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エッセー 一茎の葦

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2021年9月の記事一覧

46:一茎の葦;グレン・グールドが愛読した夏目漱石「草枕」⑵

 明治日本の文人夏目漱石と、昭和生まれで西欧の天才ピアニスト、グレン・グールドが、互いに精神世界で共有した感覚は、ひとくちにいえば、芸術の世界で生きるためには、四角四面の世に、従っていくのは、いかにしても生き辛い、”してみると四角な世界から常識という名のつく、一角を摩滅して、三角のうちに住むのを芸術家と呼んでもよかろう”と考える。

 そこで、”ならばその一角を”摩滅して、三角の世界に住む”しかな

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45:一茎の葦;グレン・グールドが愛読した夏目漱石「草枕」(三角の世界)①

 ”山路を登りながら、こう考えた”。一人の絵師、日本画工が、とかく煩わしい世をのがれ、ひたすら画の世界に、つまり芸の世界に浸り切りたいという願いで画材を求めて旅に出て、山路を登ってゆく。道の途中でまず考えた、というのが「草枕」の始まりである。

 この画工、生来物を考え抜かねば気が済まないたち、つまり、かれもまた、考える葦のひとりで、引き続いて、その独自の胸の裡を吐露してゆく。

 かくして世に名

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44:一茎の葦;3角の世界

 20世紀の天才ピアニストとして世に知られ、なみはずれて気難しい、というより変わり者のグレン・グールドが、生涯愛読していたという夏目漱石の「草枕」彼はこの本の、どこがそれほど気に入ったのだろうか、漱石はすぐれた英文学者でありながら、漢文学、日本絵画、俳諧などに、なみなみならぬ知識をもち、かといって世俗の心象風景にも存分に眼が届く。その結果、この作品では、日本人でもやや嚙みこなしにくい文体と博識ぶり

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43:一茎の葦;詩、そして音楽

 前回音楽のちから、などという、大きなタイトルをつけてしまい、このあとどうしたものかと考えあぐねてしまいました。何しろ私ときたら音楽にはずぶの素人ですし、といって心理学者でもありませんから。

 思い返せば、1950年、初めての大学の夏休みに、アルバイトをしてもらったお金1か月分殆どはたいて買ったのが、バッハの「ブランデンブルグ協奏曲」のレコードでした。

 グールドはこよなくバッハを愛し、そのス

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