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貸借対照表はグロスとネットで見る

[要旨]

貸借対照表では資産の額が示されており、それで会社の規模を把握することができます。一方で、負債の額も示されており、負債によって会社の規模を大きくしている場合、会社の健全性が低いということになります。すなわち、貸借対照表は、グロスの面とネットの面からの多面的なアプローチで分析することが大切です。

[本文]

今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、貸借対照表の貸方(右側)は、お金の出どころを示す項目ですが、それは「誰かから借りたお金」(借入金等)、「自分や他人が出資したお金」(株主資本)、「自分で稼いだお金』(利益剰余金)の3つに分けられるということについて説明しました。

これに続いて、高橋さんは、貸借対照表は資産額、負債額、純資産額を、それぞれ個別に見るのではなく、組み合わせて見ることが大切ということについて述べておられます。「私は、常々、『グロス』と『ネット』を混同してはいけない、と言っている。『グロスで見る』というのは、バランスシートの負債額だけ、あるいは、資産額だけを見るということだ。負債額と資産額の総額を、あえて別個に知りたい場合はグロスで見ればいい。だが、それだと、企業の財務状況は正確につかめない。

例えば、資産額5,000万円のA社と、資産額1億円のB社があったとする。資産額だけを見れば、A社の倍もの資産を持つB社の方が優良企業に見える。ところが、A社には1,000万円負債、B社には9,000万円の負債があるとなったら、どうか。つまり、企業の財務状況を正確につかむには、『資産と負債の差し引き額』を見なくてはいけないのだ。これが、負債や資産を『(グロスではなく)ネットで見る』ということであり、BSでいえば、『純資産』を見るということなのである。

今の例でいえば、A社の『純資産』は4,000万円、B社の『純資産』は1,000万円だから、評価は逆転する。財務状況においては、A社の方が優良企業ということになる。もちろん、負債額から考えても同様だ。C社に10億円の負債があったとしても、資産が12億円あれば、資産額6億円、負債額5億円のD社より安泰といえる。負債額はD社の方が大幅に低くても、純資産額ではC社が優っているからだ」(68ページ)

A社とB社を比較すると、会社の規模はB社の方が大きいということになりますが、健全性ではA社の方が優れているということになります。こういった、多面的な分析は、財務分析の基本的なアプローチです。さらに、利益額、利益率などを加えた分析をすると、より精度の高い財務分析ができますが、銀行の融資審査では、このようにして、規模、健全性、収益性などを分析します。

したがって、高橋さんが述べておられるように、グロスとネットというとらえ方は財務分析の基本といえます。そして、前回、高橋さんは、「『資産』から『負債』を引いたら『純資産』になるというのは、当たり前なのだが、この大きさ、つまり正か負かが問題なのだ」と述べておられたとお伝えしました。すなわち、純資産の額は、健全性の観点から、ある程度の大きさが大切であり、これはネットの観点からのアプローチということになります。

さらに、一部の会社は、純資産がマイナスになっていることがあります。これは、負債の部の金額が資産の部の金額より大きい状態であり、したがって、資産の部の金額-負債の部の金額、すなわち、純資産の部の金額はマイナスになります。では、どうして純資産の部がマイナスになるのかというと、内部留保の逆で、赤字が続くことによって、赤字が累積し、それが資本金等の他の純資産の部の金額を超えてしまうからです。

このような会社は債務超過の状態といいます。そして、株式会社は、財産、すなわち、資本金を裏付けとして成り立つ会社(このような考え方を物的会社といいます)なので、純資産の部がマイナス、すなわち、債務超過の会社は、論理的に事業活動を続けることができないということになります。ただし、オーナー会社の株式会社の場合、実質的には社長の人的信用、すなわち、「社長の顔」で事業が成り立っていると、債務超過の状態になっても事業が継続できることがあります。

もちろん、オーナー会社の株式会社であれば、債務超過になっても問題ないということではありません。破産法第15条第1項では、「債務者が支払不能にあるときは、裁判所は(中略)、破産手続を開始する」とあり、さらに第16条第1項では、「債務者が法人である場合に関する前条第1項の規定の適用については、同項中『支払不能』とあるのは、『支払不能または債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいう)』とする」と規定しています。

すなわち、債務超過の会社に融資をしている銀行は、裁判所に対して申し立てをすると、その会社を破産させることができます。これも、もちろん、銀行が、債務超過の会社について、機械的に破産させるわけではありませんが、債務超過になると、会社は極めて危険ということです。話を本題に戻すと、貸借対照表から得られる情報は大切であり、それらを読み取る能力も重要になるということです。

2024/6/17 No.2742

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