【日記】無人うどん

 今日は食堂に行きました。一人で歩いて行きました。「おや。こんなところに食堂が」と前から思っていたところでした。前を通る度に関心はありながら店が開いているのを見たことがありませんでした。お昼前に通りかかると表に暖簾が見えたので、衝動的に中に入りました。表の暖簾は古びた情緒があったのに、中に入ると作り物のように整った明るい食堂でした。大きな画面のテレビがついていました。誰もいませんでした。何か嫌な予感がしました。


 しばらくして奥から「あっ」と言って女の人が飛び出してきました。メニューにあった肉うどんを注文しました。お店の人は注文を受けて店の奥へ姿を消しました。何か嫌な予感がしました。また誰もいなくなってしまいました。10分が経ちました。お客さんが入ってくる気配はまるでしませんでした。何か嫌な予感がしました。


 その時、店の奥からお店の人がお盆を抱えて現れました。

「お待たせしました」

 丼の中でうどん出汁がぷくぷくとマグマのように煮立っていました。うどんらしい香りはしませんでした。そして、また誰もいなくなりました。うどんはどこか林檎を包む白い物を彷彿とさせました。出汁は一口飲むとどこかしょっぱい味がしました。味のない肉。動揺して唐辛子を入れる余裕がありませんでした。


 どうも口に合わないうどんのようでした。もう一口飲めば、今度は美味しく感じられたかもしれない……。

 誰も店に入ってこない時間が妙に恐ろしく感じられ、出汁へと向かう勇気が出ませんでした。うどんだけをスパスパと啜って腰を上げました。明日はカトキチのうどんを食べようと思いました。


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