第46話 父:家に帰って来ると嬉しい

 まだ幼稚園にも通っていないほどの小さな頃、その頃のボクは父が仕事から帰ってくるのがものすごく嬉しかった。
 とりあえず父が家に帰って来たら、
「おとうさん、おかえり~」
 と父の足にしがみついた。
 もうそれはテンプレのように。
 
 ちなみにこのときの父の呼び名はまだ「おとうさん」だ。
「おやっさ」と呼ぶようになるのはまだまだ先の話である。

 父へのしがみつきが終わると、ボクらは家の外に出る。
 せっかく父は家に帰って来たのに半ば強制的に外に出される。
 その理由は日課の三輪車。
 そこらへんをぐるっと回るのだ。
 ボクはこの三輪車にまたがって父と散歩するのが大好きだった。
 まぁ父は
「よし、家の中に入ろう!!」
 とすぐに口にしていたけれど…
 ボクはそんなのお構いなしでとにかく一生懸命三輪車を漕いでいた。
 楽しかった。

 ちなみに母はボクや兄が帰って来た父に飛びつく様子を見て、
「なんですぐにお父さんの方に行っちゃうの?」
 とジェラシーを感じていたそうだ。
 大人になってから偶然誰かとそんな話をしていた。
 独り身のボクからしてみれば、分かり得ない感情だ。
 同時になんか申し訳ないと思ったし、ちょっぴり恥ずかしい気持ちになった。

 それにしてもなぜ父が帰って来るとそんなに嬉しかったのだろう?
 考えても考えても分からない。
 不思議な現象だ。
 とりあえず分かっている確かな事実は、ボクが父のことを大好きだったということである。

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