うけどね。たまたま。
僕から生徒へのメッセージはもう原稿にまとめてあって、きくじろう先生に「僕の離任後に発行してください」と頼んだ。


学校では、僕のほかにも同じタイミングで離任になる、海外から来ていたAETの先生とかもいて、合わせて「離任式」が行われることになりました。

離任式、当日。
体育館での式を終え、職員室に戻ると、きくじろう先生が寄ってきて、おもむろに僕に封筒を差し出してきました。
照れなのか、ニヤニヤなのか、そんな感じの表情だった。

「17号の前に、くぼたろう先生のためだけの特別版です」

きくじろう先生は僕の任期終了に向けて、「じゅうなな」のプリント書式の上に、全校生徒からのメッセージを集めてくれていたのでした。

僕らが紡いできたもの。生徒たちの声。彼の心。
僕らが心血注いだこのテンプレートを使うあたりが、まったくニクイぜ。
短い期間だったけど、大変なところだったけど、

あぁ、この人と一緒に取り組めて、本当によかったな。。


最後にそれを思わせてくれる、プレゼントでした。
心から、ありがとう。

…だけど、感極まって涙が出たりしなかったのは、きっと彼一人に後を任せて先に出ていくという「気掛かり」や「心残り」があったからなのかなって、振り返った今、思うのです。
ま、まだ若くて涙腺緩んでなかった、ってのもあるんだろうけど。笑

期限付き教師による「弊害」


僕が中学校を去った後。

ほんとに偶然なんだけど、ちょうど僕と入れ替わるように、今度は大学でバンド組んだギターのヤツが、同じ中学校に臨時で入ることになりました。
彼の教科は「英語科」なので、僕の穴を埋めるわけではなく、たぶん一緒に離任したAETの先生の枠、とかだったと思う。
僕が期限付きだったのは「前任の国語の先生が復帰するから」だったわけで、その通り、前任の先生は僕の離任に合わせて復帰されたのでした。
入れ違いなので、お会いしたことはないんだけど。

ギターの彼とは同じバンドなので連絡を取っていて、その年末に会って飲んだ時に、その後の中学校の状況を色々と聞くことができました。

お前、「何してくれたんだ」って言われてるよ。

おっと、予想外の話が飛び込んできたぞ。

え?何で?誰に?
「復帰した国語の先生」にさ。


彼の話はこうでした。


前任の先生は復帰後、休職する前と同じスタイルで授業に臨んだんだけど、悪いヤツらはやっぱりまったく授業に参加しない

「わかんねー」
「つまんねーよ」
「くぼたろうの授業がよかったなー」

…何なら、休職前より言うことを聞かなくなってる感じだ。

「いいから黙って座りなさい!」

先生は、教科書を机の上に無理矢理広げ、座らせようとした。

「何すんだよ!」

悪いヤツは2階の窓から教科書を投げ捨てて、そのまま出て行った。

今の国語の授業は、そんな感じらしい。

僕は「ま、そのやり方ではそうなるよな…」と心の中では思いつつも、黙って聞いていました。

僕ときくじろう先生のやった取り組みは、その成果はどうあれ、「これまでの慣習」っていうものを壊してしまったことには違いないんだろう。
それを快く思わない人たちもいる。
ましてや、僕はもう職を離れてしまった立場で、何なら目の前で話してくれてるギターの彼だって、今はその中で「先生」として頑張ってる。
…僕は何も言える立場じゃないな、って思った。


そして、今なおその中で頑張ってるだろう「きくじろう先生」のことが気になった。

そういえば、きくじろう先生は、どう?
まー、普通にやってるよ。
「国語科だより」も頑張って出してるし。
あと、久保田先生は元気か?って。

きっと、それまでの「きくじろう先生」の感じを知らない彼には「普通」に見えるんだろうな。
元々おとなしい感じの人だったから。
でも僕は、力強く前向きになっている時の「きくじろう先生」を見ている。
けど、彼の話で聞いた様子は、僕にはあまり元気がないように感じられたのでした。

…や、たぶん、僕でもそうだろうな。
心ともに一緒にやってた片割れが居なくなって、一人残されたら、そりゃあイキオイなくなって当然だよね。。。

忘れてた思い出。


彼からの近況報告を聞いて、まもなく。
「きくじろう先生」がまもなく一年間の任期を終えるちょっと前、
僕は久しぶりに、きくじろう先生に電話をしました。
よろこんでくれて、嬉しかったな。

そして、言ってくれた。

「じゅうなな」の最後の号に、くぼたろう先生の言葉を載せませんか?

僕は、いろんな思いが交錯していたな。
そう言ってくれてありがとうって気持ちと、一人残してしまってごめんねという気持ちとか、久しぶりに話せて嬉しい気持ち、彼に、子どもたちに今の僕が何を伝えられるんだろうとか、、、
うまく言葉じゃ表せないような感情。

でも、最後に一緒にできて、よかった。


後日。
一年間の任期を終えたきくじろう先生から、郵送が届いた。
僕が離任して後も、ずっと一人で続けててくれた国語科だより「じゅうなな」の、すべてのバックナンバーだった。

最終号。
掲載してくれた僕の言葉の上に、きくじろう先生の言葉が並んでいました。



今も大事にとってある、20年前の「国語科だより」。
こうやって、その時の話を書くことができてよかった。

その町を通るときには、いつも思い出します。

きくじろう先生、元気にしてるかな?

(「国語科だより」編:完 )

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最後までお読みいただき、ありがとうございました!頑張って書き重ねていきますので、是非またお越しください。