包括担保は日本にはなじまない
[要旨]
金融庁は、銀行が中小企業を支援しやすくなるよう、包括担保の制度について検討を始めました。これについてはまったく無意味ではありませんが、日本では、円滑な融資が実現するための抜本的な手法とはなりにくいと思われます。
[本文]
金融庁は、「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」を設置したと公表しました。その研究会に関する資料によれば、事業の継続や発展を支援する適切な動機付けをもたらすような包括担保法制を検討するようです。
この「包括担保」という言葉は、日本にその制度はないため、明確に説明することは難しいのですが、金融庁の資料によれば、「事業の価値・将来CFから優先弁済を受ける地位を与える契約に、対世効を認める権利」のようです。要は、会社の将来の収益を、包括的に担保にできるというしくみと思われます。
これは、融資をする側の銀行にとって、融資に前向きになる要因になるように考えられますが、私は、次のような理由から、あまり効果がないと考えています。ひとつは、「包括担保」を銀行が取得すると、銀行は、実質的に、株主の立場に近い状態になります。これは、オーナー経営者にとっては、オーナーの地位を実質的に失うことになり、担保設定の同意を得られる例は少ないと思われます。
ふたつめは、地域金融機関の多くは、中小企業に対して、一般論で可能な金額以上の融資をしており、例えば、債務超過であっても追加融資をすることがあります。地域金融機関は、担保がないから融資をしないと考えている方は多いと思いますが、仮に、担保がなくても、キャッシュフローが見込むことができれば、無担保の融資をすることが多いようです。
みっつめは、中小企業の事業価値・将来CFを見極めることは、現実的には難しいということです。というのは、中小企業で精緻な財務諸表を作成している会社は多くありません。むしろ、正確で、精緻な情報があるだけでも、地域金融機関は融資に積極的になることができるでしょう。したがって、金融庁が包括担保について検討することは、決して無意味とは思いませんが、私は、抜本的な改善にはならないと考えています。
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