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『晴れの日』から銀行との関係を深める

[要旨]

コンサルタントの徳谷智史さんによれば、業績が順調なときは、銀行から融資の営業を受けることがありますが、業績が悪化したとたんに、手のひらを返すように内諾していた融資を取り消されたりすることがあります。したがって、銀行とは苦しいときにお金を貸して欲しいと頼るだけではなく、仮に順調であっても、円満な関係を築いておくことが大切ということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、投資家が創業初期の会社に出資をしようとするときは、ビジネスモデルよりも、起業家本人を評価しており、それは、創業初期の会社の事業は変化していくことが多いからであり、結局、経営者の本気度、志、ブレがないかという経営差者の能力に投資をしているということについて説明しました。

これに続いて、徳谷さんは、銀行から安定的に融資を受けることができるようにするためには、日頃から銀行との付き合いを深めておくことが大切ということについて述べておられます。「ある会社の話です。事業が順調なときは、銀行からの追加融資の営業がありました。ところが、あるとき、事業環境が大きく変わるタイミングで、収支が大幅に悪化しました。

すると、金融機関の担当者から手のひら返しをしたように、『(内諾していた)新規の融資は取りやめたい』と告げられ、さらに、『月次の決算状況はどうですか』と電話がかかってきたといいます。財務状況が悪化し負債が増えすぎると、銀行内で査定ランクが下がる。最悪の場合、『破綻懸念先』に指定されるので、担当者としては敏感にならざるを得ないのです。こうした例はよくありますが、銀行や金融機関が悪いわけではもちろんありません。お金を貸すのは非常にリスクのある行為ですから、銀行がリスクヘッジをするのは当然のことです。

とはいえ、銀行も人の集まり。ルールに対しては厳格ではありますが、中には担当者が親身になってくれるケースもあります。想いを持った担当者が、審査部や支店長と掛け合い、与信審査を通してくれた例もありました。だからこそ、銀行とは苦しいときにお金を貸して欲しいと頼るだけではなく、仮に順調であっても、円満な関係を築いておくに越したことはありません。

私の過去を思いかえしても、決して簡単に融資がおりるような状況ではなかったにもかかわらず、支店長に自ら掛け合いながら、融資実行を決めてくれた当時の担当者には今も頭が上がりません。スタートアップに限らず、会社が一定以上の規模になると、運転資金の確保や設備投資などで、銀行からの借り入れは必須になってきます。金融機関とうまく付き合っていくためには、相手の論理を知っておいて損はありません」(70ページ)

徳谷さんが、「査定ランク(恐らく、債務者格付けのこと)」について言及していますので、少し、債務者格付について説明します。銀行は、毎年3月と9月に貸倒引当金を計算します。これは、融資額のうち、返済してもらえない金額の見込みのことで、それを費用として計上します。会計に詳しくない方のために、念のために説明を付け加えておくと、会計の考え方では、実際に融資を回収できないことが確定していなくても、保守的に、回収を見込めない金額を費用として計上するというルールがあり、銀行はそれに従って貸倒引当金を計算して費用に計上します。

では、その金額はどうやって計算するのかというと、融資をしている会社ごとに、融資額(担保契約がある場合は、その担保評価額を除いた金額)に引当率を乗じて計算します。そして、その引当率は、債務者格付によって決まります。実際は、もっと複雑で、銀行ごとに独自の方法で細かく計算していますが、ここでは、正常先(≒黒字の会社)は0.5%、要注意先(≒赤字の会社)は5%、破綻懸念先(≒債務超過の会社)は70%とします。

例えば、無担保で1億円を融資している会社に対しては、黒字のときは貸倒引当金は融資額の0.5%の50万円を計上することになります。しかし、もし、その会社が赤字になると、引当率は5%になり、引当金は500万円にしなければならないので、さらに450万円の貸倒引当金を計上することになります。すなわち、銀行は、融資相手の会社の業況が悪化するだけで費用が増加してしまうのです。

こう考えると、銀行が融資相手の会社の業況に鋭敏になる理由は、少しご理解いただけると思います。ところが、このような銀行の費用処理は、当然のことながら、融資を受けている会社には把握できません。というより、銀行内部の独自の処理であり、銀行が、わざわざ、「当行は、今期、貴社の融資に対して、○○○万円の引当金を計上しました」などと知らせることはしません。

また、融資を受けている会社は、自社が赤字になったとはいえ、融資は返済するつもりでいるでしょうから、むしろ、銀行が自社に対して、融資の一部が回収されないと見込んでいると知ったら、心外だと思うことでしょう。このように、銀行と融資を受けている会社の間には、考え方に開きがあると、私は考えています。とはいえ、私は、融資を受けている会社が銀行の考え方に合わせる必要はないと思います。

例えば、「銀行の引当金を増やさないように、当社は赤字を出してはいけない」と考えるようなことは本末転倒だと思います。会社が赤字になってはいけないのは、銀行の引当金を増やさないことが目的ではなく、自社の事業を安定的に成長さえるためだからです。では、融資を受けている会社は、どのよううに銀行に臨めばよいのかというと、これも徳谷さんがご指摘しているように、「銀行とは苦しいときにお金を貸して欲しいと頼るだけではなく、仮に順調であっても、円満な関係を築いておく」ことです。

例えば、業績がよいときであっても、悪いときであっても、1か月、または、3か月ごとに銀行を定期訪問し、決算書からは伝わらない情報を銀行に伝えることです。確かに、銀行の融資審査の比重は、財務諸表の定量的な情報、すなわち、数字が8割から9割を占めると考えられます。でも、定性的な情報、例えば、有力な取引先を開拓した、競争力の高い新製品が開発できた、海外から商談の引き合いがきたという情報があるだけでも、数字だけで判断されにくくなります。

また、こういった熱心な経営者に対しては、徳谷さんが巡り遭った、親身になってくれる銀行担当者が現れると思います。もちろん、繰り返しになりますが、単純に、定期訪問をしていれば、赤字になっても融資をしてくれることが約束されるということではありません。でも、苦しい時だけ銀行に頼る会社に対しては、銀行も「どしゃぶりの時に傘を取り上げる」という対応をとろうとすることになるのではないかと思います。

2024/9/19 No.2836

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