PKフォー・ザ・ディナー
立て続けに2人が失敗してPK戦は不穏な空気に包まれた。
芝はめくれシューズは脱げ選手は転倒して気分が悪くなった。
「ボールを変えてくれ」
とりあえず変えられるものはボールくらいのものだった。
それでも流れは変わらなかった。気づけば10人も連続で外していた。蹴れば蹴るほどボールは大きく枠を越えて明後日の方向に飛んでいく。
「俺たちは悪くない」
なぜならみんなプロ中のプロであるから。
失敗を生む原因がこの環境のどこかにあるはずだった。ボールを変え、シューズを変え、みんなが顔色を変えた。しかし、結果だけがついてこない。いったいなぜ……。
「風向きを変えてくれないか?」
キャプテンの提案により俺たちは主審にサイドを変更してもらった。芝の状態も向こうよりはいいようだ。さあ、これで結果が変わる。そう思われたが、次のキックからも失敗の連鎖は途切れることなく続いたのだった。
「誰かが決めないと終わらないぞ」
俺たちは奇妙な自信喪失の中にいた。蹴っても蹴っても入らない。ある者はキーパーに優しくパスをするようだった。ある者は初めてボールに対したように上っ面を蹴った。誰一人プロ選手であるようには見えなかった。思い切った環境変化がなければ、この局面は変わりそうもなかった。しかし、俺たちにはもうこれ以上のアイデアは思い浮かばない。
その時、主審は突然笛を吹いてPK戦を止めた。
なんだなんだ、どうする。
「私はもう帰ってもいいかな」
どうやらディナーの約束が入っているらしい。
誰も主審に抗議することができなかった。
(誰がわるいのか。俺たちは少しナーバスになっていた)
「よーし。次で決めよう!」
そうだ。それはとても簡単なことだ。
次の一人だけ決めればこのゲームは終わる。
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