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【読書感想文】伊坂幸太郎/ペッパーズ・ゴースト

★感想文
 2021年10月発売ということで、アフターコロナの世界を描いている様子だ。
物語のコアとなるのが、主人公の檀千郷(中学の国語教師である35歳男性)が他人の飛沫を受けると少し先の未来が見えるという「先行上映」の能力だ。父親からそういう能力を持っていることを言われてから、あえてそのような能力を使う方向で動いている。
 そのことから不思議に思った「サークル」のメンバーたちの思惑に巻き込まれていく、というのがストーリーの大きな流れ。

 並行して「ネゴジゴハンター」という教え子の生徒が描いている小説のストーリーが展開されていく。
 現実と空想が並行して進んでいく様はどことなく村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を連想させる。
加えて、筆者自身もあとがきで話している通りニーチェのツァラトゥストラの要素(永遠回帰など)が加わっている。

 そして興味深いのが、ストーリーの中のキーワードが「年間最多本塁打」など2022年のニュースを予言しているかのような出来事。

**ここからネタバレと感想**

 まずグッと来たのが父親から先行上映の能力を聞かされた時のシーン。
檀自身は幻覚なのか夢なのかわからない症状に悩まされていたようだが、それは父親も同じだったということ。
そして、父親は檀に笑顔で「また明日」といい、檀は「明日はこないよ」と言った。実際には、翌日に父親は亡くなったので檀は亡骸の前に立つことになるのだ。
 "自分が翌日に死ぬとわかっていながら、死に際に笑顔で息子を見送った"という儚くもいいシーンだった。

 次に「ネゴジゴハンター」のロシアンブルとアメショーが「サークル」のメンバーから監禁されていた檀の前に現れたシーン。途中まで「世界の終わりと~」のような雰囲気だったのに、「あ、二つのストーリーは交わるんだ!」と興奮した。
 そこからはもうロシアンブルとアメショーが主人公になったような感じで、ヒーローもののように進んでいく。前半の「冴えない主人公」との比較が面白い。(伊坂幸太郎の作品はそこまで読んだことはないが、ヒーローもののようにサクサク進んでいくほうが彼らしいイメージがある)

 最後に、「先行上映」では天童がホームランを打つ予定だったのが実際には空振りをしてしまったシーン。この時、観客席では犯人の野口が過去の爆弾テロが起きる間接的な原因を作ってしまったテレビ司会者、マイク育馬に銃口を向けている。
 ホームランを打つ予定のボールが投げられた時に突進した檀だったが、なぜか空振りをしてしまい、野口の隙をつくことが出来なかった。
 しかし、観客が野口を取り押さえた。なぜ未来が変わってしまったのだろう。少しコメディっぽい要素もあり、理由はよくわからなかった。

 こんな感じで感動する要素もありつつ、コメディ要素もありテンポがいいのでハードカバーで400ページ弱だったが、半日あれば読み終えることが出来る作品だった。
 コロナ禍だからこそ、アフターコロナを視野に入れた小説を読むというのは時代を先取りしているようで面白い。過去の作品はその時代の匂いを感じているようでそれはそれで"文学"の醍醐味なのだが、少し先の時代の匂いを感じ取ることが出来るというのも小説のいいところだと改めて感じた。


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★note
期間限定で立ち読みが出来たらしい

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