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足し算ではなく引き算の意思決定が大切

[要旨]

冨山和彦さんによれば、本来、戦略的意思決定というのは、何を優先させるかという議論であり、何かを捨てなければならない引き算の議論だそうです。これに対し、それは縮小均衡になるという反論がありますが、現在は特定の事業に資源集中をしなければシェア拡大ができない時代であり、ダイキンやコマツといった専業型メーカーがそれを実証しているということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんのご著書、「結果を出すリーダーはみな非情である」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、冨山さんによれば、例えば、航空会社では、稼働率を高めることが利益を得る活動になりますが、それを実践するために路線を減らそうとすると、従業員や政治家などから抵抗され、心理的に路線を減らすことから目を背けたくなってしまいまうので、その状態を続けていると、会社が存続できなくなるため、本当に実践しなければならないことから目をそらさないよう、トップやミドルリーダーはリーダーシップを発揮しなければならないということについて説明しました。

これに続いて、冨山さんは、「引き算の意思決定」を行うことが大切ということについて述べておられます。「(多くの会社では)足し算はできても、引き算の意思決定ができない。足し算の意思決定は簡単だ。前述の航空会社の路便拡張と同じで、野球とサッカーのチームがあるけれど、次はバレーボールもやることにした、というようなものだ。そういう足し算の意思決定は反発が少ない。成功確率は低いが、組織内で決めることが楽なのは『あれもこれも』という戦略なのだ。

しかし、本来、戦略的意思決定というのは、何を優先させるか、あるいは右か左のどちらに進むかという議論であり、何かを捨てなければならない。常に引き算の議論、『あれかこれか』の判断なのだ。こう言うと、『それでは縮小均衡になる』と反発する人が必ず出てくる。しかし、現実はどうだろうか。今や、どの市場領域も激烈な競争だ。捨てられず、資源集中ができないプレーヤーにシェア拡大のチャンスなどない。Appleにせよ、SAMSUNGにせよ、日本の総合電機メーカーと比べてプロダクトラインは非常に限られているが、成長力ははるかに高い。

ジャック・ウェルチの時代にあれだけ多くの事業部門を捨てたゼネラル・エレクトリックも、この20年間の長期的成長性は高く、かつ、収益も安定的だ。多数のプロダクトラインを持ち、それゆえ成長力も収益力も短期利益志向のアメリカ企業よりも安定的だなどという『日本的経営優位論』は、とっくの昔に神話になっている。今や、捨てることが成長することなのだ。それは日本においてもダイキンやコマツといった専業型メーカーが実証している」(177ページ)

私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、経営者の方の中には、温情型の経営判断をする方が少なくありません。例えば、「この業務は、機械化できる(またはアウトソースできる)けれど、それをしてしまうと、いま担当している人がやれる仕事がなくなってしまうので、その合理化(または省力化)はしない」というようなことです。特に、中小企業の場合、役員・従業員の関係は家族的な関係になっているので、合理的な判断よりも情緒的な判断が優先されることはよくみられることです。

私も、会社は経営者や従業員の有機的なつながりが力を発揮している面もあるので、必ずしも、合理的な判断を優先しなければならないとは考えていません。しかし、情緒的な判断をする経営者の方は、業績の良し悪しよりも、社内に波風が立たないようにすることを優先してしまう傾向があると、私は考えています。そして、その結果、会社の業績がなかなか改善せず、給与水準も低いままだったり、または、事業が継続できなくなってしまったりするといったことによって、かえって、従業員の方にとってもよくない結果に至ることもあります。

だからといって、私は、「中小企業経営者は、温情的な決断をすることは避けなければならない」ということを伝えようとしているのではありません。温情的な経営者の方は、心の深いところでは、温情的な決断をすることを口実にして、本当にしなければならない決断をすることから逃げているのではないかと考えています。確かに、従業員の方から反対される決断をすることは、経営者の方にとって精神的にきついことだと思います。しかし、そのような決断が必ずしも正しい決断であるとは限りません。

従業員の方が反対する決断であっても、長い目でみれば、従業員の方にとっても恩恵が得られることも少なくありません。繰り返しになりますが、経営者の方の行う決断は、それを行った時点で抵抗されることは少なくありませんが、それでも、波風が立たないことではなく、組織全体から見て正しい決断を行うことの方が、後々、評価されると思います。逆に、温情的な決断しかせず、いつまでも業績が改善しないままの会社にしてしまう経営者の方が、誰からも評価されなくなってしまうでしょう。

2024/8/4 No.2790

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