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【読書感想文】逢坂冬馬/同志少女よ、敵を撃て

*ネタバレを含みます。

第二次世界大戦中のソ連兵の物語。

 以前2022年本屋大賞を受賞したということでニュース番組に出演しているところを見たが、ちょうど2022年2月ロシアがウクライナに侵攻した直後ということで、"このようなことで注目されてしまうのは辛い気持ち"というような表現で作者本人がコメントしていたことを思い出した。

 物語自体は故郷を襲われた少女セラフィマが狙撃部隊に入り、仇を討つために鍛錬を重ね、実際に1942~1943年に戦いが起きたスターリングラード戦線へ向かっていく、というもの。
 最近だと登場人物の名前もあってか、進撃の巨人を読んだときの感覚に近い。(進撃の巨人はファンタジーだが)
 しかし、侵攻前に作成された物語ということで、ロシア・ウクライナ・ベラルーシやヨーロッパ諸国の関係も本来作者が伝えたかったこととは違う文脈で読者には伝わっていると思う。

 ストーリーとしては上官や同志がいて、仇がいて・・・倒すための大義名分のため自組織を利用して・・・というような王道な展開だが、描写が丁寧で読みやすい印象。
 400ページほどだが、ある意味結論(スターリングラード戦線で連合軍が勝利後、ドイツ軍の崩壊)をしているので、すらすらと読むことが出来る。

印象的だったものは、以下の二点。

①狙撃に関する学問
「弾道学」というものがあり、そんな学問があるのか?と思った。

 ちょうどこれを書いている日は終戦記念日(8/15)だが、戦争中の教育はこういうものがあったのだろうなと思うとぞっとする。もちろん今でも自衛隊などで存在するのだろうけど。数学、物理、歴史、色々な学問やその進化が戦争へつながっていくことの残酷さを改めて実感する。

②啓蒙
 
カザフスタンの遊牧民出身だった同志は、昔は「友人に会うために星を目印にして会いに行った」というのに、突然ソ連の人間たちがそのこと(原始的な文化)を許さず「啓蒙」として近代化を進めた、という内容も印象的だった。
 歴史というのは総じて「近代化」とか「融合」とかそういったことで侵略していく。日本も例外ではない。「侵略しないと自分たちが侵略されるから」といった難しい事情もあるが、平和な国に生きている身としてはやはり複雑である。

 あとは、対戦車向けの戦闘兵器として犬が利用されたり、拷問のシーンで爪をはがされるシーンがあるのだが、なかなか残虐・・・(それでも昔の小説のほうが残虐なシーンはあるのでマシかもしれないが。)

 とにかく複雑な気持ちになるし、なかなか読んだ後に前向きになれる物語ではないのだが、未来を作っていかなくてはいけない人たちにとって、こういったことから目を背けてはいけないことも事実。


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