第79話 兄:マンガの影響を受けまして

 一時期、「はじめの一歩」というマンガにハマっていた。
 確か従兄から借りて火が付いたんだと思う。
「これは読まねばならぬ」
 はじめの一歩はボクと兄にとって読むことが使命となった。
 おかげでボクはジャンプに加えて、マガジンも毎週買いに行かされるはめになった。
 もちろんお金はボク持ちだ。
 兄は1円も出さなかった。
 ちゃっかりした野郎だ。
 月曜日にジャンプを買いに行き、水曜日にマガジンを買いに行く。
 ボクにとっては重労働だった。

 まぁ買いに行くのは大変だったが、読むのは本当に楽しかった。
 ジャンプもマガジンもいつも最高だった。
 マガジンはいつも「はじめの一歩」を真っ先に読んだ。
 それほど好きだった。
 特に「鷹村VSブライアン・ホーク」は最高の最高に最高だった。
 魂が揺さぶられる感じがした。
 でもそれはボクだけじゃなかった。
 兄もそうだった。
 ただ、兄は魂が揺さぶれ過ぎた。
 もう居てもたってもいられなくて、大学生になってボクシング部に入ってしまったほどだった。

 兄はボクシングが面白かったようだ。
 毎日外を走ったり、減量したり。
 いろいろと頑張っていたみたいだ。
 練習をし過ぎて、一度腕を疲労骨折したみたいだった。
 それでも止めなかった。
 試合では負けてばかりだったらしい。
 それでも止めなかった。
 本当に楽しかったようだ。
 最終的になかなか大きな大会で準優勝?したみたいで本人も喜んでいた。

 そんな兄は一度、プロテストに合格した人とスパーリングをしてもらったらしい。
 結果…ボコボコ(笑)
 パンチが一発も当たらなかったらしい。
 全部ひらりマント。
 プロってすげぇなぁと言っていた。

 また、テレビなどで見る世界ランカーたちは本当に化け物だと言っていた。
 強いのは当たり前にして、あの12R戦う体力あるのが信じられないらしい。
 兄は大学時代、3Rで限界だったと。
 3R戦えばそれ以上動くことができなかったらしい。
「俺、この人たちと戦ったらたぶん一発でやられるわ、一発で」
 そう嬉しそうに語る兄はなかなか面白かった。
 そのうち興奮し始めて、急にシャドーボクシングを始めて終いにはどこかに走りに行ってしまう。
 そんな兄だった。

 ちなみに大学時代に鍛えた体も、今は見る影もない。
 見事なおっさん体型になってしまった。
 もうシャドーボクシングもランニングもしていないそうな。
 子育てに奮闘する父である。

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