第22話 ここだけの話

 旦那、ちょっと聞いてくださいよ。
 ここだけの話。
 ここだけの話ですよ。
 いやぁ、まぁあっしのことなんですけどね。
 あっし、実は転生者なんですよ。
 えっ?マンガの読みすぎだって?
 いや、ホントなんですよ!!
 本当にあっし…転生者なんです。
 えっ?前はどんな世界にいたかですって?
 いや、この世界…地球ですよ。
 魔法?
 そんなの使えるわけがないじゃないですか!!
 あんな非科学的なこと。
 それこそマンガやアニメの世界ですよ。
 それじゃあ転生もあり得ないじゃないかですって?
 まぁそうなんですけどね。
 でも実際に転生したあっしがここにいるんですよ。
 本当ですってば!!

 でね、あっしの前世はライオンだったんです。
 アフリカでね、見渡す限りの自然の中で生きていたんですよ。
 だから今、こうやって人間に生まれ変わって都会の中で生活して驚かされるばかりですよ。
 ライオンだった俺からしてみれば、人間すげぇ!!って感じですよ。
 毎日、人間の凄さを実感するばかりです。
 こりゃ敵わねぇなって思い知らされましたよ。
 間違いなく人間は最強だと思います。

 あとは、あれですね。
 なんだかんだ言って、人間の世界は自然界に比べれば優しいってことですね。
 こんな世界が?
 いやいや、十分過ぎるほど恵まれていますよ。
 だって自然界では完全に弱肉強食ですから。
 弱い者は淘汰されて当たり前なんです。
 あっしはオスライオンでしたから、群れを持っていました。
 自分の力で勝ち取りましたよ。
 でも、最後は奪われました。
 新しく来た若いオスライオンに負けて。
 当然あっしは群れを追放されましたよ。
 弱者に居場所はありませんから。
 あっという間に1人ぼっちになっちまいやしたよ。
 義理とか人情とかそういうものは一切なかったですね。
 それがルールでしたから。
 だから食うために自分で狩りをしなきゃいけませんでした。
 今までは全部メスライオンが狩りをしてくれましたが、もう1匹もいませんからね。
 寂しいもんですよ。
 そんな苦しい生活を強いられたあっしは、老いもあってそのまま野垂れ死んでしまいました。
 これがライオンだったあっしの最後です。

 そんなライオンの人生を歩んできたあっしからすれば、人間社会はずいぶん優しいなと思うんです。
 そりゃ人間も弱肉強食の世界ですよ。
 でも、動物たちよりはマシです。
 社会の雰囲気がこうなんていうか、弱者にも手を差し伸べようって感じがするんです。
 世の中冷たいとか言われてますが、あっしはそこまで冷たいとは思いません。
 温もりだってちゃんと感じられると思います。

 ただ、動物の世界ではないやりにくさは感じますね。
 事なかれ主義、前例主義、既得権益。
 これだけは厄介ですね。
 あっしも立ち向かってみやしたが、まるっきり歯が立たなかった。
 お手上げです。
 …でもね、あっし分かったんです。
 1人じゃどうしようもできないことをどうにかするために人は手と手を取り合うんじゃないかって。
 1人で無理なら2人でやってみる。
 2人で無理なら3人でやってみる。
 3人で無理ならもっと大勢で頑張ってみる。
 そうやって立ち向かうんです。
 一人一人は弱くとも、みんなが集まれば強くなれる。
 人間はそういう生き物なんです。
 それが人間の強い理由だとあっしは思います。
 だから、旦那…元気出してください。
 旦那は1人じゃありませんから。
 みんなが付いています。
 あっしたちは旦那の味方です。
 旦那が元気になることをあっしたちは首を長くして待ってますから。
 そりゃもうキリンのように。

 ありゃりゃ、長くなっちまいましたね。
 あっしたちは旦那が早く元気になって、声が聞けるのを楽しみにしています。
 それじゃあ失礼いたしやす。

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