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“大負け”はせず“大勝ち”を重ねる

[要旨]

ドン・キホーテ創業者の安田隆夫さんによれば、同社が開業以来34年間増収増益を続けてきた要因は、何回負けても絶対に致命的な“大負け”をせず、勝つ時は“大勝ち”を重ねてきたからだということです。事実、同社では、これまで100の業態を展開してきましたが、現在、残っている業態は、ドン・キホーテを始めとした15の業態しかないということです。

[本文]

ディスカウントストアのドン・キホーテ(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)創業者の安田隆夫さんのご著書、「運-ドン・キホーテ創業者『最強の遺言』」を拝読しました。同社は、創業以来、34期連続増収増益を続けていますが、安田さんは、その要因のひとつとして、「何回失敗しても、圧倒的な“大勝”があればいい」ということを、同書で述べておられます。「私は人一倍負けず嫌いだた、実は、負けの数も人一倍多い。それにもかかわらず、何とかここまで到達できたのは、何回負けても絶対に致命的な“大負け”をせず、勝つ時は“大勝ち”を重ねてきたからである。

例えば、当初がこれまでに開発・展開した業態は、主力の『ドン・キホーテ』をはじめとして、恐らく100くらいになるだろう。その中で、現在まで生き残っているのは、買収したものを含めて15業態ほどだ。単純に数だけを見ると、ビジネスでの勝率は決して高くない。それでもPPIHは34期連続となる増収増益を歩んできた。ひとえにそれは、“大勝ち”を最重視してきたからに他ならない。野菜やサッカーのようなスポーツでは、決められた時間の中で、自分のチームの得点が相手のチームより1点でも多く上回れば勝つことができる。

1点差の勝利でも、5点差、10点差の勝利でも、すべて同じ勝ち(1勝)である。そのまま勝ちを積み重ねていけば、最終的な得失点量は問われず、シーズン終了後に順位が決まる。いくら点を取ったかよりも、勝率の方が重要なのである。ところが、人生とビジネスではそうはいかない。スポーツと違って、1試合ごとの区切りがあるわけではなく、何十年も続いていくものだからだ。ここでは勝率ではなく、得点と失点の差で勝利が決まる。どこまでも点の総量(得失点差)を競いあう、エンドレスゲームなのだ。従って、何回失敗したかということは、まったく気にする必要がない。

小さな失敗(失点)がずっと続いていたとしても、たった1回でいいから大きな成功(得点)を納めれば、最終的に勝つことができる。圧倒的な“大勝ち”さえあれば、それまでのマイナスはすべてチャラになるのだ。例えば、ドン・キホーテや海外で展開するDON DON DONKIという業態は、極めて数少ない、極論すれば万に1つか2つの確率で、例外的に生まれた大成功例だろう。しかし、その2つだけでも、今の当社の国内外における大黒柱になっている。要するに、『小さなたくさんの失敗をしても、1つの大きな成功があればいい』のだ」(57ページ)

安田さんがご指摘しておられる、「小さなたくさんの失敗をしても、1つの大きな成功があればいい」という考え方は、ほとんどの方が容易に理解できると思います。しかし、ビジネスの場で、これを実践することは、頭で考えるよりも難しいのではないかと、私は考えています。その理由の1つ目は、特に中小企業では、収支管理を実践していないか、または、実践しているとしても稚拙なものしか行っていないからだと思います。本来なら、少なくとも1か月単位で、会社の収支状況を確認し、改善したり、撤退したりする判断をしなければなりませんが、収支状況を決算のタイミングでしか把握しないと、現状が小さな失敗ではなく、実は大きな失敗になってしまっているということにもなりかねません。

2つ目の理由は、これも中小企業でしばしば見られることなのですが、利益を得ることは2番目以降の優先事項になっているということです。これを言い換えれば、社長の得意分野など、自社はどんな事業をするのかが固定的であり、その事業を続けることが最優先事項になっているということです。ですから、もし、自社の事業が赤字になっていても、その事業から撤退するという選択肢は最初から存在しないので、その事業は大負けしてしまう可能性があります。本来なら、会社は利益を得ることを最優先し、もし、その要因が、現在、展開している事業にあるのであれば、傷が浅いうちに撤退するという選択をしなければなりません。

3つ目の理由は、これはどんな経営者でも経験しておられると思うのですが、なかなか失敗を認められないということです。柳井正さんは「1勝9敗」と述べておられますし、安田さんも「15勝85敗」と述べておられます。お2人とも、成功率は決して高くありません。でも、逆に考えれば、9回失敗すれば1回は成功するわけですから、よく言われるように、失敗は成功の母と考え、早く撤退の決断をすれば、成功も早く得られるのではないでしょうか?すなわち、強い決断力を持つことが成功するための重要な要素だと思います。

2024/8/20 No.2806

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