第74話 母:うっとうしいという言葉を使っちゃいけません!!

 ボクが小学1年生の頃、母が急にタイトルのようなことを言ってきた。
「うっとうしいなんて言葉を使っちゃダメ!!」
 なんで「うっとうしい」だけなんだろう?
 なぜこの言葉がチョイスされたんだろう?
 他にも汚い言葉はたくさんあるが、とりあえず「うっとうしい」という言葉は我が家ではタブーとなった。
「うっとうしいって言ったら罰金100円だから」
 母は用意周到に貯金箱を買っていた。
 ユニークな貯金箱だった。
 お金を入れてボタンを押すと、ブサイクなモンスターがそのお金を食べるという仕様になっていた。
「うっとうしいなこれ」
 と思ったが口には出さなかった。

 まぁ始まってみたものの、「うっとうしい」という単語は普段なかなか使わない。
 ましてやボクは小学1年生。
 そんなシチュエーションに出会うはずもなかった。
 父も母も1回も言わなかったと思う。
 餌食となったのは兄だけだった。
 当たり前だが、兄にはボクという弟がいる。
 そう、ボクという面倒くさい生き物が。
 だからよくボクに言ってきた。
「うっとうしいなぁ、おまえは~」
 と言って来た。
「あぁ、言ったあ~!!」
 とボクや母に指を指されるもんだから、さらにうっとうしそうな顔をしていた。
 しぶしぶ貯金箱にお金を入れていた。
 ブサイクなモンスターがお金を美味しそうに食べていたよ。
 まぁ、兄が一番餌食となったのだが、それでも4回、5回程度だった。
 そんなに使うはずがない。
 ちなみに全部ボク関連である。
 肝心のボクはと言うと、1回だけ言った。
 ゲームのしている兄に向って、
「お兄ちゃん、その敵うっとうしいよ!!」
 この1回だけだった。
 結局「うっとうしい」はみんなほとんど使わないということで、タブーは自然消滅した。
 ブサイクモンスターも100円玉を5枚食べるだけで終わってしまった。
 なんとも悲しい結末であった。

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