第39話 父:今思うと、ちょっと申し訳ないことをした

 我が家は仲が良い。
 うん、いいと思う。
 まぁ他所の家族がどれほどのものなのかは知らないが、少なくともボクは仲が良いと思っている。
 お互いがお互いのことを好きだと思っている。
 今も昔も。そしてこれからも。
 でも、今思い返せば…今思い返せば父に対してちょっと失礼だったなと思うことがしばしばある。
 
 我が家には耳かきが2本ある。
 「なぜ2本も?」
 「1本でいいんじゃない?」
 潔癖症の家族なら人数分あるかもしれないが、我が家はだれも潔癖症じゃない。
 だから本来なら1本で十分なのだ。
 それなのに、耳かきが2本あった。

 耳かきが2本ある理由、それは父だけ別だったからだ。
「おやっさ(父)と一緒のを使うのは嫌だ(笑)」
 これを言い出したのは母だった。
 ということで父専用の耳かきが用意された。
 ご丁寧に、ボクらの耳かきとちゃんと見分けがつくように父専用の耳かきは柄の部分が短かった。
 
 もしこれをボクがやられたらどう思うだろう?
 ちょっとショックを受けるかもしれない。
 でも父は笑って受け入れていた。

 別の件でもある。
 これはちょっとかわいい。

 ボクはコンビニ行ったときに気が向いたら家族の分のアイスを買うことがあった。
「買って行ってあげようかな?」
 幼き少年の心にもおもてなしの心があったわけだ。
 優しい少年である。
 
 しかし、その中に父の分がいつも含まれていなかった。
 ボク、兄、母。その3人分のアイスしか買わなかった。
 なぜ父の分を買わない?
 そう問われても分からない。
 ただ、なんとなく
「おやっさ(父)の分は買わなくていい」
 そんな思いがボクの心の中にあった。
 多分、父は家に帰って来るのが夜だからという考えが頭の中にあったんだと思う。
 夜遅くにアイスは食べないという解釈だと思う。

 でも、ある日。父がついに言った。
「お父さんの分は?」
 なんだか寂しそうな声。
 そして何より、父の表情が疑問形だった。
 そのときボクは思った。
 父もアイスを食べたいんだと。
 でもこの考え方は違う。
 父はアイスが食べたいんじゃなくて、寂しさから発せられた言葉なのだ。
 それを気づかない幼いボクは罪深い。

 それでもボクはすぐに父に謝罪した。
「ごめん、すぐに買ってくるよ!!」
 でも父は、
「うそうそ。いいよいいよ」
 と遠慮していた。
 ちなみに母は横でゲラゲラと笑っていた。

 ここにはたった2つのエピソードしか紹介していないけれど、他にも絶対に失礼な扱いをしてきたんだろうなと。
 それでも父がこういうことで怒ったことは1度も見たことがない。
 
 では父がなぜ怒らなかったのか?
 器がデカい?——いや、それは多う。
 父が怒らなかった理由。
 それは、みんな父のことを大切な存在だと思っていたからこそ、父は笑って受け入れていたのだと思う。

 世のお父さんもきっと、我が家と同じような扱いなんじゃないかなと。
 それを受け入れていられるのは、まぁ半分は諦めだと思うけど、半分はやっぱり家族愛だと思う。
 家族愛。控えめに言って最高である。


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