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ミッションはつくってからがスタート

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、ミッションをつくった後は、経営者自身が真っ先にミッションを実践し、自らに浸透させようとする姿勢を従業員に見せることで、覚悟や本気度が伝わり、徐々に従業員に浸透していくそうです。一方で、先に従業員に実践させるようなことをすると、社内にミッションは浸透せず、ブランディングは成功しにくくなるということです。

[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、こだわりの強いミッションを掲げている会社では、経営者自身が自らのこだわりに苦しいほど縛られているケースが多く、そのような鎖に縛られた状態では、変化の激しい時代を生き抜くことはできないため、経営者のこだわりは削り落として、コアになる部分だけにする必要があるということについて説明しました。

これに続いて、渡部さんは、ミッション・ビジョン・バリューをつくった後は、経営者が真っ先に実践する必要があるということについて述べておられます。「ミッションをさだめることで、『何のために仕事をしているのか』が明確になり、従業員は働くことに対しての意義(働きがい)を感じるようになります。また、ビジョンづくりでは、『どこを目指すのか』という未来像を知ることで期待感が高まり、バリューづくりでは『大切にすべき価値観』を明らかにすることで、社内に一体感が生まれます。

働きがいを感じ始め、期待に胸を膨らませ、社内にまとまりが出てきた従業員たちに対して、何のアクション(浸透活動)もしないとどうなると思いますか?これは、いつもは休日にどこにも連れて行ってくれないお父さんが、やっと『来週の日曜日に沖縄へ行こう!』と言ったのに、その日になっても何も動かないようなもの。これでは言わない方がマシ。ミッション・ビジョン・バリューに置き換えると、“つくらない方がマシ”ということです。

さらに、バリューをつくる時には、従業員もかなりの時間を費やして一緒に考えてくれています。それなのに、何のアクションも起こさなければ、従業員からすると、『あの時間は何だったのか?』、『せっかく頭と時間を使って考えたのに、使わないの!?』という不満や怒りにつながっていきます。ですので、ミッション・ビジョン・バリューをつくった後には、必ずそれを浸透させる活動をセットで考えておいてください。また、それらをつくったばかりの段階では、従業員は疑心暗鬼の状態です。

これまで言語化していなかったため、『社長は本当にそんなことを、もともと考えていたのか?』、『自分たちの会社は、本当にそんな未来にたどり着けるのか?』などの不安に駆られていて、簡単に浸透することはありません。そんな状況で、経営者がやるべきことは一択です。それは自分自身にベクトルを向けること。

経営者自身が真っ先にミッション・ビジョン・バリューを実践し、自らに浸透させようとする姿勢を従業員に見せることで、覚悟や本気度が伝わる。徐々に従業員に浸透していきます。間違っても、『先に従業員に実践させる』ようなことはしないでください。従業員がそのような押しつけや強制感を感じると、浸透するものも浸透しなくなります」(161ページ)

渡部さんがご指摘しておられるように、ミッションをつくったら、経営者が率先垂範しなければならないということは、至極当然のことです。しかし、それが実践できないという事例は、私も、しばしば見かけています。私が、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、そのようなことが起きてしまう理由のひとつは、ミッションをつくったことで、経営者の方は安心してしまうということです。

すなわち、自分はミッションをつくったのだから、後は、部下たちがそれを実践すればよいと考えてしまうようです。しかし、ミッションに基づいた活動は、実践してみたら、考えていたようにはうまくいかないということもあります。そして、部下がミッションに基づいた活動を試みたのに、その結果が期待したようなものでなかったとき、もし、社長から批判されたりすると、部下たちは委縮して、もうミッションに基づいた活動はしようとしなくなるでしょう。

だからこそ、経営者の方がミッションに基づいた行動を率先して実行し、部下たちにお手本を示さなければなりません。そこまでしなければ、「社長は口だけで、自分はあまり行動しない人だ」と部下たちに思われ、ミッションは看板倒れになってしまうでしょう。さらに、もうひとつの理由として、ミッションを掲げたことに合わせて、体制を変更したりすることも必要です。「この度、ミッションを新たに策定したから、これに基づいて仕事をするように」と社長が叫んでも、ミッションをどう活かせばよいのか、また、そのミッションを活かす機会がなければ、事業活動は変わらないでしょう。

この具体的な活動にはいろいろなことが考えられますが、例えば、小集団活動を新たに始めてもらい、「ミッションを事業活動に活かすには」というテーマで、事業の改善に取り組んでもらうということも、ひとつの方法だと思います。こういった、ミッションを掲げたことに伴う対応を行わないことも、やはり、ミッションに基づいた活動の実践の妨げとなります。繰り返しになりますが、ミッションは、つくった時点ではスタートラインに立っただけの状態です。その後、それに基づいた活動が実行できるように、経営者の方が率先して活動しなければ、なかなかゴールに近づくことはできないでしょう。

2024/7/13 No.2768

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