第73話 父:かゆみ止め

 父はお風呂上りにかゆみ止めを塗る。
 いつからかは知らないが、必ずかゆみ止めを塗っている。
 どうやら塗らないと相当かゆいようだ。
 またご丁寧なことに、そのかゆい場所はちょうど背中の中心あたりで、自分ではかゆみ止めを塗れないのだ。
 そのため、いつもかゆみ止めを塗るのは母の役目にやる。
 夫婦による共同作業だ。

 お風呂上りは必ずパンツ一丁で出てくる父。
 かゆみ止めの薬を取って母に渡す。
「お願いします」
 母は慣れた手つきでぺぺぺぺ~っとかゆみ止めを塗る。
 そして父はかゆみ止めが乾くのを待ってシャツを着る。
 これが一連の流れである。

 しかし、これには1つだけ問題があった。
 それは父がお風呂に入っているとき、母は約50%の確率で寝ているのだ。
 ちなみに就寝ではない。
 風呂に入る順番はいつも母が最後だったから。
 テレビを見て父がお風呂から出るのを待っているが、疲れているため大概寝てしまうのだ。
 そんなときに父がお風呂から出てかゆみ止めを持って母の前に現れる。
「お願いします」
 母は父に強制的に起こされるのだ。
 背中にかゆみ止めを塗るために。
 起こされた母は100%で不機嫌である。
「あ゛ーーー!!もう゛!!」
 母は寝転びながら、また慣れた手つきでぺぺぺぺ~っとかゆみ止めを塗る。
 これでお終いなのだが、母は体を起こさなければならない。
 だって手がベタベタだから。
 ベタベタを解消するためには手を洗わなきゃいけないのだ。
 重い腰を上げる母。
 そうして虚ろな目をしながら手を洗う。
「はぁ~」
 大きなため息を吐いて、母は風呂に入りに行く。
 夫婦になると、「喜びは2倍、悲しみは1/2」と聞いたことがあるが、苦しみはどうやら2倍になるようである。

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