第90話 母:スマホを持つ

 今年になって、父と母がようやくスマホを持つようになった。
 今までずっと父と母は携帯電話を持っていなかったのだ。
 そう、父と母は文明を手にしたのだ。

 しかし、やはり使いこなすのは大変なようだ。
 スマートフォンは父と母の手には余る代物だったようだ。
 電話の仕方が分からない。
 メールの仕方が分からない。
 全てが分からなかったそうだ。
 本屋に行き、
「誰でも分かるスマートフォン」
 みたいな感じの本を購入する。
 しかし、2人には分からなかったようだ。
「誰でも」に当てはまらなかった父と母だった。

 しかし、月日が経過するにつれ、少しずつ使い方を理解し始めた。
 すると、母はLINEにハマり始めた。
 スタンプが面白いらしい。
 どうでもいいことをボクや兄に送るのだ。

 しかし、四苦八苦しているのが分かる。
 全部ひらがなだったり、変換する漢字がちがったり。
 ボロボロだった。

『カタカナ変換のキーボードないの?』
『ないよ。文字を打ってる時に候補が出てくるでしょ?それを横にスクロールすると、カタカナも出てくるよ』
『スクロールとは?』
『横に流す、指でピッて動かすやつ』
『アイウエオ、こう言うこと。トオモッタケド、ゼンブデテクルノ』
 今度は必要以上にカタカナになった。

『かっこわらいかっこってどうやってやるの?』
『わらいって打つと候補に出てくるよ』
『(笑)本当だ、有難うございます』
 それ以降、(笑)が使われたことは一度もない。

 苦労は絶えないが、とりあえず楽しんでくれているようでよかった。
 こちらとしても連絡がしやすいのでありがたい。
 寂しいおっさんにメル友が増えました(笑)

 ちなみに父はメールを一切やりません。

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