第14話 鎖に繋がれたゾウ
サーカスのゾウは小さな頃に杭に鎖が付いたものを足に繋がれる。
なんでそんなことするかって?
逃げないためだ。
本当は駆け回って遊びたいのに、鎖が繋げられているからそこから動くことはできない。
自分の力じゃ、その鎖を外すことはできないのだ。
そんなゾウも大人になる。
子供の頃より、体はだいぶ大きくなったし、力もだいぶ付いた。
しかし、そのゾウは未だに自由に動くことができない。
なぜならそのゾウの足には鎖が繋がれているから。
でもここだけの話、その鎖は大人のゾウなら引きちぎれることが可能だ。
だけどそのゾウはその鎖を引きちぎろうとしない。
理由は子供の頃にいくら鎖を引きちぎろうとしても無理だったから。
やるだけ無駄。
そんな考えが染みついたゾウは死ぬまで鎖に足が繋がれたままだった。
「ゾウって賢い動物だって聞くのに、こんなことも分かんないのかぁ。かわいそうだなぁ」
「おい、何をちんたら飯食ってんだ?」
「えっ?…あっ」
「お前にはそうやって優雅に飯を食う時間なんてないと思うんだが…」
「す、すみません!!」
「今どきお前みたいな奴を雇ってくれる会社なんてどこにもないんだぞ。うちとしては別にいいんだぞ。お前の代わりなんていくらでもいるんだから」
「す、すぐに業務に戻ります!!」
「はぁ…疲れたぁ。結局22時回っちゃった」
「おかえり…遅かったわね」
「あっ…ただいま。部長にこっぴどくやられてさ」
「ふ~ん…どうだか。ねぇ、ところで牛乳買ってきてくれた?」
「あっ!!」
「もう!!ちゃんとメール送ったじゃない!!なんでいっつもそうなの?」
「ごめん…」
「あなたって本当にダメね。言われたこともできないなんて。部長さんに同情するわよ」
「………」
「逆にあなたはラッキーね、私と付き合えて。私がいなかったら、あなたなんて、ずっと1人よ」
「あはは…そうだね」
「で、どうするの?牛乳」
「す、すぐに買ってくるよ」
「…お願いね。私、明日早いから」
「近所のコンビニが牛乳売り切れで、だいぶ遅くなっちゃった。…あれ?真っ暗だ」
「寝ちゃったのかな?はぁ…お腹減った。ご飯は…ないか。カップ麺でも食べよう」
「…はぁ、おいしい。カップ麺を作った人は天才だな。テレビ…ちょっとだけ…声を小さくして」
『私たちはこの国に生まれて本当に幸せですよ。他の国を見てごらんなさい。治安も悪いし、医療制度だって整っていない。社会保障だって他の国に比べれば断然マシです!!』
「そうかぁ、海外に移住する人が最近増えてきているけど、実際は大変なんだろうなぁ」
「あぁ、ボクって恵まれているんだなぁ」
「素晴らしい国に生まれて、素晴らしい彼女が居て、素晴らしい会社に勤めることができて…ボクってとっても幸せ者なんだ」
「………うぅ」
男は涙を流していた。
それでも気がついていなかった。
自分が鎖に繋がれていることを。
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