第44話 母:掃除機クラッシャー

 我が家の男共は基本全く掃除しない。
 びっくりするほど掃除しない。
 女性からしてみれば嫌気がさすほど。
 父は自分の商売スペースであるお店は徹底的に掃除するが、家になると全然だ。
 ボク、兄、父は掃除機に触らないのだ。

 そのため、我が家の掃除は全て母がする。
 全て彼女の肩にのしかかるのだ。
 他人ごとで申し訳ないがすごく大変だ。
 母はいつも一生懸命掃除機をかけてきた。
「掃除機をかけるのは大変だけど、嫌いじゃないなぁ」
 と言ってくれていたのはせめてもの救いだった。

 ある日、母はいつものように掃除をしていた。
 季節は夏。部屋のクーラーをつけていなければ家の中でも当然暑い。
 母は汗を流しながら一生懸命、掃除機をかけていた。
 掃除機も一生懸命にモーターを回す。
「ウィーン!!ウィーン!!」
 まるでセミのように鳴いていた。

 しかし、突然ピタッと掃除機が泣き止んでしまう、
 ピクリとも動かない。
「あれ?どうした?」
 戸惑う母。
 しかし、いくら心配しても掃除機は復活しない。
 ご臨終である。
 モーターが熱に耐えきれず、焼け切ってしまったのだ。

 その夜、母は父に報告する。
「まぁ、この掃除機もずっと使っとったしなぁ。買い替え時だな」
 と、父はほとんど触れたこともない掃除機を、さもずっと使い続けてきたかのような言い方をしていた。
 とりあえず掃除機は新しいのを購入することとなった。
 母は新しい掃除機を買ってもらえるので喜んでいた。

 しかし、事件は起こる!!
 新しい掃除機を購入して3日、また掃除機が動かなくなってしまったのだ!!
 原因は同じ。モーターがまた焼けてしまったのだ。
 ピクリとも動かない掃除機…ご臨終である。
 今回は3日という短命で、セミの寿命よりも短い生涯だった。

 その夜、また母は父に告げる。
 寛容な父もさすがに
「勘弁してくれぇ~」
 と泣いていた。
 ボクはその2人のやり取りを見てゲラゲラと笑っていたが、母は
「ごめんなさ~い」
 とずっと下を向いていた。

 機械も人間と一緒。休ませることが大事。
 掃除機は自分の命をかけて、母に教えてくれたのだ。
 生活を豊かに。そして人の心も豊かに。
 素晴らしい家電である。

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