初めての東京(朝食)
初めて上京した。
ホテルでの目覚めである。
ホテルといっても、壁の薄いホテルである。
当然、朝食はない。
昨晩、酒盛りをしていたおじさん達は、もう出勤していた。
フロントに尋ねた。
「安い食堂はありますか?」
「東京の物価は高いよ」
「そうですか」
「売店はありますか?」
「ウチにはないよ!」
「どこに行けばいいですか?」
「もうちょっと立派なホテル!」
「……?」
「売店」の意味が違うようだ。
「売店」を何と言えばいいのだろうか?
もう外国語を操っている気分である。
パンと牛乳が欲しいだけなのに。
「パン屋さんはどこですか?」
「右に行った所!」
ぶっきら棒の返事が返ってきた。
とりあえず行ってみた。
「ごめんください」
「……」
店員さんはいるが返事がない!
私の田舎では、まず挨拶から始まる。
「おはよう」
「ばあちゃん元気?」
「今日は暑くなるよ」
「雨があがるといいね」
などである。
陳列棚へ移動した。
パンの種類の多さに驚いた。
私の田舎では、水分が抜けてしまったアンパンかジャムパン程度しかない。
当然賞味期限も怪しい。
パンを触った。
包装の上からでも柔らかいことが分かった。
「いくらですか?」
レジスタで計算している!
私の田舎では、店のおばちゃんが暗算で計算してくれる。
代金を手渡そうとすると、トレイに入れるよう指示された。
郵便局のようである。
東京の人は手渡しを嫌っている!
お釣りの小銭をトレイで受け取った。
私の田舎では、手渡しした上で、
「確かめてね」
と言葉がつく。
更に、
「今日新しいパンが入るよ」
「○○さんちの○○さん、東京行ったよ」
続くこともある。
「ありがとうございます」
と店員さんに言われた。
情感がない。
味気ない。
ホテルの部屋で食べた。
美味しいが物足りない。
どこに行ったら心の通う会話ができるのかと感じた。
同時に、田舎へ帰りたくなった。
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