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「過重労働」自体の責任を追及へ|迷想日誌

「労働新聞」紙上で報道しましたが、過労死などが発症していないにもかかわらず、「過重労働」を行わせただけで不法行為を認めた長崎地裁判決が下されました。同判決は、今後、広く影響を及ぼすことが考えられます。
要するに、過労死基準を上回る残業をさせた場合、安全配慮義務違反とされ、それだけで慰謝料などの損害賠償義務が発生する可能性が高まりました。

同判決のケースですと、原告の退職前2年間の残業時間は、ほぼ毎月100時間を超え、最長では160時間を上回る月もあったといいます。原告は、健診の結果、長時間労働による具体的疾病は発症していませんでした。

しかし、改善指導もせず放置していたことから安全配慮義務違反が認定され、「人格的利益」を侵害したとされたのです。この結果、不法行為を構成するとして、慰謝料30万円の支払いを命じています。

実は、同種の判決が平成28年に東京地裁から出されていました。
このケースですと、1年間にわたり月80時間を超える残業時間を続け、やはり何ら改善指導を実施しなかったことから安全配慮義務違反とされました。
労働者は具体的な疾患を発症したわけではありませんが、心身の不調を来す危険性のある業務に従事させたとして慰謝料支払いを命じました。

これまでの多くの過労死等裁判は、結果として脳・心臓疾患が発症した責任を追及するものでしたが、「過重労働」そのものが不法行為になるとする考え方が広く一般に周知されると、いたる所で訴訟になる恐れがあります。

つまり、漫然と労働者に過労死基準を超える残業をさせていると、その労働者が退職するときなどに、安全配慮義務違反として訴えられるということです。
過労死基準を超える残業をさせている「ブラック企業」は、たとえ全社員が元気でも安心できません。

労働新聞編集長 箱田 尊文

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