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写真集“Father”&某カメラマンとの邂逅

とても嬉しい出来事があった。

ある経営誌の取材が社起大で行われたのだが、同行されていたカメラマンさんとの後片付け時の余談でのこと。30年来愛好している写真集“Father”と、その写真家「橋口譲二」さんの話を何とはなしにした。すると彼の知己だと言われるではないか!30年間ことあるごとに見開き、多くの人にお節介でプレゼントし、お貸ししてきた橋口さんの写真集。いつかお会いしてみたい、そして社起大でも講演して頂きたいとずっと思っていた方。いくら検索エンジンで探しても全くコンタクト先の見つからない、幻の写真家だった。そのカメラマンさんは橋口さんに毎年お会いされているとの事で、今度機会があった時には声を掛けて下さると言ってくれた。なんたる僥倖!

ちょうど30年前、神保町の行きつけの書店で偶然手にした“Father”。まるでその本に呼ばれたかのように食い入るようにページを繰った。そして所持する写真集の中で、もっとも僕の価値観に影響を与えるものとなった。本書は日本全国津々浦々の112人のお父さんにロード撮影&インタビューを敢行したものである。中には有名人も含まれるが、あくまで1人の父としての存在。そこにはセレブリティとしての要素は皆無だ。この写真家の魅力は(他の写真集もそうなのだが)、ポートレイトに虚飾が無いことだ。その人が素の姿を表わす。そして過去から現在に至るその道のりも同時に感じられるのだ。経営的にいうとまるでバランスシートと損益計算書を同時に見るかのようだ。

 そこには客観性を担保しつつも、市井の人々への優しいまなざしがある。「個」「自由」「「平等」「ダイバーシティ」そして品格ある「PUNKスピリット」がある。ダイバーシティに関しては、その言葉が市民権を得る遥か昔から、橋口さんはその概念を思想の1つに据えて表現されていた。LGBTQ、障がい者、在日外国人、反社構成員といった人々も含めて。

 

40半ばを過ぎてからこの本を手にするのは、精神的にちょっと疲れた時が多かった気がする。この本を開くと、ニュートラルに戻れる。素の自分に。そして僕自身が父親になってからは、会ったこともない、一生会うこともないお父さん達との無言の対話が始まった。一冊の本との出会いは、人との出会い同様に、人生に彩りや深みを加えてくれる。


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