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しめの一杯(さよならラーメン)

 大繁盛店ということで少しは期待して入ったのだが。他人の味覚ほどあてにならないものはない。麺は輪ゴムを伸ばしたようなものだった。スープの方は泥水に塩を入れたものと変わりなかった。私は思ったことがすぐ口から出るタイプだ。
「カップラーメンの方が旨いね」
 大将の手が一瞬止まった。
「それを言っちゃあおしまいよ」
 よかった。心の広い大将のようだ。その人柄に打たれて私は箸を進めた。食えたもんじゃあなかったが、頑張って食べきった。
「お代は結構」
 せめてもの罪滅ぼしというわけか。
「ごちそうさん」
 客としての礼を尽くして私は店を出た。

「なんだあんたらは?」
 私は表で常連風の男たちに取り囲まれて、路地裏につれていかれた。
 この野郎!
 覚悟しろ!
 ひーっ! 勘弁してー!
 やっちまえー!
(それを言っちゃあおしまいよ)
 店主の言葉が思い出された。
 おしまいよー おしまいよー おしまいよー
 ああ、だまされた。
 これは口封じだ。


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