第62話 母:間違い探し

 ボクが高校生か大学生の頃だっただろうか?
 その頃、月に一度、新聞についてくる付録のようなもので間違い探しがあった。
 この間違い探しが我が家ではブレイクした。
 難易度的には中級といったところだろうか?
 まぁ何が初級で何が上級かは分からないが(笑)
 とにかく我が家ではその間違い探しを必ずやることにしていた。

 そんな間違い探しをやるのはいつも夕食の時間だった。
 食卓にご飯が並び、いざご飯を食べようとしたとき、
「はい、間違い探し」
 と母が提示してきた。
「なんで今なの?ご飯食べてからやるよ」
「ダメ、今やらないかん!!」
「えぇ~?ご飯冷めちゃうじゃん!!」
「冷める前に全部見つければいいじゃん」
 母は頑なだった。
 普通、ご飯を作った者として、一番おいしい状態を食べてもらいたいと思わないのだろうか?
 しかし、母の中では間違い探しがそれを勝っていたのだ。

 仕方がないのでボクは間違い探しに取り組む。
 間違いは全部で7種類。
 4つは瞬殺で分かる。
 もう、これでもかというくらい簡単に分かる。
 でもそこがようやくスタートラインだ。
 5つ目はちょっと目を凝らさなきゃいけない。
 6つ目はかなり集中力を必要とする。
 そして、7つ目…これが難しい。
 毎回、毎回とても苦労した。
 お腹が減って早くご飯が食べたいのに全部見つけるまでご飯はお預け。
「ぐぬぬぬぬぬ…」
 ボクはそんな声を上げていた。

「どう?降参?」
 母はボクがギブアップするのを望んでいた。
「しょうがない、教えてやるわ!!」
 母がいじわるな所は、事前に自分だけ間違い探しをこっそりやっているところだ。
 マウントを取りたいのだ、母は。
 ご飯は食べたいが母に負けるのはもっと嫌だ。
 ボクは毎回意地になって間違い探しをしていた。

 父もそうであった。
 父もご飯を食べる前に母に間違い探しを迫られ、有無を言わさずやらされる。
 間違い探し自体は好きなもんだから結構乗り気で取り組むのだが、やはり7つ目が見つからない。
 加えてご飯を早く食べたいという板挟み状態にあり、毎回苦しんでいた。
 どちらにせよ、母は苦しむボクらを見て楽しんでいた。

 今はというと…父も母も歳で目が悪くなり、間違い探しは遠慮がちである。
 歳には勝てないようだ(笑)

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