第91話 兄:ちょいちょい良いお兄ちゃんを出してくる

 兄はずるい。
 本当にずるい。
 なぜならちょいちょい良いお兄ちゃんを出してくるから。
 勉強を教えてくれたり、相談に乗ってくれたり、好きなゲームキャラを優先的に使わせてくれたり。
 いつもボクのことをうっとうしがるのに、なんだかんだ言って優しいのだ。
 下げてからの上げ。
 これじゃあ嫌いになれないじゃないか。
 本当に困ったものである。

 ボクがまだ小さい頃、幼稚園かそこらだろうか?
 兄の友達がいたずらなのか知らないが、ボクを押し倒したことがある。
 別に痛くはなかったと思う。
 ただ、ボクはびっくりして泣いてしまった。
 その子も悪気などなかったのだろう。
 子供のじゃれ合いだ。
 しかし、それを見ていた兄は友達を許さなかった。
「謝れぇー!!」
 ものすごい剣幕で友達に怒っていた。
 びっくりした。
 幼いながらも兄はボクのことを思って怒ってくれたのがはっきりと分かった。
 その兄の友達は申し訳無さそうに
「ごめんね」
 と謝っていた。

「大丈夫か?」
 兄はそう言ってボクを気づかってくれた。
 いつも手なんか絶対に繋がないのに…そのときだけは手を繋いで家に帰った。
 ボクのお兄ちゃんは誰よりもカッコ良かった。
 ありがとうと言いたかったけれど、恥ずかしくて言えなかった。

 子供は大人よりもずっとデリケートだ。
 大人のように希薄な人間関係はなく、エリアが狭い分、人間関係は密接だ。
 兄からしてみれば、学校の友達は大切な存在だっただろう。
 もしかしたらこのことが原因で亀裂が生じるかもしれない。
 それでも兄はボクのために怒ってくれたのだ。
 大人になった今、これがどれほど勇気のいることだったか分かる。
 申し訳ないと思うのと同時に感謝してもしきれない。

 ボクにとって兄は唯一無二の存在で、他の誰にも変わりを務めることはできないのだ。
 もう一度言おう。
 ボクのお兄ちゃんはウルトラスーパーデラックスカッコいい。

 いつも思い出すことはないけれど、ボクは決して忘れない。

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