第89話 父:落ち込んでいたらしい

 前にも書いたが、父はあまり落ち込まないタイプだ。
 深く考えても仕方がないと割り切るタイプだ。
 逆にボクは考え込んでしまうタイプなので父のような考え方の人が非常にうらやましい。
 割り切るのが下手くそなのだ。

 そんな父が落ち込んでいたことがあったそうだ。
 その原因はボクだ。
 第88話にも書いたが、ボクは父に強く、母に弱かった。
 だから父と言い争いをすることがときどきあった。

 高校時代、何で言い争ったかは覚えてないが、父と言い争いをした。
 ボクは怒って2日か3日、父と一切口を聞かなかった。
 それが堪えたらしい。
 我慢できずに父は母に相談していたそうだ。
「しょうが焼きがしゃべってくれへん…」
 と落ち込んでいたそうな。
 多分これがボクじゃなく、兄だったら違ったかもしれない。
 なぜなら父は兄に強いから。
 逆に怒っていたのが、母だったら…ボクはこんな態度を絶対に取っていない。
「すんません、すんません」
 とへこへこして、母の機嫌を伺っていたと思う。
 でも父だからボクは強く出ていた。

 すると母がボクに言っていた。
「おやっさ(父の呼び名)がしょうが焼きがしゃべってくれへんって落ち込んどるよ」
「えっ?」
「寂しんだって」
 …かわいいじゃねぇか!!
「まぁ、気が向いたらしゃべるわ」
 そう母には答えておいた。

 夜8時。
 父がいつものように帰宅する。
 リビングの扉を開けて父が、
「ただいま」
 と言う。
 ボクは寝転んでテレビを見ながら、
「おかえり…」
 とちょっぴり恥ずかしそうに答えた。

 後から聞いた話なのだが、
 その「おかえり」を聞いた瞬間、父はものすごく嬉しそうな顔をして母ににっこり笑ったそうだ。
 目をキラキラ輝かせて、まるで子供のような笑顔だったらしい。
 やっぱり家族は仲が良いのが1番だ。


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