ゆとり&ポリバレント

「開いてますか?」
「ごめんなさい。今日はもう……」
「煙草は吸える?」
「今日はもう終わっちゃったんです」
「そうか。じゃあ、あんまりゆっくりはできないね」
「ええ」
「何時まで?」
「20時までなんです」
「そうか。ちょうど20時じゃないか」
「またゆっくりと……」


「アイスコーヒー」
「こちらでよろしいですか」
「1杯飲んですぐ帰るとしよう」
「ミルクは入れられますか」
「うん。この時計合ってるの?」
「はい」
「チャンネル変えていい?」
「何か」
「代表の試合やってないかな」
「ああ。ちょうどハーフタイムみたいですね」
「そうか。ハーフタイムか……」


(このあとは前半戦のハイライトです)

「来週雨降るかな?」
「どうでしょう」
「明日日の出は何時かな?」
「どこか行かれるんですか?」
「行くかもしれない」
「そうなんですか」


(間もなく後半戦のキックオフです!)

「灰皿あります?」
「ごめんなさい。もう片づけてしまいました」
「そうか。遠藤出てるかな」
「遠藤?」
「うん。遠藤」
「どの遠藤です」
「どのってあんた」
「すみません。あまり詳しくないんで」
「そうなの」
「ジーコでしたっけ」
「そりゃずっと前だよ。ロシア政権じゃないんだから」
「お待たせいたしました。アイスコーヒーになります」
「ありがとう。飲んだらすぐ行くから」
「ええ」


(このあと、いよいよ後半戦のキックオフ!)

「監督変わったんだよ」
「へー。よく変わるんですか」
「日本の大臣ほどじゃないけどね」
「ああ。そうなんですね」
「今頃になってね」
「大会は近いんですか」
「もうすぐだよ。ああ、あんまり興味ないんだっけ」


(このあと、いよいよ後半戦! ビッグ4集結なるか!?)

「成績がわるかったんですか」
「ゴタゴタみたいだね」
「衝突ですか」
「まあ色々あるみたいだ」
「どこも色々大変ですね」
「本当に大変なのは選手たちの方だよ」
「そうですか」
「と言うか迷惑なんだよ」
「はい」


(このあと、いよいよ絶対に見逃せない後半戦のスタート!)

「さっきまでゆとりだデュエルだ言ってたと思ったら、次の瞬間にはポリバレントだのグローバルだの、真逆じゃないか」
「うーん。真逆というのはちょっとわかりませんが」
「何? わからない?」
「……」


(このあと、いよいよ後半戦のキックオフ!)

「なかなか笛は吹かれないな!」
「待つと長いですよね」
「で、またポリバレントだと」
「ポリバレントですか……」
「ポリバレントで突破できんのかよ」
「じゃあ、まあ。お客さん、そろそろ……」
「うん?」
「もう、そろそろ」
「ああ。ごめんなさいね」
「いえ」
「マスター。ここは長いの?」
「まあそこそこ」
「10年くらい?」
「できたのは、ちょうどワールドカップがあった年でしょうか」
「へー。どこの」
「いやー、そこまでは」
「どこが優勝したのかな」
「……」
「そうか。この辺りにどこかゆっくりできるところないかな」
「確かではありませんが」
「はい」
「噂によると、駅裏から少し西に下ったところに姉妹が経営する古風な喫茶店があるとか」
「ふーん。駅の向こうか」
「ええ。まあ、あるらしいとか」


(このあと、いよいよお待ちかねの後半戦がキックオフ!)

「もうええわぁ!」
「……」
「もう、うそじゃないか!」
「はあ」
「何がポリバレントなんだよ。さっきまでお前なんていらないって言ってた奴が、今日になったら、お前は絶対に欠かせないって?」
「まあまあ」
「お前、ふざけんなよ! いったいどっちなんだよ?」
「じゃあ、そろそろ」
「何を信じたらいいんだよ、俺たちは」
「はい」
「国か、チェアマンか、協会か、スポンサーか、サポーターか」
「はい」
「うん? どうなん」
「……」
「俺は言葉だ」
「……」
「俺は言葉の自由を信じる」
「そうですか。お客さん。じゃあ、そろそろ」
「ああ。コーヒーも飲んだしもう行くよ」
「すみませんね。急がせたみたいで」
「いえ、こちらこそ」
「……」
「西だっけ?」
「はい。噂では」
「じゃあ、噂を信じて行ってみるか」
「ありがとうございました」


(このあと、ついに後半戦のキックオフ!)


AIが時計の針でしたためた
寓話に浮かぶさよならの味


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