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グルメ街
肉の焼けるよい匂いが誘いかけていた。一人焼き肉もわるくない。思いながら前を通り過ぎる。結論を急ぐこともない。ここはそういう場所。数歩行けば逞しい力士人形が今にも勝負を始めそうな構えで手招いていた。一人ちゃんこか。わるくない。だが、ここだろうか。早まることもない。出会いはこの先にもあふれるほどあるのだから。和でも中華でも何でも揃っている。
穏やかに歩く内にひっかかる心の声を待てばいいのだ。早まった選択で空腹を埋める必要はない。決断に至るまでも大切な時間であるはずだ。それもある、これもある……。シズル感豊かなパスタが看板に渦巻いて見えた。その隣には高らかに手打ちを歌う名店らしきうどん屋の扉が見えた。一人麺類か。わるくない。わるくない。みんなもつれあいからみあいいがみあいいつの間にかおかしなことになってしまう。誰もわるくない。ただしあわせになりたいだけだったのに。まあ、そんなに急ぐこともないんだ。
「お気軽にどうぞ」
迷える旅人の背中をそっと押すような愛に満ちたポップに引き寄せられる。一人お好み焼きか。いいね。この辺でいいね。ここにしようか。ここにしよう。思いながら歩く内に君はグルメ街を抜け出した。
春の空気が何より美味しかった。
「うちにかえろう」
・
AIの
おかん調理を
待ちきれず
いまにあふれる
荒削り節
折句「エオマイア」短歌
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